02-14:大事な話をしよう2
「……何にせよ、二人とも無事で良かった。被害は上着くらいだろう?」
「リアが倒れちゃいましたけどね」
重苦しい沈黙が続く中、場を立て直そうとするように口を開いたのはアルスだった。自分の言葉が想像以上に衝撃を与えた事を悔やんでいたらしいフレッドも、あえて明るく、茶化すように言う。
「だ、だよね。先生もリアも大丈夫だったんだし、そんな脅さないでよ」
「センセェも人が悪りぃな。マジな感じて言われたから肝が冷えたぜ」
「ハハハ、死にものぐるいで戦っていたら撤退してくれました。でも、強かったのは本当ですよ? もっと鍛えないと自分の身も守れないと痛感しました。一緒に訓練でもしますか?」
そりゃ良い、やろう、と盛り上がる三人。
レオナとザイードは取り繕っていることが分かる硬い笑みを浮かべてはいたが、気を持ち直したらしい。既に葬式をのような沈鬱とした空気はなく前を向いている。自分の身を守るためには、もっと強くなるには何をするべきかを考えているのだろう。二人の目は明るい。
報告終了、話し合いは終わりという流れになっている。
だが、リアにはもう一つ話したいことがあるのだ。
今、このタイミングで話すべきだと思いながら、出会って間もない“魔物狩り”に打ち明けて良いものかと揺らぐ。フレッドは口を噤んでくれている以上、この場で打ち上げるのは軽率ではないか、と。
生唾を飲み、何度目になるかも分からない自問自答を繰り返す。
今回はフレッドが誤魔化してくれたが、次に黒ローブと相見えた時にはどうする。他の強力な魔物と遭遇した時も同じだ。持てる力を全て使いもせずに“魔物狩り”のメンバーを見殺しにすることなど――リアにはできそうにない。
とすれば、いずれ秘密は露呈する。
それまでに嘘を重ねていれば、不信感に繋がるのではないか。
「あのォ……聞いて欲しいことがあります! 出来れば皆さんの心の中に仕舞っておいて欲しいんですけど!」
緊張のあまり裏返った声を無視して、リアはメンバーをぐるりと見渡す。
リアが突然こんなに大きな声で語りだすとは思っていないかったのだろう。加えて内容も、聞いて欲しいが心に仕舞っておいてくれという無茶なもの。
全員が驚きも露わにリアを見ていた。
「私、その……魔術適性がありまして。ドカーンと爆発とかは無理なんですけど、ショボい魔術はちょっとだけ使えたり、します。隠しててごめんなさい。出し惜しんでいた訳ではなく、役に立たないっていうか――」
「言って良かったんですか?」
「……皆さんに隠すのも、嫌なので」
「では、私から補足を。黒いローブの襲撃者を撃退できたのは、リアの力もあってです。私は防ぐのに手一杯、魔力の残量を考えればあとニ、三発食らえば危険でした。リアが魔術で攻撃を止め、驚いている相手の利き腕を射たことで相手は逃げたんです」
「それは――買いかぶりすぎです。フレッド先生が受け止めてくれたから出来た事で。私はあれだけで魔力切れを起こしてしまいましたし」
「ふふっ、そういう事にしておきましょうか。リアが隠していたのは、妙な連中に目をつけられたくなかったから、ですよね?」
「はい。なので、勝手なお願いですけど黙っていて頂きたいなと。ロクな威力も無いので普段は魔術使いませんし……」
フレッドはリアが秘したいと願った理由を言うまでもなく理解していた。
言葉を交わすリアとフレッドの姿を眺めるザイードも納得した顔をしていたが、レオナは頭の横に「?」を浮かべた状態。アルスは表情を変えていないので何を思っているか分からない。
「ねぇ、魔術が使えるって隠さなきゃいけないことなの?」
「レオナよぉ、お前、魔術師見たことあるか? 無いだろう?」
「は? 言ってる意味が分からないんだけど?」
「必要なのに冒険者の魔術師ってのは少ねぇ。なら、魔術師はドコに居る? 大抵が国や貴族のお抱えだ。魔術部隊なんてのもあるし、側使えみたいな顔して護衛にも使われているらしいぜ。俺も見たことねぇけどな」
嫌悪感が滴り落ちるような口調だった。
王侯貴族が抱え込んだ優秀な魔術師をパーティーで見せびらかしている間に、魔術師がいれば防げた魔物によって作物や人が傷つけられる。村が滅ぶ。仲間が死ぬ。
それでも彼らは金品を庶民に貸し与えないのと同じく、手持ちの魔術師を派遣することも無い。この現状に怒りを覚える者も――特に魔物による被害者、戦いを生業とする者には――少なくない。
「ザイードは詳しいですね?」
「傭兵なんてやってりゃな。一部のお貴族様の間じゃ、魔術適正のある奴を集めることがステータスなんだろ? 戦力価値は無いレベルでも、囲って適正持ち同士で繁殖させようって奴らもいンだろ? 嬢ちゃんが隠したいと思うのも当然だ」
ザイードは魔術適正持ちが家畜のように扱われることに、貴族以外は人ではないと振る舞う人々にも怒っていた。囲われている側もまた、金と特権のために自らの尊厳を放棄したように思える。飢えから逃れるため、家族のため、攫われてやむを得ずなど各々に事情があることも理解しているが――やるせない。
ザイードとはそういう男なのだ。
「私はリアを売らないからね! 拷問されても言わない!」
嫌悪に満ちた批判派の意見を聞いたレオナは力強く宣言する。囲い込まれ望まぬ行為を強いられるリアを想像したのか涙目だ。リアはがっつりと握りしめられている腕の痛みに耐えつつ、苦笑とともにレオナを宥めるしか無い。
「そこまでしなくて良いです。拷問される前に言いましょう」
「ダメ! 絶対ダメ!」
ボルテージの上がりすぎたレオナに若干引いてしまったリアである。
酔っているのかと疑ったが、周囲に酒らしいものは見当たらない。間違いなく素面、と結論付けた。
自分のことを考えてくれているのに申し訳ないが、そっとしておこう。
「嬢ちゃんは、囲われるのが嫌で隠してるんだよな?」
「はい。お断りしても通じないとか、怖い話も聞くので……」
「ならオレも言うことはねぇよ。安心してくれ」
「俺も仲間を売るような真似はしない。……話が戻るが、襲撃される危険があるのならば魔物討伐以外の仕事を受けたい、パーティから抜けたいと思う者はいないのか?」
そういう考え方もあるのか――リアはお礼を言うタイミングを逃すくらいに衝撃を受けた。
冒険者ギルドの依頼には魔物以外の納品も、護送や配達なんてものもある。迷宮に行くという手もあるのだ。アルスの言う通り危ないから別の仕事をと考えることだって、十分に有り得る。
「アルスはどうするつもりですか?」
「俺か? 俺はこのままだ。魔物を狩るくらいしか能もないし、御大層な人間とは関わり合いたくないからな。だが、皆にまでそれを押し付けるつもりもない」
「隊長、それ、本気で言ってますかね?」
ザイードの後ろに炎が見えた気がしてリアは目をこすった。
何度かパチパチと目を開閉すれば幻覚は消えてくれたものの、ザイードの怒気は本物である。
「オレは弱いかも知れねぇけど、狂信者の影に怯えて仕事が出来なくなるようなタマナシじゃない。ついでに目を付けられてんなら、今更抜けたって遅いだろ? 魔物ぶっ殺しながら強くなるしかねぇじゃん」
「タマは無いけど同意。頼まれたって辞めないからね?」
「私も皆さんと一緒に戦いたいです」
私もそう思っていますよ、というフレッドの言葉に頷いたアルスは嬉しそうに見えた。
話し合いの後“魔物狩り”はそれぞれ休息に入った。
レオナは倒れるように眠り、ザイードとアルスは体を動かしに行った。居間兼男性陣の寝室として使われているスペースに残ったのはリアとフレッドの二人。
「少し聞きたいことがあるのですが、良いですか?」
話し合いの場では笑顔でいたフレッドだが、今はどこか思いつめたような顔だ。
困惑したままリアは頷いた。
「貴方は魔術を使えると言っていましたが、昼間に使っていたのは魔術ですか?」
「はい。ですけど、やっぱりショボいですよね?」
「いえ、そういうことでは。……ただ、私には魔術師の友人が居るのですが、貴方のそれと全く別物です。レオナが言った詠唱にも不思議そうな顔をしていましたよね? 補助具を持っているようにも見えません。どういうことなんでしょう?」
聞かれてリアは困り果てた。物心ついた時からこういうものだと習ってきたのである。詠唱が必要になるのは大魔術――自分に関係のない広範囲殲滅魔術などだろうと思っていた。そもそも補助具が何かさえ分からない。
眉を寄せたリアを見てフレッドもまた困り果てたような顔をした。
「おそらく私と貴方には大きな認識の違いがあります。もしも言いたくないことがあれば、首を振るなりして拒否して下さい。深入りはしませんから。まず、貴方に魔術適性があると分かったのは何故ですか?」
「祖母――と言っても血は繋がっていない育ての親ですけど。祖母が魔術師だったので分かったようです。魔術も祖母から習いました。あと、補助具ってなんですか?」
「杖、が多いでしょうか。それ以外に指輪やピアスなどもあるようです。私も構造については詳しくないですが、体内魔力と空気中の魔素との媒介、魔術をより効率良く行使するための魔道具という印象です」
「……使ったことありませんけど?」
リアの言葉にフレッドは呻きながら頭を抱えてしまった。
「えーと、私、そんなに変ですか?」
「魔術の行使には補助具と詠唱が必要、というのが一般的な認識のはずです。なので、貴方が見せた力は……魔術ではないのかもしれない。少なくともこの国の認識では。この意味が分かりますね?」
フレッドの反応から何かある、とは思っていた。
しかし、魔術ではないと言い切られても困惑するしかない。ずっと自分の使っているものが魔術だと思っていたし、それ以外の方法を知らないのだ。
リアにとっての詠唱はどういった現象を起こすのかを明確にするため、自分へ言い聞かせるための言葉である。燃費は悪いが、口に出さずとも魔術は使える。
「貴方やザイードが言うように魔術適正持ちは目を付けられます。しかも、貴方は体一つで低威力とは言え魔術を行使できる。助けて頂いた私が言うのも妙な話ですが、決して人前で行ってはいけません。私だって仲間がある日を境に消えるのは嫌です」
真剣すぎて剣呑ささえ感じさせるヘーゼルの瞳に、リアは顔を青くして頷くことしか出来なかった。
作者、右人差し指を骨折しましたorz
キーボード打つたびビィィンとなりまして、、、明日〜23日まで更新をお休みさせて頂きますm(_ _)m
24日(火)から22時に復活予定です。
読んでくださっている方、申し訳ありません!




