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02-03:討伐巡りの始まり

 ――ガシャコン、ガシャコン。


 背中から聞こえる賑々しい音にげんなりしながら、リアは全身に【強化】を巡らせて駆けている。


 リアが走る騒音と化している原因は、女将さんが現役時代に使用していたという“野営キット”である。高価な武器や魔道具の類でもないし、少々嵩張ってはいるが【強化】を使えば苦にならない重さだ。四、五人で動くにあたって便利であることは間違いと有難くお借りしてきた。

 しかし、大きな背負い袋からリズムを刻むように金属音が響き続けるとなれば、早まったかなという後悔の年が湧き上がってくる。


 こうならないように、出発前にきつく縛っていたはずなのである。

 出発後しばらくは音がしかなった。駆け続けていることで緩んできたらしい。休憩時に結び直せば良いと思っているものの、いつ休憩になるのだろうか。


「長駆っ……!」


「じっくり周囲を見ながら進みたいですよねぇ」


 横を見れば、今回始めて一緒に動くフレッドが一つに括った赤毛を揺らしながら笑っていた。リア達は軽く【強化】をして、馬でいうところのトロット(速歩)感覚で駆けている。速さも馬のそれと同じくらいだ。


 全力疾走ではないが、それでも誰しもがこの速度で長々と駆け続けられるわけではない。魔力を使って行う【強化】でも、体を動かす以上は体力も必要になるのだ。強く【強化】を掛けられるほどの魔力があっても、体力や筋力がなければ体は壊れてしまう。片車輪で動くものではないのだ。


 魔力を使って外部へと働きかける事のできる魔術師は、体力を上げる必要がないから【強化】メインの肉弾戦に弱い傾向にある。

 フレッドも筋骨隆々と言うよりは華奢と称したい体つき。肉体よりも頭脳を使う方が得意そうに見えたのだが、平然と同じ速度で駆けている。リア以上に大きな袋を背負っているのに余裕さえ見える。


 さすがBランク、とリアは仲間内で「先生」と呼ばれている男を見た。


「その割には余裕そうですね?」


「山で狩りをしていましたから、このくらいなら」


 苦手だとは言っていない。

 リアはガシャコンガシャコン喧しい背中の荷の、紐を締め直したいだけである。


「……日暮れまで走れ、ってことはないですよね」


「その前に目的地に付きますよ。それにしても……Dランクで、この速さで楽々と走れるなんて珍しいですね」


「えぇっ! 私までからかわないで下さい。前に兎狩りに行った時は、もっと速く走ってましたよ?」


「その後にビッグラビットを狩って、ついでにメタルベアとも戦ったんでしたっけ。言っておきますが、Cランクだって移動だけならば可能でも、その後に戦うのは無理という方が多いくらいですよ?」


 個人差はあるが、体力も魔力も鍛えれば伸びる。職業柄【強化】が必須と言える兵士や冒険者は武器の扱いに長けているだけではなく、大直と魔力についても一般人よりも鍛えられているのだ。

 兵士や冒険者などが“体力お化け”や“人外”と称されるのもそのためである。


 だたし、どの程度鍛えられているかという話になれば差が大きい。

 冒険者としての目安は一般人と大差ないEランクで平常時の一.五倍くらいの力を出せる程度。Cランクにもなれば最低でも二倍以上の【強化】が可能だろう。でないと魔物相手に話にならない。


 しかし、それはあくまでも戦闘時に瞬発的に出せる力の話である。

 現在“魔物狩り”は一般人にとっての精一杯である一.五倍の【強化】で駆けている。移動日ではなく、村に到着後は魔物と戦うという予定であるのに、だ。

 討伐のために十分な余裕を残せる【強化】を一.五倍程度としているのである。


「彼らにも言いましたが、自分達を基準に考えない方が良い。要らぬ恨みを買いますよ」


「……気をつけます」


 仲間ができず孤立していたリアにとって、体力や【強化】の基準は曖昧だ。

 自分がついていけているのだからフレッドの物言いは大げさではないか、一瞬そう思ったが、ラボルで苦戦していた少年少女たちを思い出すと自信が無くなる。

 とりあえず育ての親、ルミナに感謝しておこう。


「あっ! フレッド先生、あそこがベル村ですか?」


「ふふっ、そうですよ」


 小さいが家が固まっている一角が見える。

 最初の目的地である、ベル村。

 アルカクの北東、森の入口に近い小さな村である――とは聞いていたが、リアが想像していたよりも更に小さな村だった。村というよりも集落もしくは部落と呼んだほうがしっくり来る。


 観察しながら駆け続けていると、ベル村との距離はぐんぐん縮んでいく。近寄ってくる余所者の姿に気付いたのだろう、警戒したようにこちらを見ている村人が居ることも分かった。


「ここはベル村で間違っていないか? キラースネークの依頼を受けて来た」


 村の入口まで少し距離があるという所で、アルスが村人に声をかけていた。

 怒鳴っているわけではないが、不思議とよく通る声だ。村人が村の中へ駆け込んでいったから、間違いなく声は届いていたのだろう。


 少しずつ【強化】を弱め、スピードを落とす。

 リアが村の入り口に到着したのとほぼ同じタイミングで、村の奥から男性が走って来た。肩で息をするくらい全力で。


「ぼ、冒険者の方でございますか? あっしは依頼主の村長の息子で、グラッジと申します。親父は腰をくじいちまってて、その、完了のサインは後で持っていきますから」


 息を切らせているだけではない。

 グラッジは怯えた目をして、腫れ物に触れるような態度で話している。アルスは依頼書を見せながら、グラッジという男性に話しかけている。言葉は丁寧であり、特に威圧している様子もないが、グラッジの怯え方は異常である。


「出没場所と数を教えて欲しい」


「ヒッ……か、数は、一匹だと思います。春祭り用の兎を丸呑みされたって奴がいまして。それより冒険者様、きゅ、休憩場所をすぐにご用意しますので――」


「いや、出来ればこのまま向かいたい。場所は説明して頂けば分かるような所だろうか?」


 アルスは平常運行、いつも通りに淡々と言葉を述べている。

 端正な顔で表情が薄いという特徴から、アルスは冷たそうに見える。

 しかし、それだけだ。暴力的な雰囲気もなければ、時折リアが感じる瘴気のようなものも今は全く感じられないはず。助けて下さいというには勇気がいるかもしれないが、依頼を受けきた相手だから質問されたことに答えるだけで良い。

 はずなのだが――。


「ば、場所は……森との境目の方でごじゃいます。ま、ま、疎らに木の生えている辺りで」


「もう少し詳しくお願いできますか?」


 見かねたフレッドが落ち着いた声で口を挟んでも、聞こえたのはヒッと息を飲んだ音だけ。村を代表しているはずの男は泡を吹くのではないかというくらいに怯えている。


「冒険者ってさ、結構荒っぽいし、ならず者みたいなのも多いんだよ。実際にそういうのに遭ったか、噂を聞いたか知らないけど、迷惑なことに冒険者ってだけで怯えられることもあるんだ。とばっちりだよ」


 あんまりな怯え様に悩むリアに、レオナが小声で理由を教えてくれた。

 それならば、とリアは前に出る。

 ガシャガシャと背中から金属音がするが、仕方ない。


「あのー、グラッジさん? 私達この辺りに詳しくないんです。この森結構大きいでしょう? 目撃場所とか、魔物が出そうな場所の目印ってあります? 分かりにくいなら近く、あっ、勿論安全なところまで、案内して頂けると助かるんですけど」


 背の高い三人の後ろに居たせいか、全く認識されていなかったらしい。

 グラッジは忙しなく瞬きしながら、ぽかんとした顔で突然口を挟んできたリアを見た。


「……えーと、お嬢ちゃんも冒険者で?」


「そうです。それでですね、場所、教えてくれますか?」


 認めるのは癪だが、リアは実年齢よりも子どもに見られる。

 ついでに“魔物狩り”の四人と比べれば平凡で、良く言えば純朴そう、悪く言えば田舎者っぽい。強そうにも見えないはずだ。村人達にとっては親近感のある部類だろうと思ったのである。

 案の定、怯えの色は大分薄くなった。


「……口で上手く説明できねぇから、分かるところまで案内するよ。でも、それっぽいのを見たってのは何日も前で、影を見たかもって奴もいるけど今日の話じゃないから」


「出てこないなんて文句は言いませんよ、魔物だって動いてますもんね? 案内、お願いします」


 グラッジの先導で“魔物狩り”は村を通り抜け、更に進む。

 木々が延々と連なっている森は村の入口からでも見えていた。森に近付くにつれ人の手の入った場所は少なくなり、自然のままに雑草が生い茂った景色が増えていく。


(自由区の外れよりもずっと森らしい)


 森と村の境界が近すぎやしないかとリアは心配になったが、グラッジの説明によると湧くのはE級以下の魔物が大半であるらしい。ちょっと怪我をすることはあっても、死者が出るほどの被害は滅多に無い。

 魔物は滅多に森から出てきませんし、と村長の息子は語った。


「あの辺り、折れた木のある近くで見たそうです。それっぽい影を見たってのは、この道から森に入って左側です。どっちも森の奥じゃなく、手前の方で。村にまで来られたら大変だと思って、お願いしたんです」


「分かりました、ありがとうございます。グラッジさんは村に戻っていて下さい。探してみますので」


「どうか、お願いします」


 ペコペコと頭を下げながら、来たときよりも素早く進むグラッジの背を見送る。自分たちでは倒せないような魔物とお会いしたくないのだろう。

 いや、リアが喋り始めてから緊張が和らいだように感じられたが、冒険者というならず者の親戚みたいな存在と一緒にいるのは嫌だったのかもしれない。


「……助かった。お陰で話が早く進んだ」


「アルスは無難なはずなんですけどね。私達はそんなに怖いんでしょうか?」


「先生は怖ぇよ。それに私なんて女なのに、前に悲鳴あげられたんだよ」


(話しかけた相手が女性なら、その悲鳴は違う意味なのでは?)


 思ったが、言うのは躊躇われてリアは口を噤んでおく。

 ザイードも自分の外見や大きさを分かっているのか、ノーコメントを貫いていた。


「さて、愚痴を言い合うのはこのくらいにして、と。蛇を呼んでみましょうか。キラースネークだけが出てくるとは保証できませんけど」


 嬉しそうな顔をしてフレッドが自分の荷物をかき回し始めた。

 ニコニコともニンマリとも受け取れるような表情の彼を見て、リアは狐を思い浮かべた。動物の狐やキツネ系統の魔物ではない。物語の中に登場する、人間を騙してしまう賢そうな顔のやつである。

 怪しげな仲間を横目に、リアは“野営キット”を括り直すことにした。

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