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02-01:冒険者ギルド1

 脱いだ直後の靴の臭いを撒き散らしたような――。

 リアが感じる混雑時の冒険者ギルドの臭いだ。

 ざっくばらんに言えば、臭い。


 納品所ではなく下区の冒険者ギルドへと立ち入ったのはアルカクに来てから二度目である。一度目に訪れたのはアルカクに来てすぐ拠点登録の変更に訪れた際で、その時は人が少なかったせいかここまで臭くなかった。

 今感じているそれを薄めたような臭いはしていたが。


「これでお手続きは完了です。パーティの脱退は今回と同じくリーダーの方と御本人の同意が必要ですのでご注意下さい。また、パーティの過半数から申請があった場合は……」


(意外と背が高いんだよなぁ……)


 受付担当の男性の言葉を聞き流しつつ、リアは隣に並んでいる男を横目で見る。自分の頭の天辺が、相手の肩も届いていないのは気の所為ではあるまい。あまり大きいと考えたことがなかったのは、周りが背の高い人ばかりだったからか。


 悪臭から気を逸らすために、どうでも良いことを考える。


(そういやレオナさんだけじゃなく“魔物狩り”全員、体臭って感じないなぁ)


 リアは“魔物狩り”と三度、近場に魔物を狩りに行った。

 必要以上に密着したわけではないが、臭いと思ったことはない。今だって隣に立っている男からは冒険者ギルドに充満している、饐えた獣臭さとでもいうべき臭いは漂ってこない。一部の人間が臭いだけなのか、自分の周りの人達が臭くないなのか、気になる。


「――契約事項や罰則の追記は必要ですか?」


「こちらからはない。……何かあるか? リア?」


「ふぇ! ないです! えぇっと、無くても大丈夫ですよね?」


「えぇ。ではギルドカードをお返しいたします」


 返却されたそれはギルドカードとは呼ばれているが、実際はタグ、兵士が付けている認識票を一回り大きくしたようなものである。冒険者ギルトの魔道具に通すと色々な情報が読み込まれるらしい。

 無駄に高性能な魔道具と言えなくもないが、パッと見は外見は非常にシンプルな銀色のプレートだ。それでも変化はある。

 帰ってきたリアのギルドカードに刻まれていたのは――。


 《リア(D★) 魔物狩り アルカク》


「おぉ! パーティ名が載ってますね」


「あの……本当に“魔物狩り”から変更されなくて宜しいですか?」


 丸暗記した内容を暗唱していたような受付男性が、恐る恐る口を開いた。

 マニュアル以外の言葉も喋れたのかとリアが驚く横では、意外と背の高い男――アルスが首を傾げる。


「このままだと、何か、問題が?」


「ぃいいいえ! ただ、皆様パーティ名は目標や得意なことに関連付けていらっしゃいますから……」


「それなら良いでしょう。魔物ばかり狩っていますから」


 このあたりの事情について女将さんから聞きかじっている。

 受付男性はマイルドに言ったが、冒険者達のパーティ名というのは“閃光の刃”や“蒼穹の剣”など雰囲気重視で意味深なものが多い。Aランカーに付けられる二つ名をイメージしているらしい。リアは残念な印象を持ってしまうが、大半の冒険者にとってはカッコイイのだそうだ。


 冒険者ギルド内でも「格好良いパーティ名を」という風潮はある。各地の冒険者ギルド支部同士の会合などの際に、自地域のパーティについて語る時などにはカッコイイ名前を言いたいから、と。

 当初アルス達は箸にも棒にもかからないと思われていたから“魔物狩り”で登録出来たが、有望視されるにつれてパーティ名を変えてはという声が上がっているそうだ。

 勝手なものである。


「では、これで」


 なおも何か言い募ろうとしていた受付の男性をバッサリと切り捨てアルスは踵を返す。リアもアルスに倣うように反転して人混みを避けるように歩き、受付から距離を取ることに専念した。

 受付待ちで並んでいる人。

 パーティメンバーを勧誘しようと周囲の人を見定めている人。

 不躾な視線にげっと呟きそうになるのを避けて進めば、依頼が張り出されている掲示板の前にザイードとレオナを見つけた。


 ザイードは褐色の肌に、ほぼ黒に近い髪。しっかりとした筋肉質の体に、野性味と愛嬌を兼ね備えた顔立ちが特徴だ。リアは狼に似ていると常々思っているが、一般的には男前の部類に含まれているらしい。

 レオナの方はすらりと背が高く、金髪に濃い青の目。女性ではあるが、物語に登場する王子様もしくは貴公子を現実化したような姿をしている。ファンだと公言する女性も珍しくはなく、すれ違った女性から熱い視線を向けられることがある事も知っている。


 更に、アルスが標準もしくは少し小柄に見える程度には二人共背が高い。

 ザイードは多くの人が居る中でも頭が飛び出して見えるし、女性であるレオナも周囲の男達とあまり変わらない。リアのように人に埋もれることがないことも相まって、二人共、嫌でも目立つのだ。

 二人揃って立っていれば待ち合わせ場所になりそうなくらいに。


「隊長、遅いッスよ!」


 アルスが“魔物狩り”のリーダー。仲間内では隊長とも呼ばれている。

 緑がかった茶色という不思議な色の髪が特徴的な男だ。目立つ二人と並んでいるせいか、変わった髪の色以外の印象は薄いのではあるが、アルスも美男と呼ばれる部類に入る。表情も薄く作り物めいてはいるが。


 この三人に今日は居ないフレッドという赤毛の男――やっぱり見た目は良い部類に入る――を入れて四人が、リアが加入した“魔物狩りのメンバーである。


「ようこそ“魔物狩り”に!」


「何回か一緒にやってっから、今更感があるけどな。これからは報酬から二割くらい差っ引くから覚悟しとけよ、ガッハッハ」


 雲の切れ目から顔を出した太陽にも似た、周囲を照らしそうなレオナの笑み。普段は見せないのであろう表情に、周囲の冒険者がざわついている。

 ザイードの笑みが真夏の太陽みたいなのは常日頃のことなので気にする者は少ないが、それでも初めてお目見えしたであろう数人がぎょっとしていた。


「良さそうな依頼はあったか?」


「ぼちぼちですかねぇ。二人も見てみて」


 リアは言われたとおりに掲示板を見ようと爪先立てみたものの、確認できた討伐系の依頼は二件だけだった。その内容も――。


 《キラースネーク退治(推奨D以上):五〇〇〇ペンド》


 《アーミースパイダー退治(推奨D以上):一五〇〇〇ペンド》


 と良さそうな依頼とは言い難いもの。

 五千ペンドを五人で分けたら千ペンド。最低ラインの安宿に三日泊まれるかどうかという金額。アーミースパイダーの方は報酬が三倍だが、相手は軍隊(アーミー)と付くように群れで動く魔物だ。時には地面が動いているように見えることもあるそうだから、魔術師が居ない場合だと体力と気力の消耗が凄まじいと想像がつく。


 貼られている依頼書はもっと多い。

 だが、ほとんどが人の影になってしまっていてリアからは見えなかった。人が動いた隙に読むか、あの中に割り込んでいかないと駄目らしい。せっかく“魔物狩り”に囲まれて悪臭が和らいでいるのに。


「何か気になる――」

「アァァ、アルスさんっ! 依頼はもう決められてしまいましたかッ」


 気になる依頼はあるか、と言いかけたアルスの言葉は焦りに満ちた女性の声に遮られた。見ればギルド職員らしき女性が、淡い栗色の巻き毛を揺らしながら小走りでギルドを横断してくる。


 二十歳になるかどうかという、若い女性だ。

 リアとさほど変わらないほどに小柄ではあるが、発育の良い部分が目立つ。周囲の冒険者の視線が集まっているのはギルド嬢が小走りだからか、髪よりも揺れる立派な双子山のせいか。舌打ちが聞こえたような気がするのは“魔物狩り”へとギルド嬢まっしぐらだからか。


「はぁっ……皆さん、お揃いで、受ける依頼は決まってらっしゃいますか? 指名ではないんですが、お願いしたい件がありまして。見るだけでも見ていただけませんか?」


 遠い目をしながらリアが物思いに耽っている間に彼女は目の前まで来ていた。余程気が急いているのか、荒い息のままで要件を一気に述べ、返事も待たずに彼女は依頼書をピンと伸ばして差し出した。


「随分慌ててンなあ。ヨアンナちゃんの担当か?」


「……お受けしたのは別の支部で。ですが、C級依頼ですから実力的な部分での問題もありますし、素行の悪い方を避けたいという配慮がありまして」


 見せるものを見せて落ち着いたのだろうか。頬を赤く染めたギルド嬢、ヨアンナは急に声を潜めて話し始めた。あれだけ大声で呼びながら走ってきて今更感もあるが、内容を考えると小声て正解だろう。


「オレ達はCランクだし素行も保証はできねぇぞ?」


「皆さんなら間違いありません! 読んでみて下さい」


「……ふーん、ナイトベア退治? ゴブリンナイトみたいに剣持って戦う熊か?」


「違いますよ。見た目は熊、グリズリーに近いんですけど、肩がこうムキッとしていて魔物です」


 ヨアンナが身振り付きで肩のムキッと具合を表している。

 肩を張って胸を反らせるようにしたせいで、形の良い二つの膨らみが更に強調されている。依頼書を見ていたはずの冒険者がヨアンナの一部分を凝視しているのだが、本人は全く気にしていないのは慣れか。いや、気付いていないのかも知れない。

 天然ってこういう人のことを指すのかな、とリアは遠い目のままで考えた。


「見せてもらっても良いかな。……ふぅん、悪くないな。ねぇ、ヨアンナ。私達が前向きに話を聞くとして、ここで相談になるのかな?」


「あっ! 申し訳ありません、ブースにご案内させていただきます! こちらへお願いします!」


 口を手で覆いながら、バツの悪そうな顔をしているのが可愛らしい。

 むくつけき冒険者たちも凝視するだろうな。リアが勝手に納得して一人で頷いていると、ヨアンナに怪訝な視線を向けられてしまった。これは女将さんの言っていた“魔物狩り”に加わることに対しての非難とか弾劾とかの前触れだろうかと思わず身構えた。


「あの……失礼ですが、そちらは」


「今日からうちのパーティに加入してくれた。リアという」


「あぁっ、ご、ごめんなさい! 焦っていて挨拶が遅れてしまいました。職員のヨアンナと申します。“魔物狩り”の皆さんにはお世話になっていますので、リアさんも、これから宜しくおねがいします」


「いえ、こちらこそ……」


 毒気を抜かれるとはこの事である。

 焦ったのか言葉が少し乱れているが、ヨアンナにそれ以外の感情は見えなかった。ピュアな瞳で謝罪されてしまえば、リアは慌てて会釈するしか無い身構えていた自分を殴りたくなったほどである。

 ニコニコとブースへ誘導する彼女の背に、心の中でごめんねと呟いた。



今更ですが、1ペンド=10円くらいの感覚です。

現代日本よりも食べ物や人件費は安め、服や娯楽品などは高めの設定になっております。

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