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02:遠い春くすむ青 1/3



サヤコは始業式には出なかった。


止められたのか、出たくなかったのはどっちでも良いかもしれないが。


そのお陰か、体育館に集められた時こそは大騒ぎで、その時だけはD組は注目の的だったが、サヤコがいない事が分かった他クラスや他学年の野次馬達はガッカリとしたような雰囲気で、そのまま校長の有難い話をみんなで仲良く上の空で聞いていた。


「あったあった!これだ!」


女子サッカー部の部室(といっても空き教室にロッカーを置いただけの簡易的な部室)を我が物顔でカナエは今朝ボクが汗だくになりながら持ってきた雑誌をアチコチにおおっぴろげる。


「凪田センパイ達のクラスにさやこすいるなんてちょー羨ましいですよ〜、ウチのクラスのホームルームも担任の話そっちのけで、さやこすの話題で持ちきりでしたよ〜」


女サカのカナエの後輩が呑気にそんな事をよく言う。今朝に起こったあの出来事を知らなきゃそうだよな。三年D組以外の錦宮坂の生徒は皆そう思っているのかと想像するだけでもゾッとする。サヤコと同じクラスってだけで注目されるなら、サヤコなんて……いや、そもそも、わざわざ好き好んでこんな所に転校してきて、自業自得でないだろうか、そしてボクらを巻き込まないでほしいような。


今日の予定は始業式と、新しい先生やらクラスメイトの顔合わせぐらいで、体育館から教室へ戻ってくればそのまま帰りのホームルームが始まった。時計は10時を指していたが、ボクの左斜め前の席はぽっかり空いたままだった。『なんでアイツ戻ってこないの?』などと空気の読めない事を聞く男子もまぁいたが、立花先生は『体調が悪いのよ』と適当にはぐらかしていた。本来は今日中に自己紹介や学級委員やら係決めをやるべきだったろうが、一人は行方知らずだし、一人は泣き腫らしてそれどころではなさそうだしで、居心地の悪そうな立花先生は、さっさとホームルームを終わらせ解散させた。


渋々身支度をして帰り出すD組の生徒達と、ホームルームを終えた他クラスの生徒がサヤコ目当てにD組にまたのぞき見に来たりしているのを横目に、とりあえず、来た時よりも圧倒的に軽くなったカバンを肩にかけて今朝の出来事についてカナエに聞こうとすると「じゃあ部室の雑誌整理手伝って」とワケのわからない仕事の手伝いをお願いされ、暇ではあるのでOKした。


「ほら、これに載ってるよ」


カナエが差し出したのは、『週刊ナイトレディ』いわゆるゴシップ記事を得意とする女性週刊誌というやつだ、ボクの人生において読む機会の全く無い雑誌。電車内の広告でよく見たものと同じ、水着の女性が表紙にいて、その女性を囲むように下品な見出しが並んでいる。『田中議員、真夜中の不倫デート?!』だの『料理研究家ぼったくりディナー』だの書かれているが、


『ロンハニさやこす♡イケメン俳優ルキ様 禁断の夜』


この見出しは雑誌名に覆いかぶさるぐらいの勢いで、雑誌上部にデカデカと、嫌でも目に入るぐらい主張激しく記載されている。


「この写真まじ衝撃ですよねー莉夢《らむ》もルキ様とキスしたーい」


後輩女がボクの手元の雑誌を覗きながらそんな戯言をぼやく。「すごいどうでもいい!」と思っただけのつもりが声に出てた。「リアジューにあたしの気持ちなんてわかりませんよーっだ」と返されたがどういう事だ?


構わず雑誌のページを開いた。わざわざ目次から探さそうとしなくてもお目当ての写真はすぐに見つかった。


右側1ページ丸々白黒の写真。


夜のホテルの前の歩行者道路に男女二人だけが立っており、キャスケットを深くかぶった金髪の二つ結びの水苗左彩子らしき女性が、ニットキャップを深く被った笹風瑠輝らしき男性の頬に左手を添えてキスしているのを、恐らく車の中から撮られた写真が大きく載せられていて、左側のページには、文章と共に二人が寄り添って手を繋いでいるシーンの写真が何枚か。


「恋愛映画で共演したら本当に好きになっちゃったパターンなんですかね〜あたしも映画出たーい」


確かにそのページの文章には、夕陽の丘でナンチャラ……とかいう映画での共演がキッカケで交際に発展……みたいな事が書かれていた。


「とにかく莉夢が彼氏募集中なのはよくわかったけど、私達のクラスの朝のHRは本当に大変だったんだから」


「なぁ、冴島ハルコは笹風瑠輝のファンなのか?」


「ハルコ先輩はゴリゴリのロンハニーっ子ですよ、練習とか試合で使ってるタオルとか、ボトルとか、全部ロンハニのグッズでしたもん、ルキ様が好きっていうのは絶対有り得ないですよ!」


「余計なぜサヤコに叱咤したのかわからん」


「え?ハルコ先輩、さやこすにキレたんですか……?」


「……うん、きっとそれほど、さやこすが大好きだったんだろうね、裏切られたって思ったのかも」


「えっ……それは同性愛とか百合とかそういう類の……」


「違いますよ!椋橋センパイどんだけ疎いんですか?!さやこすは全力でアイドルにかけたいから絶対恋愛しないってメディアに宣言してたんですよ!」


「さやこすとルキ様と映画やるって言ってネットが荒れた時も、ビジネス上の関係だから安心して〜なんてニュースで言ってたのに結局ナイトレディ撮られちゃって、嘘つきとか言われちゃってて……ね」


さり気なく後輩にバカにされたような……、しかし絶対恋愛しない……ねぇ。年頃の娘が"恋愛しない"なんて、何を求められているだろう。アイドルは、つくづく分からないな……。


「それでハルコ先輩、本人にキレちゃったんですか」


「うーん……、ハルコちゃんがキレなくても、彼女にキレたい人いっぱいいるんじゃない……?なんであの、有名人が多い双桜学園からわざわざ普通の高校生しかいない錦宮坂《こっち》に転校して来た意味が私には全然わからない……だって、そりゃそうなるじゃん」


「ううう………彼氏のルキ様だって双桜学園にいるのに、確かにどうして錦宮坂なんかに……そりゃ芸能人がいるのは嬉しいなって思ってたけど……確かにハルコ先輩みたいに嫌な思いをしちゃう人がいるってなると……」


はぁ……そうか、そういうことか。錦宮坂は何にもない平和なところだけど、ボクはそういう所を気に入っているところがあるし、ただでさえ、その変わらない平穏を乱されている事に腹が立っていたのに。


水苗左彩子にとって、この学校で過ごす事が苦痛になるから、彼女のついたウソの罪滅ぼしになるのか?


「………つまりは、左遷させられたって事だ」


双桜学園がどれだけ良い学校なのか知らないけど、錦宮坂が好きでここにいるボクらは一体なんなんだ?



「なんだかやらかした銀行員みたいな響きだね」


「出向ってやつですか!莉夢そのドラマタイトル忘れたけど全部見ました!何十倍返しかでめちゃくちゃ謝るやつですよね!」


「うん?なんか違うかも」



………やっぱ平和だな、この学校は。

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