深読みが過ぎる
本日二話目の投稿です。
「まぁ、こうなったか」
ゴルドはつまらなそうに、そう呟いた。
その視線の先では、二人の魔術師が相対していた。
片方はオリシス家長男、ラムセス・オリシス。
もう片方はフランベリック家長女、ベンニーア・フランベリック。
半裸男と外套痴女。
ゴルドが口にした通り、その場には彼らの予想通りの光景が広がっていた。
ベンニーアが杖を向け、その先端から炎で出来た蛇が何体も出現し、会場内を這いずり回っている。
ラムセスは開始地点から一歩も動かず、ただベンニーアの様子を見つめている。
ベンニーアの操る蛇がラムセスに殺到するも、その肉体に触れた側から魔素へと還元され、攻撃を無力化されている。
最初は意気揚々と攻め立てていたベンニーアも、段々苦しくなってきたのか、顔に汗を浮かばせながら魔術を行使している。
ラムセスは余裕の表情を崩さず、ただ構えて攻撃を受け続けている。
「にしてもアレだな、なんで服を着てないんだ? 魔術障壁は身につけてる衣服を覆うくらいには範囲があるはずだろう? 現にベンニーアのやつはよく分からん服装をしているわけだしよ。マスキン、お前水属性だろ…………なんか分かるか?」
「いや…………僕のうちは肉体を重視しているとはいっても、流石に服は着てるよ。じゃないと肉体が解れちゃうからね、まぁ…………流石にこれはうちが特殊なだけだと思うけど」
「あぁ、お前の所はなんかよく分からん理論でよく分かんねぇ事してたな。聞いても無駄だったわ…………じゃあアレはなんで半裸なんだ? 魔術的な意味があるのか? 二属性だから? 特殊な事情か? おい、男女。お前は何か知って…………何してんのお前?」
ゴルド達の興味は既に、試合の結果よりもラムセスの装いへと移っていた。
魔術師の家庭はそれぞれ独特な研究をしている事も多く、それなりに奇抜な戦闘服を選ぶ事もある。
ベンニーアの着ている「火鼠の衣」と呼ばれるマントとボディスーツは、生地同士を擦り合わせることで火花を生み出したり静電気を起こすことができるため、杖と合わせて火属性魔術の補助に使う事もある。
とはいえ、あそこまで全身を覆うレベルの衣装は流石に珍しい。
通常は手袋などの形を選び、指を鳴らして種火を作ることをトリガーにするからだ。
火属性魔術師が温度調整を得意としているとはいえ、あそこまで服としての機能を捨てた戦闘服を常時着用しているというのも、中々におかしな話だ。
そして、ラムセスの半裸はもっと意味がわからない。
魔術的な観念で見ればなるほど、その意図が読み取れなくもない。
肉体そのものが魔術の要である以上、服を脱ぎ捨てれば直接魔素に触れる事ができるだろう。
だが、それがなんだというのだ。
それで劇的な効果があり、魔術師としての力量が左右されるというのであれば、まだ分かる。
しかし、そんな論文は存在していないし、裸の方が魔術の通りがいいという事実は存在していない。
しかし、魔術師にとって戦闘服というのは中々に大切だ。
ベンニーアのように魔術のプロセスを一手省略できたり、ゴルドのように硬度を高めることができたり、マスキンのようにデメリットを抑えることができたりと、単純に機能性が高いのだ。
魔物退治を想定している以上、魔術師相手のようにはいかない。
裸でいるという事は、つまりそれだけ命の危険に近いという事。
裸の男と、鎧を着た男。
いうまでもなく、鎧を着た男の方が安全だろう。
勿論、それは相手にもよる。
接敵する際に軽装の方がよい魔物もいる。
だが、半裸というのは…………。
ゴルドは自分が無知である可能性を考慮し、その場にいる者に問いかけた。
しかし、同じ水属性魔術師であるマスキンは見当がつかないという。
ならば、一応歳上であるフォルテなら何かを知っているだろう。
そう判断したゴルドは、フォルテに意見を聞こうとし、そして思わず突っ込みを入れた。
フォルテは両手で目を塞ぎ、決闘を見ていなかったのだ。
ゴルドが話しかけても、首を横に振るばかりで反応がない。
赤くなっている耳を見て、ゴルドはフォルテの奇行の意味を悟った。
そして、好機とばかりに揶揄う。
「ははーん? まさかとは思うがお前、異性の裸を見た事がなーーーー」
「ある訳ないだろうが!? なんで半裸なんだよ! だいたいこの決闘は王族も見ているんだぞ! ネフェリ様の目に入ったらどうするんだ! …………はっ! まさかベンニーアに対する精神攻撃か!? 平静を失わせる事で、試合運びを有利にしようという戦略…………っ!? 自分の尊厳を犠牲にしてまで!? …………ラムセス少年、君はいったいどこまで勝利に貪欲なんだ…………っ!?」
「いや、流石に違うと思うよ?」
顔を真っ赤にして捲したてるフォルテに、マスキンが突っ込みを入れる。
しかし、ゴルドはその言葉を耳にして、考え込む。
そして少しだけ間が開いた頃、口を開いた。
「いや…………もしかしたら、そうかもしれねぇぞ」
「えぇっ? ゴルドくんもそう思うの?」
「まぁ、ちょっと違うけどよ。よく考えてみろよ…………この決闘はラムセスにとっちゃ、不本意みたいなもんだろ?」
「多分、そうだよね」
基本的に貴族というものは、体裁というものを気にする生き物だ。
名誉を掛けた決闘ともなれば、それは今後の進退にそれなりに関わる出来事になる。
断ろうものならば、逃避と取られ。
受けようものなら、優劣を決めなくてはならず、間違いなく今後の関係性に深く影響するだろう。
特に、ラムセスもベンニーアも公爵家の人間だ。
王国内でも位の高い者達が優劣を決めるとなると、大事に発展する可能性はゼロではない。
そもそも、ベンニーアはいったい何を考えて戦いを挑んだのか。
彼女ほどの魔術師であれば、ラムセスに相対した時に相手の力量くらいは測れそうなものだろうに。
ゴルドは理由を察しているようだが、マスキンやフォルテにはそれが理解できなかった。
ゴルドはそれを口にすることで、相手の理解を求める。
「だが、名誉をかけるとなっちゃ下手に断るわけにもいかねぇ…………だったら、どうするか」
「? …………っ! まさか!」
「あぁ…………間違いねぇ、あいつはそこまで考えていたんだ!」
二人で完結している話を理解できなかったのか、フォルテが言葉を挟む。
「なになに? どういう事? 教えてよ」
「つまり、こういう事だ。俺たちがそうだったように、他の見ているやつもラムセスの半裸が気になって仕方がないだろう…………あいつは、ああやって奇抜な服装をとる事で、決闘から目を背けさせ、その内容を有耶無耶にしようとしているんだ!」
「っ! そうか! 他の観戦者からの評価を曖昧にさせる事で、これから先の家同士の付き合いに支障を起こさせないようにしているのか!」
対外的には、この競技場の中で起きた事は、外での関係に持ち出すことは禁じられている。
しかし火の公爵家の子供が、水の公爵家の子供に火属性魔術で負けた場合、それは取り返しのつかない悪評になり、お互いの関係にヒビを入れることになる。
それを防ぐための、自身を道化にする事で達成される、妙手。
そして、それを他の者に悟らせる事で、この決闘騒ぎについての言論を封殺する…………つまり、空気を読ませようとしている。
どんなに鈍感な者でも、この決闘が終わった後に「どうして半裸だったんですか?」と聞くような奴は居ないだろう。
明らかに目に見えた地雷だからだ。
ましてや、ラムセスは公爵家の長男。
十割越えの厄ネタだ。
たとえこのまま決闘がラムセスの圧勝に終わったとしても、どちらも相手の汚点を一つ握ることになり、関係性に公平さが発生する。
それは自分の勝利を確信しているからこそできる、自信に裏付けされた一手。
ゴルド達は汗の滲んだ手を握りしめ、心からの賞賛を口にした。
「やるじゃねぇか…………っ!」
無論、勘違いである。




