じゃあ、よろしくね?
「アハハハハハハッ!! 何!? なんなのその一昔前の少女マンガみたいな出会い方!? うっそ、マジ正気?」
「な、なんだよっ!?」
「何でもないって! なんでも…あー、ウケる…」
笑いすぎて目頭に溜まった涙を拭いながら息を整える。
――――――ああ、ダメだ。やっぱり想像すると笑える。
だって考えてもみてよ、なんなのあの王道パターン。嫌がる女の子を救ってその子に一目惚れって…どんなパターン?
ついでにアレだ、その子が転校生かなんかだったらよかったんだけど…学校行ってないしね、今。
「いーかげん笑うのやめろ!!」
「えー、だってこれを笑わずに何を笑えと?」
「………お前、そんなにオレの事いじめて楽しいか!?」
若干涙目な雪杜が僕に詰め寄る。
―――――――楽しいかって? そんなの決まってる。
「うん、すっごく楽しいよ!」
「………うん、そうだよなぁ…そういうやつだよなぁ、お前……」
晴れやかに笑った僕に雪杜はガクリ、と地面に項垂れる。
実に見事なOTZっぷりだ…でもなんかムカつく。
「なぁに? なんか文句あるわけ?」
「いえっ! まったくもってございませんッ!! なんでその物騒なものはお仕舞いくださいませんか初瀬様!!!」
「ちぇ、しょうがないなぁ…」
僕が懐からそれを出した途端、瞬間的に立ち上がって敬礼をする雪杜に免じてそれをまた懐に戻す。
ん? 『それ』って何かって?
ああ、僕がちょっと訓練用に作ってもらった特製の魔術銃。
魔力制限付きだから当たっても大丈夫だよ? 極限まで入れたヤツでも死なないし。
……まぁ、普通の人の体に当たったら骨の一本や二本は確実に折れるけど。
「お前だって女の子と踊りまくってたのに…」
「僕はいいんだよ? あそこはそういう場だからさ。でも…ねぇ?」
「そんな目でオレを見るなぁあああ!! くっそ、新兵の修練にちょっかい出してくる!!」
「あんまり八つ当たりしすぎて嫌われんなよー」
「するかッ!! お前じゃあるまいし!!!」
あれ、なんか聞き捨てならないこと聞いた気がするんだけど…まぁ、気のせいってことにしといてあげよう。
雪杜の足音と気配が完全に消えたのを確認してから、僕は今まで出していた笑顔を消して書類の山の中に埋もれさせて隠していた資料の束を取り出す。
「―――――リーゼロッテ・ヴィルト。
ヴィルト男爵家の末娘で、家族構成は男爵である父・母・姉が一人。
落ちぶれていた家を五代前の当主が商業で成功させ持ち直し、今に至る…か」
それはさっきまで僕が散々雪杜をからかう種にしていた少女についての報告書。
…正直に言うと、雪杜のことは信用してるけど…ある意味信頼はしていない。
それでいいし、そうでなくちゃならない。
見せたくない所の十や二十、お互いあったって別にいい…人間なんだしね。
「――――――――――まだ、足りないな」
僕の意思に従って、魔法が発動し蒼い炎がその書類を灰一つ残さず燃やし尽くす。
消えていくそれを見送りながら、呟いた。
……そう、足りない。まだ、何もかもが。
「ね? そうでしょ?」
僕の言葉に同意するように蠢く天井裏の気配に僕はまた笑う。
「だから、さ。
――――――――頼んだよ?」
瞬時に消える気配。
それを気にすることなくもうすでに冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干す。
――――――――彼らは、僕が作り上げた諜報機関。
名前はないよ? 公に出すつもりもないし、出せるわけもない。
まぁ、言うなれば『草』とか『御庭番』とか…日本を離れるなら『CAI』とか『KGB』、まだ国内だけだから『MI5』とかでもいい。
まぁ、要するに…僕の手足ってとこかな。
「マズいな……」
ため息を吐いて、ちょっとだけ後悔する。
コーヒーは好きだけど冷めたのってやっぱりマズい。
―――――――口にこびりついた苦味は、まるで。
「………馬鹿馬鹿しい」
そして、僕もまた、執務室を後にする。
――――――――後悔? そんなのしているわけがない、じゃないか。




