ねぇ、なんなの?
宵闇に輝く数多のシャンデリアの輝きと、それぞれに映える色とりどりのドレス。
煌びやかな舞踏会の中、一人の少女がため息を吐いた。
「はぁ…お爺様も何を考えているのかしら?
私がこういう場が嫌いだって言うのは知っているはずなのに」
自らが纏う海のように鮮やかなコバルト・ブルーのドレスを忌々しげに見下ろして彼女は呟く。
「まったく、異例のことですなぁ…」
「ああ、本当に…いくら優れた武勲を立てたといってもたかが人間に、それもどこの者とも知れぬ者たちに我等がアスガルズ王国軍の将軍職を与えるなど…」
「陛下も周りが青き血を引く貴族ばかりではお寂しいのでございましょう…だからお仲間を傍に侍らしたがるのでは?」
「なるほど! いやぁ、流石はパホモフ男爵! 鋭いご意見だ!」
壁の花を決め込んでいる彼女の耳にまで届く陰口の山。
あまりの多さとうっとうしさに気分さえ悪くなってくる。
「始まったばかりだし、お爺様には悪いけど…帰っちゃおうかしら」
彼女が動き出した丁度その時。
皆が集まっているこの大広間の戸が開き、そこに視線が集まり…そして、沈黙に包まれた。
そう、そこにいたのは、先ほどから散々槍玉に挙げられていた人物であり、この舞踏会の主役。
彼らはしんと静まり返った広間を無尽の野を行くが如く悠々と最奥の数段高くなった玉座の元まで歩き、そこで自然な動作で跪く。
「よくきたな。雪杜、初瀬」
玉座からの声に揃って頭を垂れる彼らに、先ほどまで口さがなく陰口を言い立てていた貴族たちもまた目が離せないでいた。
ただただ、玉座に座る彼の人の若いが覇気のこもった声だけが異様なまでに大広間に響き渡る。
「雪杜、良くぞここまで上ってきてくれたな…私の見込みは間違いではなかったか」
「ありがたきお言葉…感謝いたします、陛下」
若き魔王の賛辞の声に礼を述べる声もまた若い。
彼の王のものとはまた違う種類の覇気に満ちた声は、しかしまた同じように大広間によく通った。
「初瀬、お前の策はいつも実に見事だ…これからも、雪杜と我が軍をその英知で支えてくれ」
「わが身に余る光栄です。その御期待に背かぬよう全力を尽くす所存でございます」
玲瓏とした冷たささえ含む静かな、しかし強い意思と力のこもった声。
――――――――――そう、それらはあまりにも魅力的だった。
そう、誰かに思わず膝をつかせ、誰かを思わず引き寄せ、誰かを思わず従わせてしまう…そんな、声。
敵だろうと味方だろうと、無視することなどできぬその「力」を。
彼女は確かに、感じ取っていた。
「ああ、期待しているぞ、二人とも」
許しを得て彼らが立ち上がる姿から目が放せないまま、彼女は心からの笑みを浮かべた。
他人の足を引っ張り、同じ所に貶めることしか出来ない凡愚の貴族たちとは、格が違うのだと。
その差を、誤らず感じ取ったから。
「ところで……―――――――――――」
若き彼の魔王はしんと静まり返った大広間をぐるりと見回し、苦笑を僅かにもらす。
「普段口さがないお前達がここまで大人しくしているとはな。明日は槍でも降るのか?」
その言葉にみな我に返ったように、楽師たちは演奏を再開し、貴族たちは噂話をし始める。
止まっていた時間など、なかったかのように。
ただ一人、彼女の胸の中だけに強い強い感情を躍らせて。
「ヴィルヘルミーナ、どうかしたか?」
「白々しいですわ、お爺様…謀りましたわね? 私のこと」
「ふふ、ばれてしまったか…流石は我が孫娘だ」
「これくらい、わからぬ私ではございませんもの。でも、ありがとうございます。きっとここにいなかったら知ることは二度となかったでしょうし」
「そうか」
彼女の名は、ヴィルヘルミーナ・レンモル。
バルドロキ・エーリューズニル公爵の実の孫娘にして、彼の部下の一人。
――――――――――そして、彼女は笑う。
「お爺様、私、お爺様が『彼』を気に入った理由がよくわかりましたわ…
これからがとっても楽しみです」
後に悪婦の代名詞として謳われる彼女と、稀代の名軍師と謳われる彼の化かしあいが始まったのだった。
新章突入!
今回の章では女の子いっぱい出します。
少なくとも主要で二人は確実に……!
今回出てきたヴィルヘルミーナには初瀬のお相手をしてもらう予定です。
次は雪杜側の子出さんとなぁ…




