ねえ、知っていますか?①
―――――――――三者視点
本陣にいたジスモルドの取り巻きがほとんど出陣し、いなくなった頃、ようやく初瀬が帰ってきた。
「……おや、随分とすっきりしましたね?」
「――――――なんだ、尻尾巻いて逃げ出したのだと思っていたのだがな…まだいたのか」
「あはははは、ご期待に沿えずにすみません。しかし、僕は魔王陛下のご期待に背くわけには行きませんので」
「フン…下等生物は飼い主のご機嫌取りに大変なようだな」
「お気遣いありがとうございます」
ジスモルドの嫌味にもにこやかな笑顔でスルーした初瀬は表情を改め、魔術によってちょうどホログラムのように立体で映し出されるこの近辺の地形図に目を向ける。
赤で示される敵方の陣形と青で示されるこちらの陣形。
どんどん中央隊から離れていく両翼を見据えつつ、初瀬は誰にも気付かれないほど僅かに一瞬だけスッと目を細めた。
「―――――――来た、か」
初瀬のその一言は、誰にも聞かれることはなかった。
その言葉がその場にいた者が理解する前に、大音量の報告が舞い込んだからだった。
『申し上げます!!! 右翼隊、背後から敵の伏兵によって挟撃されていますッ!!! 至急、援助を!!!!』
『申し上げます!!! 左翼隊も同じく、伏兵によって挟撃に!!! 一刻も早い援軍を!!』
パルロッターレによる両翼からの援軍要請。
――――――――――その状況に言葉を失ったからだった。
「なッ、きょ、伏兵による挟撃…っ!? ま、まさか!」
「まさかも何も…誘導ですね、かなり初歩的な」
慌てて地形図と現在の戦況を見、その結論にいたり顔色を悪くするジスモルドとまるでごく当然であるかのようにどこかのんびりしているように感じられるほど平然と答える初瀬。
それは、二人の間の指揮官としての格の明らかな違いのように見えた。
「き、気付いていたのか!?」
「ええ、こちらと相手の陣形を見たときからありえるだろうな、と言う予想は」
「な、何故言わなかったんだ!? もしこれで損害が出たとしたら全部お前のせいだぞ!!」
「はぁ…僕があの時言った所でお聞き届けくださいましたか?」
「当然だろう!!」
「当然―――――――聞き届けないだろう、でしょう?」
ジスモルドは必死な顔で呆れ顔の初瀬に責を押し付けようとする。
――――――――だが、こんなことをしている間にも戦況は動くのだ。
『ヒェッ! ひ、人が…! は、早く助けてくれ! 私はアッシュー伯爵家の者なんだぞ!?』
『い、いやだ! 死にたくな―――――――――』
『痛い! やめろ、やめてくれぇッ!!!』
『早く助けを! 早く!!!』
パルロッターレが両翼の状況を刻一刻と伝える。
そしてその度に、ジスモルドの顔色は悪くなって行く。
―――――――――ちょうどそのとき、だった。
そう遠くない所で鬨の声が上がり、流れ矢の一本がジスモルドの足元に刺さった。
「ひぃいいっ!!」
「―――――――――さて、シュビール卿。少しお話があります」
彼の属性をそのまま示したような冷たい冷たい声色と目。
「大人しく指揮権の全てを僕に譲っていただくか、否か。お決めくださいませんか? いますぐに」
「し、指揮権のすべて、だと!?」
憤って見せるが流れ矢のせいで腰を抜かし、恐怖に震える声では子供だって怯えさせることはできないだろう。
―――――――――それでも彼は、気付かない。
「―――――――譲っていただけませんか?」
「あ、ああああ、当たり前だ!」
――――――――気付かなかった。
何故、初瀬がそのようなことを言うのかを。
何故、初瀬の一方の手がローブの裾に隠れたままなのかを。
何故、初瀬がそのような……普通なら誰かが止めるべきことを言っているにかかわらず誰も止めないのかを。
―――――何も。
「――――――――そうですか、残念です」
「ば、馬鹿な世迷言をいう暇があるのならこの状況を何とかしろ!! それがお前の職務だろう!?」
初瀬が諦めの言葉を発したからだろうか、若干威勢を取り戻したジスモルドだったが、すぐに凍りつくことになる。
初瀬が静かにすぐ近くまで寄り、袖の中に隠し持っていたものをその額に押し当てたからだ。
「やはり僕は、貴方を排除しなくてはならないらしい」
―――――――――残念ですよ、とっても…ね?
そう言って。
初瀬はゆっくりと笑った。
二話連続でやろうと思って見事に玉砕です。プギャー!
新しい連載ネタが天から光臨なされて困ってます…書きたい、でも書けない…どうすればいい、誰か教えてくれません!?




