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魔王軍の軍師と将軍物語(仮)  作者: 神那 悠樹
―briga:戦い―
44/59

もう、決まったことだよ?

グニパヘリル伯爵の所領はその爵位にしては相当に大きい。

建国当初から続く旧家っていうこともあり、伯爵位でありながら国政や外交に関して強い発言力を持っていた・・らしい。


ここで注目してほしいのはそういう権力を持っていたのは昔の話だって事。

その当時は王に対して武門の名家として、裏表のない忠誠を誓っていたグリパヘリル家も先々代当主から忠臣から打って変わって奸臣になり果てた。


そう。

その名の通り地獄の入り口グニパヘリルとして名高かったグリパヘリル家本家の血筋を引くものが次々と不可解な死を遂げ、最後に残ったまだ若い娘を妻に娶った男が当主として名乗りを上げたそのときから。


………今となってはその真実がどうだったのかを知る術はない。

けど、その娘もまた結婚からそう経たず死亡し男が喪が明けるとすぐに後妻を取ったことなどから鑑みて……真実は推し量ることができるんじゃないかな?



そして、その男と後妻の子孫、それがかつての栄光の面影すらない現在のグニパヘリル伯爵家だった。




「『春高楼の花の宴

めぐる盃かげさして

千代の松が枝わけいでし

むかしの光いまいずこ』、か……」



夜営から出て、ふと月を見たら思い出して、呟いたその詩だったけど思いのほか状況にあっているようで笑えた。


……唱歌として教わらないうちに詩として暗記してしまったから、歌ったわけじゃないからね?




「『荒城の月』…だっけ? 懐かしいな」

「雪杜…まだ起きてたの? 明日は早いんだよ?」

「わかってるって。ちょっと、な…」



ひんやりした夜風に羽織った雪杜のマントが揺れる。

ふぅん、と首を傾げたが僕は何もいわず、雪杜もそれ以上何も言わなかった。



「――――――……やっぱり、明日はオレもこっちに残る」

「何言ってるの? 決定に逆らうって…軍規違反だよ?」

「あんな穴だらけの策じゃすぐに裏をかかれるだろ!? いくらオレが戦術を知らなくたっていい加減わかるぐらいの経験はつんでる…一番危険になるのは本陣ここなんだぞ!?」



雪杜の押さえきれない怒りのこもった声は、夜の静寂に吸い込まれてすぐに消えていった。



「―――――――まぁ、普通に考えても愚策もいいところだよね」



昼間、僕や雪杜が口を挟むことを許されずに貴族連中だけで決定された策を思い返しながらため息を吐く。

………うん、わかってるよ。僕のこの発言が雪杜の言ったことを肯定してるに等しいってことくらい。



「だったら…―――――!」

「言って聞くような相手なら僕もエルドもこんなに苦労してないって事…わかってるよね、雪杜だって」



苦い顔でつまる雪杜。

―――――――全部わかってるんだよね、本当は、最初から。



「大丈夫だよ、もう策は打ってある。この戦いには勝てるよ」

「オレが言ってるのは勝敗じゃない! 『お前』はどうなんだよ…?」

「僕?」

「勝ったとして…その結果、お前が怪我するとか…――――――そういうのは、ないんだな?」



……………何、言ってんの?

思考が一瞬追いつかなくなるも、すぐにその真意に気付いた僕は笑い出してしまった。



「ばっ……なんで笑うんだよッ!?」

「だ、だって…ッ! くく、なに、僕のこと心配してんの?」

「わ、悪いか!? 親友の心配をしてなにが悪いんだよっ!?」

「悪いなんて言ってないって! っ、くく…あー、可笑しい! 久しぶりだよこんなに笑ったの!」

「なんなんだよ! 文句あるならちゃんと言えよ!」




拗ねている雪杜には悪いけど、こんなに笑ったのは本当に久しぶりだった。

………そう、こちらの世界に来てから初めて、だったのかも。



「心配しないでも大丈夫だって。いくら魔術特化で身体能力は低下してるって言ったって自分の身を守れるぐらいの力はあるつもりだよ?

っていうか、人のこと気にするより自分の心配しろ、主力隊の先鋒任されてるんでしょ?」




そこを指摘するとうっ、とばかりに言葉につまる雪杜。

最前線に切り込んでくのと後方で控えているのとじゃあ、どっちが危険かなんて、さ。




「だ、だけど…っ!」

「ああもう、うるさいよ雪杜。僕、もう眠くなったから寝るよ…雪杜おちょくってすっきりしたことだし」

「ちょ、まっ、え、おちょくられてたのオレ!? 弄ばれてたのッ!?」

「人聞きの悪い…遊んでただけだよ」

「………予想は尽くし聞かないほうがいい気がするけど一応聞いとく。

――――誰が、なにで遊んでたんですか?」

「僕が、雪杜で」

「やっぱりかぁああああああッッ!!」




わかってたな聞かなきゃいいのに…と思いつつ、シャウトして感情を表現する雪杜を放置して僕に与えられていた天幕に戻る。(なんか途中で「置いてくなよ!」とか聞こえたけど幻聴だろう…無視しておいた)




「―――――――――はぁ……」




月明かりが遮られる分暗い天幕に、僕の小さな溜息が消えていく。

雪杜にも言ったことだけど、明日は早いんだ…いくら呼びに来てくれるとしても遅れるわけにはいかない。


なんせ、明日の戦局は僕と雪杜の『これから』をかけた大事なものなんだから。






「こっちの気持ちもたまには味わえっての……ばぁーか」

あっれ、おかしいな…ツンデレた……だ、と…!?

初瀬はともかく雪杜までツンデレになるとか…想定しておらぬぞ!?


よーするに、初瀬も雪杜のこと戦のたびに心配してたってことです。


………一応言っときますけど、アヤシイ関係ではないですからね?

フツーに友人関係ですからね!?


以上、女の子の出番のなさに気がついて慄いている作者からでしたー

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