え、本気だったの?
待ちに待った演習の日…どうやらバカ司令官であらせられるシュビール卿が僕たちに直接教えなかったのはワザとだったらしい。
貴族であるシエルに教えたのはまぁ、シエルの実家(伯爵らしい。それも結構旧家)に睨まれるのを嫌がって、てことだろう。
それにかこつけて「だから人間は」とか、「だから貴族でない者は」とか因縁つけてくるつもりだったんじゃない?
――――まぁ、シエルに教えなかった場合でも相手どれるようにしてたんだけどね?
「常駐戦陣」は流石に無理でも…常に臨戦態勢でいる奴が一人や二人いたっていいじゃない?
「にしても…」
高台に設置した自陣から第一部隊の整った布陣を見つめる。
人数も、装備も、全部格上。ついでに言うと陣形を組むときの淀みのなさからするとよく訓練されてる。
―――――――でも。
「なんなの、この教科書どおりの布陣…え、何、ギャグ? ギャグですかコレ?」
整っているけど、整いすぎている。
ただただ、お手本の通りに再現しているような用兵。
「……シュビール総司令官だね、今指揮してるの」
一人じゃ何にもできない、お飾りの総司令官。
それでもアスガルズ軍が人間の兵士達に圧勝しているのはエルドや僕らみたいな子飼いの武官や文官が有能だからって事にも気付いていない。
あのバカ総司令官だけで戦わせたらどうなるか?
さぁ? 良くて撤退、悪くて全滅ってトコじゃん? 自分のこと無駄に過信してるからまず舐めてかかってくるだろ。
「でも、そのせっかくの好機…見逃してあげるほど僕は優しくないんだよ。
―――――――作戦開始だ!」
僕の号令で固唾を呑んで待機していたその場にいる全ての兵士達が一斉に動き始める。
……そして、響き渡る鬨の声。
「さぁて…噛ませ犬になってもらうよ、第一部隊の皆さん?」
――――――――演習が、始まった。
開始して早々。
次々と聞こえる優勢の声に満足げにジスモルド・リステア・シュビールは鼻を鳴らした。
「フン、やはりか…」
自陣からも見える第七部隊の稚拙極まりないお粗末な陣形を見てせせら笑う。
「なんだ、あの用兵のイロハもわからないような陣形…美しさの欠片もないな」
ニヤニヤと総崩れになっている第七部隊を眺める。
「コレでは勝利の条件の本陣に設置した旗を取るという目的もすぐにも果たされてしまうだろう…
それでもいいが、ぼくの見せ場がないというのもつまらない。
――――――――馬を引け!」
追い討ちをかけるべくジスモルドは第七部隊の陣に向かって手勢ほとんどとともに駆けていった。
――――――もうすでに、雪杜の手の中で転がされているのだということなど、知る由もなく。
「―――――…お待ちしていましたよ、総司令官殿」
第七部隊の隊士に阻まれることなく本陣近くまで悠々と進んでいたジスモルド達を阻んだのは支給される軍服に黒いローブを纏った少年…―――――初瀬ただ一人だった。
「確かお前は…初瀬・アウトゥンノ、だったか? フン、負け戦を大人しく認め降りに来たのか?」
「いいえ? まぁ…ご足労感謝します、といったところでしょうか? それと…負け戦云々、というのはコチラのセリフですし」
「何を言うかと思えば…負け惜し「おや…本当にそうですかね? こちらは主力すら使っていないというのに」――――――なんだと!?」
―――――その瞬間、だった。
再び鬨の声が上がる。しかしそれは近くからではなく……遠くの方から聞こえた。
「あはは、こっちの勝ち…みたいですね?」
「な、なぜだっ! まさか…伏兵か!? 卑怯者め…罠に嵌めたな!?」
「これはまた、総司令官殿ともあろうものがおかしなことを言いますね?」
そういって初瀬はニコリと笑う。だが…その眼は笑っていない。
「戦場において卑怯も何もない。あるのは勝ちか負か――――生か死か。
勝利こそが全てだ。勝者が歴史を作っているんですよ? 今までも…そして、これからもね」
言い切ると初瀬は魔術を展開させ、その場にいた全員にかける。
「上手い事僕の策に乗ってくださりありがとうございました。
再戦は…そうですね、僕に踊らされまくって自滅する覚悟がおありならいつでも受け付けますよ?」
その声を最後に光とともに魔術…転移魔術が発動し、強制的に第一部隊の陣に送り出された。
問題児…出来損ないの烏合の衆と侮っていた部隊と、たかが人間と侮っていた初瀬に完敗したという事実を第一部隊を率いていたジスモルドの心に深く屈辱を残して。
初瀬は敵対するとこんな感じになります。
詳しい戦略は次回…
腹黒感出てますかねー…?




