そう、だから?
「これはこれは…今を時めく参謀閣下ではないか」
「――――お久しぶりですね、シュビール卿」
―――――――…あーあ、嫌なヤツに会った。
出たくもない夜会だったが、僕と雪杜の武勲を称えてのものに出席しないわけにはいかない。
ましてや、いつも雪杜は挨拶の後さっさと帰るから僕がその分相手しなくちゃいけないんだよね…
―――まぁ…こんな薄汚いやり取り、雪杜にやらせられないからいいか。
で、僕に声をかけてきたのはジスモルド・リステア・シュビール。
現アスガルズ軍総司令官。実力はないけど家名と裏金と手柄の横取りだけで伸し上がったある意味の猛者だ。
かなり嫌われ役を買って出ているはずの僕よりも一般兵から悪く言われるなんて尊敬しちゃうよ。見習うつもりは全く持ってないけど。
「陛下に認められただけの成り上がり者の癖になかなかやるじゃあないか。
まぁ、君の場合…君の上司が上げた武勲のおこぼれを貰ってるに過ぎないのだけどね」
「あはは、耳に痛いですね…どうも僕は前線に出るよりも指示を出しているほうが向いているようで。向き不向きって言うものがありますしねぇ…まぁ、シュビール卿のように何をしても同じ結果、というのは見習いたいものです」
僕の皮肉が通じたのか顔を真っ赤にして怒るシュビール卿。
……はっ、策を練ることも武器を振って軍功を上げることも一人じゃできない『お坊ちゃん』が僕に楯突くからこうなるんだよ。
「こっ、の…! 下等な人間風情が…っ!」
お前の言う『下等な人間風情』に負けてるお前は何でしょう。カスですか、ゴミですか、クズですか?
ああ、すいません。ただの不能でしたね。無為なんでさっさと僕の視界から消えてもらえません?
……そういいたいけど、まだアイツのほうが位が高いんだから我慢我慢。
「―――――――……そこまでにしておきなさい」
済ました顔で無視していたら顔をさらに真っ赤にして殴りかかってきたが、その手は僕に当たる前に声に
よって押しとどめられる。
「アウレリウス宰相…! 何故です!?」
「何故も何も…私には貴方が彼に言い負かされて逆上し、恐れ多くも王の御前で騒動を起こそうとしていたのをとめただけですよ?」
アウレリウス宰相――――――セイザークさんの言葉に自分がどこにいるのかをやっと自覚したらしい。
…ちぇっ、上手く恥をかかせられると思ったのにな。
「――――――…っ、失礼します!」
……やっと、ここがどこで自分が何をしでかそうとしているのかわかったらしい。
怒りで顔を真っ赤にしたまま、せかせかと足を速めて退出していった。
「久しぶりですね、初瀬君」
「ええ、セイザークさんも元気そうで何よりです」
―――――――これが発端になって、あの大きな騒動が巻き起こるだなんてそのときの僕は知りもしなかった。
「クソッ…!」
初瀬とセイザークが久しぶりに出会い、談笑しているそのとき。
退出していったジスモルド・リステア・シュビールは怒りを持て余していた。
「陛下も何をしておられるのだ! あんな人間などという下等生物にあのような位を与えるとは…気まぐれにしても長すぎるではないか! もうすでに二年だぞ!?」
彼は、当初「人間」はさほど嫌いではなかった。
下等生物、と馬鹿にしていたし侮っていた。…だが、決して嫌っているわけではなかった。
―――――…そう、あの日。
演習で「使えない」と捨てられた奴らばかりで作られた確かに能力が高い者もいるが総じて協調性に欠けるいわば烏合の衆であった初瀬が指揮する第七部隊に彼自慢の第一部隊が完膚なきまでに敗北するまでは。
エルドが開いた御前試合で、雪杜に完膚なきまでに叩きのめされる前までは、まだ。




