在りし日の思い出③ Side H
「―――――…何でお前、そこまでするの? ワケわかんないよ…………雪杜」
「………渡部が言ったんだよ、『本当は嫌なんだ』って」
「嘘に決まってんじゃん。なのにこんなぼろぼろになって…ばっかじゃない?」
「はは、そーだな。オレもそう思うぜ、初瀬」
「ならなんでやるのさ? なに、馬鹿な上にドMなの? 流石に引くよ?」
「今日も毒舌の調子はなかなかみてぇだな…心に刺さる……」
何の気なしに窓から覗いた放課後の校舎裏。
布川先輩含む三年の先輩達にボコボコにされた雪杜がいるとは思っていなかった。
っていうか、校舎裏とか…どんだけテンプレ?
「あの子、布川の彼女だってコト知ってるんでしょ?」
「ああ……本人から聞いた」
「じゃあ、これ知ってる? あの子、自分から布川に売り込んだんだよ、自分を」
「そう、だったんだ」
「……可笑しいだろ、だったらなんでお前に泣きつくんだよ?」
「渡部の本性、とか?」
「むしろ逆だろ、バカ。つか逆である可能性しか思い浮かべられねぇよ、バカ」
比較的怪我の少ないところを蹴り飛ばす。
どうしてこんなにバカなんだろ。ああ、もう。だってのにどうして無視ができないんだよ!?
「――――――――…でも。
オレは信じたいんだ。オレに頼ってきた姿が本当の渡部の姿なんだって」
「…お人よしも大概にしろ! だから、そんなにボロボロになってるんだろ!?」
「―――――それでも、だ」
「……っ、バカだよ…雪杜は。ホント、意味わかんない…」
―――――何で、そんな顔で笑うんだよ。
知ってるんだ、僕は。コイツがこの不器用なほどの真っ直ぐさでどれだけ不利な目に会ったか。
小さいときから、知ってる。なんでもないように笑う影で、悔しがってるのを。
知ってるんだよ、僕は。なのに、何で……
―――――何で、そんな……幸せそうな顔で笑えるんだよ。
「あー、もう……見てらんない」
「――――……そ、っか」
「だから、とっとと片つけるよ。卒業まで持たず退校させてやる」
「……………………、え?」
「とっとと起きろ、雪杜。僕の指示に従ってやってもらわなくちゃいけないことがたくさんあるんだから」
「初瀬……っ!」
別に、暇つぶしで前々から用意してたヤツだったし、感謝されるまでもない。
こんなことさえなければ、するつもりだってなかったし。
ただ……―――――――
雪杜のバカみたいな真っ直ぐさを、潰したくなくなっただけ。
あいつのあの笑顔を失うのが、ほんのちょっとだけ……惜しかったから。
それを守るためになら、それ相応のものを賭けても惜しくない、そう思ったから。
僕は雪杜を制御し、守る『盾』になることを決めた。
………要は、暴走しがちな幼馴染を食い止める安全棒ってトコと捉えてくれればいい。
どうも警戒心の足りないあいつのために、周りを疑ってかかるのが僕の役目だってことかな。
「………渡部、とか言ったっけ。カマトトぶって雪杜を操るのは楽しかった?」
「ヒ……ッ!」
三年の不良を全て学校から叩き出した僕はこの学校の影の支配者として君臨していた。
先生方?気付いてないよ、証拠は匿名で出しといたし。
生徒が見ればわかるようにはしておいたけど、ね?
…そして、これが最後の仕上げ。
これだけは、雪杜にばれちゃいけないんだけど…ね。
「中一の癖に援交に売春? すごい経歴だねぇ」
「ち、違います! どれもこれもコウ先輩…布川先輩にやれって!」
「別にどっちでも構わないんだよね、僕としては、さ。
――――――自主退学か、親と学校に知らされるか…どっちか好きなほう、選びなよ」
「……………っ、退学……しま、す」
少女が校舎を出て行くのを見守りながら、僕はクスリと笑う。
「………そうだ、言い忘れていた。確かに、君の事は学校にも親御さんの方にも伝えていないけど……警察のほうには、伝えてあるんだよ」
雪杜は雪杜の家族と僕の家族で旅行中で、この町にはいない。
僕も行く予定だったけど……このために仮病まで使って一人で残った。
「これでよし、ってね?」
――――――僕が、雪杜を認めた、その日の一月後のことだった。
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