在りし日の思い出② Side H
「的場先輩!」
「あ…あの時の…大丈夫だった?」
「はいっ! 怖かったですけど…先輩が助けてくれたからぁ…!」
「そりゃよかった」
教室の入り口でそんな会話がされているのを、僕は本を読みながら聞いていた。
……あー、あの子がこないだ言ってた子か。
ん…? あの子、どっかで見たような………?
「あ、あのぉ! 私、渡部由愛って言います! その、的場先輩…できれば、仲良くしてもらいたいんですけどぉ……いいですかぁ?」
「あー、うん。渡部な…ま、いいぜ」
「本当ですか!? うわぁ、ありがとうございますぅ!」
あー、僕、あの女嫌いだ。
見てて鳥肌立ってくる…なんなの、あの媚売りぶりっ子。
「私可愛いでしょ」感ハンパねぇ…
「あれ、あの子…」
「ん? 知ってるの、二階堂」
「あー……知ってるっちゃ知ってるけど…やばいぜ、あの子」
僕の友達…というか、協力者である二階堂が額に手を当て、唸った。
……お調子者のケがあるけどかなりの情報通で役立つんだよね、二階堂って。
何に、だって? 僕の安定した平穏な日常の維持に決まってるじゃない。っていうか、他に何があるの?
「一時期有名になってたんだよ…一年なのにあの布川広軌先輩の恋人の一人になったやつがいるって。で、そいつの名前が」
「それがさっきの子…『渡部 由愛』ってわけか」
「そーゆーこと! 流石の的場もきついかもなぁ…あの布川先輩だし」
「三年の親玉だもんね…自分の女に唾付けられて切れてタイマン、ってか?
うわぁ、あの子的に見たらどこの三流少女マンガだし」
「……「私のために喧嘩しないでー」とか?」
「うわぁ、お前何言ってんの? キモ」
「ネタにマジレスやめようね! 結構ダメージでかかったから!」
―――――またアイツ、ボロボロになって僕に手当て求めてくるのか。
その程度にしか、考えていなかった。
ある日のこと。
ちょっと先生に呼ばれて(雑用押し付けられた。ふざけんな)人気がなくなった校舎を急いで移動していたとき。ちょうど一年の教室から姦しい声が聞こえてた。
「ちょっと由愛ー、アンタ彼氏いるのに何であの先輩に粉かけてんのぉ?」
「えー? ああ、的場先輩のコト?」
「そうそう、あの布川先輩とか三年の先輩にやけに楯突いてる馬鹿な先輩」
「あー、アレね。最近コウ先輩付き合い悪いんだよねー…だからそのアテツケ。あんなフツーの先輩に本気になるわけないじゃん。お遊びよ、お遊び」
「だろうと思ったぁー! キャハハハハハ!」
僕は気付かれないように足音を忍ばせながらその教室から離れた。
……あーあ、やっぱりね。
「………うわ、生きてた。いや、むしろ生き返ったというべきか?」
「勝手に人を…ゾンビにすんなよ……」
「っていうより、その無駄な生命力に関心通り越して呆れてる。黒き悪魔(笑)か、お前」
「やめろよ…オレ、あいつ嫌い」
「ふうん、いいこと聞いた」
「やっべ、いくら怪我して弱ってるからって初瀬に―――リアルな悪魔に弱み晒すとか…っ!」
「はぁ? 不肖の幼馴染の怪我を何も言わずに手当てしてやってる天使のごとく心優しい幼馴染様に対し奉りなんてことを…罰としてマキ○ン傷口にぶっ掛けてやる」
「え、あ、ちょ、早まるn――――ぎゃぁああああっ!?」
「成敗!」
傷の手当は終わったと言うのに傷口の染み渡る痛みに悶絶する雪杜を一発蹴りつける。
………傷に障らないように気を使ってやったんだから感謝すればいいと思うよ、うん。
「……気をつけなよ、あの女」
「――――――…珍しいな、初瀬がそんな事言うなんて」
「黙って聞いとけ、馬鹿。
一応言っとくけど、どうせ何もしないんでしょ?」
「疑うのは性にあわねーんだよ」
「………ほんと、馬鹿だよね」
僕はため息をついて、さっさと出て行くように身振りだけで雪杜に伝える。
―――――意味、わかんない。




