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魔王軍の軍師と将軍物語(仮)  作者: 神那 悠樹
―Incontrare:邂逅―
12/59

なんだ、言ってくれればよかったのにね?


夜のサリーシュの町には、人っ子一人いなかった。

いくら町の中とはいえ、治安がいいとは決して言えない世界だ。さらにこのサリーシュでは殺人事件が起こっている。

夜、それも一人で出歩くなんて「殺してください」と言っているようなものだった。


だからって……




「お嬢さん、なぁにやってんだぁ? 知らねぇわけじゃないよなぁ…この町にこわーいこわーい殺人鬼がいる事ぐらいなぁ! ひゃはははははは!!」




こんなに上手く引っかかるとか……ばっかじゃないの!? どうして誘ってる感バリバリな餌に食いつくかな…! 魚と同レベルなのか、お前は。




「しかも、セリフがテンプレ…」

「ひゃはははは! どうしたよ、オレ様の恐ろしさに腰でも抜かしたかぁ!?」

「きゃぁああ……(棒読み)」




走り出した僕の動きに従って服の裾がひらひらと揺れる。

……クソ、動きづらい。スカートじゃないのはせめてもの救いだけど!




「追いかっけこかぁ? ひゃはははは、逃げられると思うなら逃げてみろよォ!」

「……っ!」




走るがその速度はそう持たないことはハッキリしている。

あー、もう。僕は頭脳労働だけでいいってのに……こういう体張ったことは雪杜の仕事でしょ、ふざけんな。


………このぐらいで十分かな。




「……っ、『氷の巌ロンキオ・デル・ギアッチョ』!」




僕の呪文によって追ってきた男の足元に薄蒼い氷が現れ、男の足を絡め取りながら大きくなる。




「うおぉっ!?」

「ふぅ…ものの見事に引っかかってくれてご苦労様」

「てめぇ……人間の魔術師か。よく見たら女ですらねぇじゃねぇか!」

「……気付いてなかったわけ? なに、その眼飾り? 節穴なの?」




腰から下を凍りつかせれて身動きが取れなくなってる状態ですごまれても怖くないし。

合図をすると雪杜とエルドが出てくる。




「さて、捕まえたぞ殺人犯! 初瀬、お疲れ!」

「雪杜……後でシメる」

「何故に!? オレ何かしましたか!?」

「ムカついたから」

「それだけ!?」




雪杜に持たせていたいつもの服を受け取りながら僕は男と黙ったままのエルドを観察していた。

……本当は着替えたいけど聞き逃すのはいけない気がしたから仕方ないからいつものローブを着るだけにしておく。




「嘘、だろ……お前、いや、貴方は……!」

「――――――黙っとけよ、この恥さらしが」

「ち、違う! オレじゃない、オレじゃないんだ! オレはただ、ちょっと……!」

「黙れと言ったはずだ。聞こえなかったのか?」

「ま、待ってくれ、まo――――――っ!」




そして、見た。

エルドが男に縄をかけながら小さな声でそんなやり取りをしているところを…


雪杜が気付いていないってのは僥倖かな。腹の内を隠して行動するなんてできるとも思わないし、エルドは良くも悪くも僕と雪杜の中間みたいな性格のヤツだから、雪杜程度の思考は簡単に読み取られてしまうだろうから。




「雪杜、初瀬。遊んでないでこれ、衛兵の詰め所にたたき出すぞ」

「あー、うん。わかった」

「……えー、僕疲れたんだけど…」

「ほら、それ終わったらいくらでも好きなことさせてやるから、な!」




さっき聞いた、僕たちと話すときには微塵も見せない高圧的で冷淡な、そう、アレは…――――支配者の声。

『エルド・ジーリス』彼はいったい何者なのか。


この町に来る前までは、ラーシア王国からの見張りか何かかと思っていたけど…何か違うらしい。




「………まぁ、いっか。面白そうだし、ね――――――」




僕がエルドを気に入っているのは嘘じゃない。

何を隠しているかも気になるし、その内容によっては敵として排除するのもやぶさかじゃないけど…


できることなら、友好関係を結んだままでいたいと思う。



まぁ、どちらにしろ…

僕に女装なんてさせたことは許さないから。二度目はないと思ってよね?





やぶさかではない:何かをする努力を惜しまない

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