で?何か言い残したことはある?
少女は駆けた。
走って、走って、走って…逃げていた。
――――ヤツはそれでもすぐに追いつくだろう。
息を切らした彼女が後ろを振り向いたとき、紅い二つの光がすぐ後ろにあるのを彼女は見た。
「追いかけっこはお終いか? オジョウサン?」
「……!」
掴まれた腕。歪められた口。
その邪悪に歪められた端正と言っていい顔に輝くのは血の色の双眸。
「でも、ここで終わりみてぇだなぁ…ひゃははははは!」
「……っ、いやぁっ! 誰か、誰か!」
醜悪に哄笑する男に少女は身を捩って助けを求める。
それをいたぶる様にニヤニヤと笑いながら男は少女にとって残酷な事実をたたき付ける。
「どんなに助けを呼んだって誰もこねぇよ! ここにはオレ様が…この魔族のバアッス様が人払いの結界を張ってんだからなぁ!」
「いや…いやぁああああああっ!」
――――――悲痛な少女の声は、誰にも届かなかった。
訪れたこの町…『サリーシュ』はとてものどかな町だった。
………ここの住人の、雰囲気以外は。
「……どうしたんだ? やけに殺気立ってるけど」
「うん。警戒は確かにされてるけど…旅人に警戒、って感じじゃないしね」
いっそ異常なほどの警戒。
……ここが僻地でよくある排他的な思考、とかなら理解できるのに。
大きな街道沿いにあるこの町ではそれはまずない。
「……その答え、わかったぜ」
「あ、エルドお帰り。―――――どういうことだ、そりゃ?」
「さっき、衛兵に事情聴取されて、な。逆に聞き出してやったぜ!」
「よっしゃ。よくやったね、エルド! …で、内容は?」
「―――――……連続殺人、だとよ。被害者は全員若い娘さんだったらしいのに…酷かったらしいぜ」
苦々しげにエルドが吐き出した言葉に雪杜が苦虫を噛み潰したような顔をする。
……きっと、僕も似たような顔なんだろう。
この世界は、せいぜい中世のヨーロッパ程度の法律しかない。
監視のような機能を持つ魔術、と言うのがないわけではないが…その魔術は中級第一位。使うものを選ぶどころか使えるものなんて人間だったらほとんどいないってレベルだ。
違反をしても、それが見つからなきゃどうしようもない。
だから、町や村の外では魔物や魔獣のほかにも盗賊やらなんやらが跋扈していると言う状況だ。
だから、己の身を守るためにも……私怨などが認められない限り、町や村の外での殺人は罪に取られない。……僕や雪杜だって、もう、何人もの人を殺している。
けど、「中」での殺人は、これに含まれない。
「……ヤな感じだな、そういうの」
「そう、だな…」
雪杜の言葉に同意したエルドは湿ってしまった空気を振り払うかのように務めて明るく言い放った。
「よっし! そうなったらこの事件、俺たちで解決してやろうぜ!」
「お! いいな!」
「…はぁ? 何でそんな面倒なことしなくっちゃいけないわけ?」
……冗談じゃない。誰がそんなクソめんどくさいことを。
エルド、変なこといわないで欲しいんだけど? さっさと違う町に行って冥福をお祈りしつつとっとと行こうよ。
雪杜、何載せられてんの? どうせ面倒拾ってくるだけなんだからやめてよね。
「まあ、いいじゃねーか、行く宛なんかどうせないんだろ?」
「ないけどさ…エルドと違って目的はあるんだよ」
「ばっか。俺にも目的ぐらいはあるっつーの!」
「「え、あったんだ………」」
「雪杜……お前もか…っ!
と、とにかく! いいだろ!? って言うか衛兵の兄ちゃんに『協力するから詳しく教えてくれ』って言っちゃったんだよ!」
「聞き出してなんかないじゃん! なに、エルドって馬鹿なの? アホなの? 死ぬの? お望みとあらば氷の彫刻にしてやるけど?」
……どうしよう。気に入ったから付いてきたけど、早まったかもしれない。
っていうかさ、なんなの、この女物の服。
「頼んだぜ、初瀬! 囮調査、がんばってくれよ?」
「初瀬、大丈夫だって! 俺たち三人の中じゃ一番似合うはずだから!」
――――――……確かに、そうかもしれない。
小学校以前から剣道を嗜み、スポーツ少年の代名詞みたいな体つきの雪杜と、そう筋肉が目立つわけではないが、鍛えられた体の線は決して女性らしいとはいえないエルド。
僕は元々インドア派だし、焼けにくい体質だったから色も白いし太ってはいないが筋肉もそうないから渡されたみたいな体系が出ない服だったら十分いけるかもしれない。
従姉さん達に小さい頃寄って集って女の子っぽい服やらなんやらを着させられていた(黒歴史だけどね…)し、今でも「中性的」だとか言われてやられそうになっている(必死で逃げるけど)。
だから、似合わないわけじゃないってことも知っている。
でも、だ。
「あはははははは……―――――――覚悟しろ?」
なにを? だって?
んー……殺しはしないさ。大事な幼馴染とお気に入りだし?
でも…死んだほうがマシって言う目には会わせてあげる事は確定したから、さ。
文句? そんなのないでしょ?




