7・少年の日の想い出
「僕は17でバイエルン軍に入隊しましたが、それまでもその予行演習と言うか、乗馬と狩猟に明け暮れる日常でした。まあそれは貴族の家に生まれた男としては常道なのですが、変った所と言えば祖父の皇帝が僕を大変可愛がってくれて、特に狩猟にはいつも同行してくれていたことでしょう」とゲオルグは、まず前置きのように自分の少年時代について語り始めた。
「だから僕の周囲は特に男性的で、女性など入り込む隙も無かったのですが、1人だけ例外がいたとすれば、姉の侍女だったー仮に名前をアンネと言っておきますがーハンガリー人の少女だったでしょうか」
話がいよいよ本題に入ったのかと、イザベラは耳をそばだてた。
「尤も故郷にいた頃は、そんな男性過多な環境の中では、比較的親しく話せる女性と言うくらいで、お互い恋心など感じず、僕が13の年に彼女は姉のウィーンの嫁ぎ先へ従って行き、その時はそれきりになってしまいました」
イザベラが黙って聞いてたので、ゲオルクは話を続けた。
「その後僕はバイエルン軍で順調に昇進し、28の年にはオーストリア=ハンガリー軍の竜騎兵連隊所属の大尉になりました。ウィーンでアンネに再会したのもその頃です。彼女はあれからかなり年上の富裕な商人と結婚し、子のないまま夫に先立たれて、莫大な財産を相続していたようです。かつての彼女は貧しい下級貴族の出身だったので、実家を助けるための結婚だったのでしょう。幼馴染の気安さからか、そんなお互いの境遇を語り合う内に、我々は恋に落ちていたのです。」
これは現代でもよくあることだ。小中学校時代にはお互い何の意識もしない、同級生に過ぎなかったのが、大学や就職先で再会し、大人になった相手に改めて恋心を覚えるということは。
特にそのアンネと言う女性は、小間使いの少女としてしか、ゲオルクは記憶していなかったのだろうが、富豪の未亡人となった艶やかな姿に、魅了されたことは充分考えられる。
「僕は彼女と結婚したいと願い始めましたが、反面家族も祖父皇帝も、決して許してはくれないだろうとは、容易に想像出来ました。それでも万一に賭けて、両親に打ち明けて見ましたが、やはり賛成はしてもらえませんでした」
そこでイザベラが、「相手の方は何と仰ったの?」と、初めて口を挟むと、「そんな僕の苦境を察してのことか、彼女は身を引いてハンガリーへ帰ると言い出しました。
それで僕は正式な結婚はできなくても側にいてくれとか、故郷へ帰ってもたまに会おうとか、せめて文通ででも交際を続けて欲しい等と、翻心を促したのですが、彼女はどのみち身分違いで、叶わぬ恋だったんだ。辛い思い出にならない内に、良い思い出だけ抱いて、きっぱり別れようと言い切り、ウィーンを去って行きました」




