6・花婿の告白
ミュンヘンには2泊したが、夜の営みには何ら進展が無く、ゲオルクもその理由については、何も話そうとしなかったので、イザベラはいっそここにいる内に、彼の家族に全てを打ち明け、相談していようかとさえ考えたが、その勇気も出ないまま2人はミュンヘンを発って、独仏国境に近いウェルテンブルク王国の首都シュタットガルトに向かった。
先々代の王妃がバイエルンの王女だったことで、ゲオルクにとっては遠い親戚にあたるため、王宮のヴィルヘルム城で新郎新婦のための、歓迎と結婚祝いを兼ねた晩餐会が開かれた。
その夜ゲオルクは、ここには飲みながら歓談するような、親しい親戚も友達もいないためか、いつもより早く寝室に入って来た。
そしてさっさと服を着替えると、何のためらいもなくベッドに入って来た。
今夜こそもっと突っ込んだ質問をしようと、意気込んでいたイザベラは、やや拍子抜けして何から話そう考えたが、その暇も与えずゲオルクの方から、「貴女は結婚前にどなたかと恋愛をしたり、男性に思いを寄せたことがおありですか?」と質問して来た。
全く想定もしてなかった問い掛けに、イザベラは面食らい「いいえ、特には」とだけ答えた。
嘘ではなく24になる今日まで、イザベラは全くと言ってよいほど男性には縁が無かった。
自分だけではなく上昇志向の強い母から、娘たちは身分の高い皇族や、王族に嫁がせるつもりで、自由恋愛などは以ての外という教育を、幼い頃から施されて来たせいか、心身ともに純潔を守ることを余儀なくされたのである。
「ご覧の通り平凡な容姿で、何ら抜きんでた才能もない性格ですから」と、イザベラは作り笑いしたが、ゲオルクは笑わず、むしろ辛そうな顔をして、「いや、貴女は美しくて聡明な人ですよ。僕は王子という以外は何の取柄も無い凡庸な男ですが、でもこんな僕にも一度だけ、恋をする機会がありました」と打ち明けた。
そのことが今まで自分との夫婦生活を営めなかったことと、関係があるのだろうか?
何にせよ彼もこのままではいけないと思い、全てを告白する気になったのだろう。
夫の過去の女性関係など、聞いて面白いはずはないのだが、それが彼の今の状態の原因となっているのなら、それを聞いて自分が納得できるならと、イザベラはゲオルクの話に黙って、最後まで耳を傾けようと心に決めた。




