4・新婚旅行
おかげでイザベラはよく眠れなかったが、明け方近くには微睡んでいたのだろうか、ゲオルクが先に起きる気配がしたので、彼女も起き上がって「おはようございます」と挨拶したが、彼は「おはよう」と素っ気なく返事をしただけで、朝の支度を続けた。
これから新婚旅行へ出かける予定だった。
やがて使用人たちが入って来て、新婚夫婦の朝の支度を手伝ってくれたりしたが、ベッドを直そうとしていた1人が、“そのこと”の痕跡が無いのに不審を感じたようだ。
ゲオルクが何もしなかったのではなく、自分が処女じゃなかったなどと、誰かに報告されるのは心外だと思ったが、イザベラもゲオルクもその侍女も、何も言わなかったし言えなかった。
その日2人はウィーン駅から家族に見送られて、取り敢えずザルツブルグ行の列車に乗ったが、窓際の席に座ったゲオルクは外を眺めるばかりで、新婦の方はほとんど見なかった。
それでイザベラは時々車窓から変った風景が見えると、それについて短い感想を彼に述べてみたのだが、彼はそれ以上に短い「ああ」とか、「そうですね」などと、ろくにこっちも見ずに答えるだけだった。
そんな汽車の旅が何時間か続き、その間に食事も摂ったのだが、彼はそれを黙々と食べるだけで、一言も発しなかった。
そんな彼の態度に対して、彼女は彼女で色々考えていた。
私が気に入らなかったのだろうか、他に好きな人がいたのだろうか、元々結婚そのものが嫌だったのだろうか・・・と。
ザルツブルグを少し観光した後、そこからやや西へ行った、花婿の故郷であるミュンヘンの王宮、ホーエンジュヴァンガウ城に、今夜は泊まる予定だった。
そこでゲオルクの親族ヴィッテルスバッハ家の人々との、親睦を深めるための晩餐会に出席したが、イザベルは昨夜のことが気になって、どうにも気が晴れなかった。
だから今夜は昨夜のように、ただ黙っては過ごさず、彼に上記のような質問を2,3してみようと思った。
少なくとも彼が自分のことを、どう思っているのか判らなければ、この先の旅も落ち着いてできそうにない。
彼が自分を気に入らない、結婚を後悔しているのだったら、このままで良いとは思えなかった。




