34・ゲオルクの本心
「例え彼が最終的に夫の務めは果たせないとしても、優しい言葉や愛撫があれば、私も彼を愛せるようになったかもしれません。でも彼はそんなことも一切せず、常に素っ気ない言動で、私に指一本触れようとしなかった。だから私も早々に、彼を愛そうという努力をする気を、失くしてしまったのです」
パウルはしばらく黙って、イザベラの話を聞いていたが、ややあって「でも僕も男だからか知れませんが、少しは彼の気持ちが解るような気がします」と言った。
イザベラが手の甲で涙を拭って、パウルの方を見ると、「仮に彼が貴女に優しい気持ちがあって、それを言動に現し、それで貴女が彼を愛するようになっても、彼は詰まる所それに応えることが出来ない。だから殊更貴女につれなくした。貴女に愛されないよう、振舞ったとは考えられませんか?」と彼は言った。
「そんなこと!」とイザベラが叫ぶように言うと、「いや、僕が彼の立場だったら、そうしたかもしれないと考えただけです。彼の独身時代の恋人の女性が、どのみち結ばれない運命ならば、良い思い出だけを残して別れようと言ったのと同じく」とパウルは答えた。
「彼がいつそんな決心をしたのかは判りませんが、結局実質的な結婚が出来ないなら、貴女に愛されない内に別れた方が良い。でも例え短い間でも、嫌な記憶は残したくない。彼が貴女を気に入らなくて、自分も嫌われようと思うなら、世間の横暴な夫みたく、貴女に暴言や暴行を、繰り返せば良いだけですが、そうすると自分が憎まれたくもなかったでしょうが、何より貴女の身も心も、傷付けてしまいますからね」とパウルは続けて語った。
「それでわざと私につれなくしていたと?」とイザベラが問うと、「わざとと言うか、紳士が貴婦人に対する自然な態度だけを、取っていたように見えます。でも夫婦や恋人のような振舞は避けていた、互いに愛が芽生えないように」
「そうなんでしょうか?」イザベラはまだ懐疑的だったが、パウルは「彼は自分の名誉も考えていただろうけど、そのせいでに貴女の名誉を損ないたくなかった、そして離婚後の貴女の身の振り方を、何より気に掛けていた。決して自己中心的な人物は無いような気がします」という感想を述べた。
パウルの言葉は徐々に、イザベラの胸に染み入って来たが、だとすればそれはそれで、早々と彼を見限り、自分のことしか考えなくなった自分が、如何にも冷たい女のように思えて来た。
するとイザベラは再び涙が滲み出て来た。思い遣るどころか、初めは彼を憎んでさえいたような気がする。その気持ちを抑えるために、なるべく彼のことは考えないようにし、自分のことにばかり関心を向けようとしていただけではないか?




