2・隣の国の王子様
とにかく皇太子妃、つまり未来のオーストリア皇后になり損ねた、テシェン家の上の娘たちは、その後それぞれ身分相応な相手と結婚したが、その後の4女と5女は早逝したので、大公妃の娘婿探しはしばらく休養することになり、イザベラの番が回って来たのは、約10年後である。
その縁談は姉たちに比べて玉の輿と言えた。
相手は隣国バイエルンの王子で、フランツ・ヨーゼフ皇帝の外孫にあたる、ゲオルク・フォン・ヴィッテルスバッハである。
彼は当時オーストリア=ハンガリー帝国軍の、第11竜騎兵連隊所属の大尉だった。
皇帝の次女ジゼル大公女が、バイエルン国王ルートヴィヒ3世の弟、レオポルト王子に嫁いで生んだ長男だから、皇帝にとっては外孫とは言え、初めての男の孫ということで、特に目を掛けられていると言う。
それで家族は一様に喜んだが、イザベラ自身はどうかと言えば、結婚はめでたいことには違いないが、今までハプスブルグの一族とは言え、分家のみそっかすだった自分が、オーストリアほどの大国ではないものの、未知の王国に嫁ぐという不安が、全く無かった訳ではない。
それは多分やはり数十年前、ヴィッテルスバッハ家の分家の次女から、いきなりオーストリア皇后になった 故エリザベート皇后の不安の何分の一か、何十分の一かに似たものだろうが、例え王侯貴族でなくとも、結婚前の娘の誰もが感じる、単なるマリッジ・ブルーだったのかもしれないが。
しかしその王子に初めて会った時、イザベラの彼に対して持った印象は、何とも言えぬものだった。
美男と言うほどではないか、そうかといって醜男でもない。
軍服姿だったためか、上背があって体も引き締まり、決して女が幻滅を感じるような、容姿ではなかったものの、顔つきは軍人なせいか厳し目で、少し怖いような感じがした。
実際ゲオルクは見合いの席でも、ほとんど笑顔を見せず、自分のことも特に気に入ったように、イザベラは感じなかった。
自分は大して美人でもなく、やや小太りでもあると自覚していたから、もし彼が例えば数十年前の、フランツ・ヨーゼフ皇帝が電撃的な一目惚れをしたような、若き日のエリザベート皇后ほどの、絶世の美女を期待していたのなら、或いは幻滅したかもしれないが、そこまで高望みはしていなかっただろうと、イザベラはそう深く考えなかった。
どの道もう見合いの段階まで来てしまったのだから、どちらかに余程の欠点でも見付からない限り、もう結婚は決まったようなものだ。
ただその“余程の欠点”に、結婚してしばらくは一緒に過ごして見なければ、判らない場合もある。




