25・Vocatio-召命
再びフランスへ渡った一行は、今度はロワール川を遡り、オルレアンでは聖十字架大聖堂で、ジャンヌ・ダルクの生涯を描いた、ステンドグラスを見学したり、ジュネーブのレマン湖畔では、亡きエリザベート皇后を偲んだり、ミラノではサンタ・マリア・デッラ・グラツィエ教会で、レオナルド・ダ・ヴィンチの、『最後の晩餐』を鑑賞したりと、往路よりはむしろ意義ある旅を続け、明日はローマに向かうという前夜、ミラノのパラッツォ・ドゥオーモに宿泊した夫妻は、やはり別々のベッドに寝ながら、まずイザベラが「ローマでは教皇猊下にお会いして、直接結婚無効の許可をお願いするのですか?」とゲオルクに尋ねた。
「いえ、それは流石に無理でしょうから、かつて皇帝陛下の顧問をなさってたウィーン大司教様が、今は枢機卿としてヴァチカンにおられますから、まずその方にお話を聞いていただこうと思ってます」
「その時は私も同席した方がよろしいでしょうか?」とイザベラが聞くと、「そうですね、2人のことですから、一方だけの話を聞いても、枢機卿も正しいご判断ができないでしょうし」とゲオルクは答えた。
元ウィーン大司教のナグル枢機卿は一通り話を聞くと、やはり難しい表情で「やり直すお気持ちはないのですか?」と質問して来た。
「それはここ数カ月間の旅の合間に、何度も話し合ってきました。しかし私が実質的な結婚生活が送れないこと、妻がそれをこの先一生は受け入れられられそうにないということで、これ以上結論を先延ばししても意味が無いと思い、お互い旅が終り次第、別れることに同意しました」とゲオルクが答えた。
枢機卿は深い溜息を吐いて、「神の前で誓った契りを破るのは忍びないですが、そんな状態を結婚とは言えませんから、“無かったこと”にするのは止むを得ませんね」と呟き、「教皇猊下と皇帝陛下には私からお伝えしますが、お互いのご家族ーバイエルン国王とフリードリヒ大公には、ご自身で事情を説明なさいますか?私からもお手紙でお口添えしてもよろしいですが」と2人に問うと、「ええ、その方が両親も納得できるでしょうから、ご面倒でなければ、よろしくお願いします」と、今度はイザベラが答えた。
そうしてヴァチカンを後にしながら「残念でしたね」、「でもこれでさっぱりしました」などと言い合っていると、ゲオルクはふと立ち止まって、サン・ピエトロ大聖堂の方を振り返り、「貴女が聖トーマス病院で召命を感じられたように、僕もここへ来て何かの啓示を受けた気がします」と言った。
決して憎み合っている訳ではないが、同じ道を歩いて行けない定めの2人だったのだと、イザベラも感慨を深くした。




