23・ローマの休日
ややあって「それでは僕の我儘も1つ聞いていただけますか?」とゲオルクは言った。
「何でしょう?」と、イザベラがやや戸惑いながら聞き返した所、「僕はローマに寄ってみたいんです」
と彼は答えた。
「ローマ・・・」そうすると往路よりは南側を横断し、アルプスを越えてミラノから、イタリア半島を南下することになるが、アルジェへ行くよりは判りやすく、見所も多いような気がする。
或いは彼はローマで教皇かその側近の枢機卿に会えたら、直接結婚無効の許可を求めるつもりかもしれないが、2人共もう心は決まっているのだから、それは早い方が良いだろう。
(まさかそのままお坊さんになって、その先は私1人で、帰らなきゃいけないってことにはならないでしょうね)とイザベラは思わず苦笑した。
数日後無事退院したイザベラはとゲオルクは、コンノート公アレクサンドラ王女とに見送られて、ロンドンを発った。
サンドラ「先にスコットランドへ行かれることにしたのですって?」
イザベラ「はい、王女様のお話を伺って、どうしようもなく行きたくなってしまって」と、イザベラは笑顔で答えた。
アーサー「ウェールズにも回られるのでしたら、その方が合理的なコースですね。ロンドンのような都会にはない、大自然を満喫して行ってください」
ゲオルク「色々お世話になりました。その後はプリマスからブルターニュへ渡るので、今回はここでここで、お別れしなければならないのが残念ですが、またお会いできる機会がありましたら」
皆でそんな話をしながら、やがてグラスゴー行きの列車に乗ったイザベラとゲオルグ、コンノート公とアレクサンドラ王女は、お互いに手を振り合って別れを惜しんだ。
そんな彼らが時ならずして、敵と味方に別れて戦うことになろうとは、この時は誰にも予想できなかった。
スコットランドの森や湖、ウェールズの何億年も前に形成された山々を眺めていると、イザベラは自分自身もその自分が抱えている悩みも、本当に小さなものに思えて来た。
ゲオルクとはもう寄り添うことも無く、雑談を交すことも稀になったが、彼も恐らく彼女と同じように考えているだろう。
出来ることなら、かつてのアレクサンドラ王女とクリストフォロ王子のように、同じものを見て同じように感じられる時間が、一時でもあれば良かったが、ゲオルクは最初からそうする気は無かったらしいし、自分もそうなるよう、大して努力もしなかった。
彼は今自然に癒されてはいるだろうが、それはローマへ行く前の、束の間の心の休息だろうし、自分もそれは避けて通れない問題だから、心しておかなければならないと思った。
ローマまでどれくらい掛かるか判らないが、それが彼との最後の話し合いの時間になるだろう。




