22・Noblesse Obligeー貴族の責任
「有難うございます。結婚するのにまだ以前の恋人を、忘れ去っていないと言うのは、罪深いことだと思っていましたが、そう仰っていただけると、心が軽くなったような気がします」と言うと、イザベラは
「いいえ、私こそ。ここに来て貴女様にお会いしなかったら、私は過去を後悔しながら、不毛な一生を送る所でした」と答えた。
王女には意味が解らず、イザベラも敢えてそれ以上のことは話さなかったが、「この次いつお会いできるか判りませんが、退院されてウェールズへ向かわれる時は、きっとお見送りに参ります」と、王女は約束してくれた。
病院のロビーまで送ってくれた王女に、重ねて礼を述べた後病室へ帰ると、ゲオルクは既に戻っていて、「結構長いお散歩でしたが、お体は大丈夫でしたか?」と尋ねた。
「ええ、もうすっかり秋で、とても爽やかな陽気でしたから」とイザベラが答えると、「ではもう一度先生に診察していただいて、退院の許可が出たら、ウェールズへ行く準備をしましょうか」
ゲオルクがそう言うとイザベラは、「そのことなんですが・・・」と言って、しばし間を置き、「ウェールズも良いですけど、スコットランドへも行って見ませんか?」と提案した。
ゲオルクは一瞬目を丸くして、「悪くありませんが、それだと旅程を組み直さねばなりませんね」と呟いた。
「我儘を言ってごめんなさい。でも大陸の海から遠い所に、今まで住んでいたためか、この島国の自然に、お思い切り触れたくなりまして。旅程が長くなるようでしたら、アルジェ行きは諦めてもいいんです」と言うイザベラの真意を、ゲオルグは測りかねたが、「僕もコンノート公のおかげか、イギリスを好きになりましたよ。狭い島国であっても、イングランドにもウェールズにもスコットランドにも、独特の文化があるようで、この際心行くまでそれらを堪能してみるのも、良いかも知れませんね」と、同意の構えを示した。
「それとゲオルク」とイザベラは話を続けた。
「たぶん貴男が一番懸念しておられるでしょう、離婚後の私の身の振り方についてですが私、修道院ではなく看護学校へ入ることに決めました」
ゲオルクは驚いたように、「職業婦人になられるのですか?」と尋ねると、「はい、この病院へ入院して、ナイチンゲール女史のお話を、アレクサンドラ王女から伺っている内に、私もいわゆる『ノブレス・オブリージュ』に、目覚めたような気がするのです。男の貴男が戦場では、率先して矢面に立つように、女の私はそれで傷ついたり、病んだりした人を助けるという役目に」
ゲオルクは何とも言えなかったが、それが修道院へ行くのでも、再婚するのでもない、親に決められたり、外圧から仕方なくそうするのではなく、彼女自身の決意なのだったら、喜ぶべきことなのだろう。




