17・聖トーマス病院にて
高熱で頭が朦朧とする中で、時折看護婦が持って来てくれる解熱剤や咳止め剤、痰を切る薬や睡眠薬を飲んでいる内に、何日経ったのかイザベラがふと目を覚ますと、ゲオルクがベッドの側の椅子に腰掛け、室内には他にベニーと、看護婦らしき若い女性が1人いた。
イザベラが「ここは病院ですか?」と、ゲオルクに尋ねると、「ええ、テムズ川沿いにある聖トーマス病院です。ただの風邪じゃなく肺炎になり掛けていて、すぐに治療したのが功を奏し、回復の目途は付いたようですよ」と彼は答えた。
「ベニーのお陰ね、有難う」とイザベラが礼を言うと、彼女は「痛み入ります」と答えて会釈した。
看護婦はベッドに寝ていたイザベラの背に、大きめのクッションを当て、その目の前に小さな四つ足のテーブルを置いて、簡単な食事を配膳すると、「少しでも食欲がおありでしたら、出来るだけ召し上がって、お薬をお飲みください。全快するまでにはもう少し掛かると思いますので」と、テーブルの隅に薬を置くと、ドアの所で丁寧な礼をして出て行った。
「貴男はずっと付いていて下さったのですか?」と、イザベラはゲオルクに聞いたが、「いえ、昨日はコンノート公の所へご挨拶に行ってきました。公も貴女の体を御心配下さって、この部屋も御手配いただいたので、お礼やお詫びも兼ねて」と彼は答えた。
確かにこの部屋は特別室のようで、ドアで繋がっている隣室は、ゲオルクかベニーらが付き添うためのもののようだ。
「他の従者たちはどうしています?」と、イザベラが重ねて尋ねると、「近くに宿を取って休んでいます」とベニーが答えた。
「私の体はもうしばらく、元に戻りそうにないから、その間みんなも適当にやっているように伝えて。せっかくロンドンまで来たんだもの。入院してる間はお医者様と看護婦さんが、ちゃんと見て下さるようだし、貴女も疲れただろうから、宿へ帰って少し休んでいなさい」と、イザベラが言い付けると、ベニーは「お気遣いいただき、有難うございます。では御言葉に甘えて、今日はこれで失礼いたします」と言い、彼女もドアの所でお辞儀をして出て行った。
そうして病室にはイザベラとゲオルクの2人だけになった。




