14・得るもの・失うもの
イザベラにはゲオルクが何を言いたいのか、単なる雑談なのか判らないでいると、彼の話題はまた元に戻った。
「ルートヴィヒもオット―も、始めから狂人だった訳ではないけど、その萌芽は生まれ付きあったのでしょう。ルートヴィヒの初体験の相手は、男性だったと言われていますが、そのせいで男色家になったと言うより、それは単に生来の性癖を呼び覚ます、切っ掛けに過ぎなかったのかも。
オットーも若い頃は普通の男性だったけれども、戦争体験で精神を病んでしまったとか」
それでもイザベラはまだ、ゲオルクの本意を測りかねていたが、彼は続けて「僕が失恋を切っ掛けに、女性に欲望を感じなくなってしまったのも、元々そんな潜在的な何かがあったのかもしれません」
そこでイザベラは彼の言いたいことが、何となく判って来た。
「だから貴女の援助を受けて、僕の障碍が治るとは限らないし、それ以前に貴女にそこまでしていただく理由がありません」
「どうして? 私たちは夫婦なのに!」とイザベラは叫ぶように言ったが、ゲオルクは相変らず冷静に、「今の所はそれだけでしょう? お互い自分で選んだ配偶者でもなく、僕は国王でも皇帝でも、まして絶世の佳人でもない、一王子で一軍人です。
貴女がどれだけ僕に尽くして下さっても、それに報いるものは何も持ってないのです」
イザベラは口籠ってしまった。
確かに医者にも治せないような、生まれ付きの性癖や障碍が、夫婦愛だけでそう簡単に、治せるとは思えない。
ましてその夫婦愛でさえ、まだ築くに至っていない新婚なのだから。
2年や3年ならまだしも、一生そんな生活を続ける自信があるとは、流石に断言できずにいるイザベラに、ゲオルクは駄目押しするように、
「どこの王家でも代々こんな場合、1人の女性を犠牲にして男の恥や罪を糊塗し、それだけ何人もの女性が涙の内に、不毛な一生を終えたものですが、僕は貴女をそんな目に遭わせようとは思っていません」と言い切った。
それでもいい、それでも貴男と別れたくないと、言えれば良かったのだろうが、イザベラにそれは言えなかった。
彼女はまだそこまで彼を愛してはいないし、それ以前に彼がもう相手が自分でなくても誰でも、結婚という人生の選択肢を、頭から除外しているような気がしたのだ。
そんな彼を愛し尽くすことは、彼にとっては返って重荷になり、自分の人生も空しくなるのではないかと、イザベラは考えたのである。




