13・ヴィッテルスバッハ家の血
パリの観光を一通り終え、セーヌ川を下る船の甲板へ出て、イザベラはゲオルクに、先日考えたことを提案してみた。
しかしゲオルクは別に嬉しそうな顔もせず、「我がヴィッテルスバッハ家に、奇矯な人物が多いのはご存知ですか?」と、まず彼女の提案とは、全く関係の無いことを質問して来た。
イザベラは何と答えて良いのか判らなかった。
例えばゲオルクの伯父ルートヴィヒ3世が、一時摂政を務めていた先王オットー1世は完全な狂人で、毎日農民1人を猟銃で射殺するのが、王の務めだと思っていたとか(尤もそれは臣下が王に空砲を渡し、農民の扮装をした兵士が、倒れたふりをしていただけだったが)。
その兄のルートヴィヒ2世は、弟ほど顕著な狂人ではなかったが男色家で知られ、中年以降は城造りに熱中して財政を傾けたため、家臣たちが狂人ということにして、幽閉しようとした所、脱走して湖で溺死したと言われている。
それらのことはイザベラも知っていたが、あからさまに口には出来ないでいると、「考えようによっては亡きエリザベート皇后もそうですね。あの方は人一倍自由を愛する性格だったのに、美し過ぎたためにオーストリア帝国の皇后という、窮屈な玉座に据えられてしまった」
ルートヴィヒやオットーはともかく、エリザベートの話まで出て来るとは思っていなかったイザベラは、面食らうと同時に興味も覚え、黙ってゲオルグの話の続きを聞いていた。
「しかもあの方は、その意味も分からない少女の内に、そんな立場に置かれたため、厳格な宮廷生活に耐えられず、精神を病んで旅に逃げるしかなくなった。そしてそんな旅路の果てに亡くなった」
もう十数年前のことであり、イザベラも余り詳しい事情は知らなかったが、子供心にショッキングな事件だったことは覚えていた。
「ろくに公務も果たさず、度々お召し列車を仕立てて、大勢のお付きを従え、旅先でも豪華な別荘やホテルで、贅沢な生活を送るという、ある意味狂的なことが許されたのは、あの方が絶世の美女だったからです」
「・・・」
「ご自分でもそのことは判っていた。だから旅と同じぐらいに、ご自分の美を磨くことに執着された」
「でも美は年と共に衰えて行くものですから、一生の幸福は約束してくれませんわ」とイザベラは、そこで初めて口を挟んだ。
「ええ、亡くなる前のあの方を思い出せば、まだまだ美しかったけれども、一番大切な物を失う前に、一生を終えられたのは、ある意味幸運だったかもしれません」




