12・行きつ戻りつ
ゲオルクはう~んと唸って俯いた。
彼も自分の体のことを公にされるのは、極力避けたいのだろう。
「母に隠せないとなれば、私から直接話すよりも、父のフリードリヒ大公か、皇帝陛下に先に打ち明けて、母には何より両家の名誉を優先するよう、説得した方が良いと思います」と、イザベラは提案した。
「そうですね、お母様も何より、貴女の今後のことを考えると、世間体は気にされるでしょうし」とゲオルクは多分、自分の家庭を基準にした意見を述べたのだろうが、それに対してイザベラは、「母は娘8人を産んだ後、40を過ぎてやっと跡継ぎの弟を儲けましたから、私の今後は釣り合いの取れた相手と再婚させるか、あるいは修道院へ入れるかすれば、体面は保てると考えてるでしょう。
上の3人の姉は相応な身分の方へ嫁ぎましたが、4番目と5番目の姉は夭死し、6番目の姉は体が弱くて気立ても大人しく、結婚生活には耐えられそうにないということで、修道女になりましたから、私も或いは修道院へ行くことになるでしょうね」と述べた。
「それは・・・」とゲオルクは、半ば叫ぶように言った。
「それは貴女の本意ではないでしょう? 宗教心はそれほど深くないと仰ってたのに!」
「でもこの先私が身分は釣り合っていても、会ったことも無く、話したことも無い方と再婚したって、幸せになれるとは限らないでしょう?」とイザベラは彼に、ある種の皮肉を込めて答えた。
それに気付いたかどうかは判らないが彼は、「しかし少なくとも僕のような欠点のある男性は、ご両親も再婚相手には選ばれないと思いますよ」と言い返した。
「そういう親の決めた相手と結婚して、何とか折れ合って数人の子供を産んで・・・というのが、私たちのお定まりの結婚の形なんでしょうね」と、イザベラは溜息混じりに呟いた。
それからしばし間を置き、「でも無理かもしれないけど私、今度は自分の行きたい道を選びたいんです。フェルディナント皇太子もそうと言えるかもしれませんし、ハプスブルグ家の中にも過去に僅かながら、そんな人物はいましたので、不可能ではないと思います」とイザベラが言うと、ゲオルクも「僕も最初から聖職者になれば良かったのかもしれません。でも分家とは言え長男で、祖父皇帝に目を掛けられていた身では、その決心も付きませんでした」と寂しく答えた。
この時点でイザベラはふと考えてしまった。
お互い自分で選んだ道を歩きたいと思っていたが、身分や立場に阻まれた私たちは、その点を共通項として、やって行けるのではないか?
ゲオルクの肉体的瑕疵も、生まれ付きではなく精神的なものなら、夫婦で時間を掛けて努力すれば、改善できるのではないか?
そうすればフリードリヒ大王夫妻のように、例え男女の関係は無くても、夫婦と思えるような絆が育めるのでは!などと、彼女はまた元来た道を引き返すようなことを、頭に思い浮かべたりもした。




