11・テシェン家の事情
「離婚するとしたら貴男はその理由を、お祖父様の皇帝陛下やご両親に、正直にお話しするおつもりですか?」と、イザベラはゲオルクに尋ねた。
「この件に関して責任があるのは僕の方ですから、この旅行中に性格の合わないことが判って、お互い合意の上で離婚すると言っても、皆が納得してくれないようなら、そうするしかありませんね」と、彼は溜息混じりに呟いた。
「皇帝陛下も国王陛下もご両親も、それは身内の恥となることですから、世間には公表なさらないでしょうけど、問題は私の方ですわ」と、イザベラが言った所、「僕もそれを懸念します、理由をはっきりさせなければ、貴女の方にも責任があると思われるのは、申し訳ないことですから」と、ゲオルクは答えた。
そこでイザベラは、「私の母のことはご存知ですか?」と、彼に重ねて問い掛けた。
「直接お会いしたのは結婚式でだけですが、大変エネルギッシュな方で、芸術や慈善にもご熱心で、テニスなどのスポーツも良くされると伺っています」
「そのテニスに関することなんですが・・・」とイザベラは十数年前の、フランツ・フェルディナント皇太子と、ゾフィ夫人のことを話し始めたが、それはゲオルクも大体知っていたようだった。
「母は皇太子がその頃、我が家を度々訪問されていたのは、姉のクリスティーネに求婚されるつもりだと思い込んでいたのに、ある日皇太子が我が家の庭でテニスをなさった後、ベンチに忘れて行かれた懐中時計をの蓋を、母が開いて見るとそこに入っていたのが、当時は我が家の一侍女に過ぎなかったゾフィ夫人の顔写真だったんです。
それで母は激怒して、理由も告げずにゾフィ殿を即刻解雇し、そのことをウィーンの皇帝にも知らせたため、2人の身分違いの恋が公になったんです」
「そうなんですか、僕はその頃ミュンヘンにいたんで、詳しいことは知りませんでしたが」
「確かには母は精力的で向上心が強く、父の出世や私たちの教育にも熱心だけど、それだけにその期待が裏切られると、感情の起伏が激しくなり、姉と皇太子の縁談の当てが外れた時も、皇太子殿下とゾフィ殿が、それまで密かに育んでいた仲を、本人たちの気持ちや立場も考えずに、暴露してしまったくらいですので。
貴女と私の結婚が決まった時も、大変喜んでましたから、それが僅かの間に離婚に至ったとなれば、貴男の名誉を考える余裕を失くすかもしれませんね」




