10・陰謀
それから国境を越えてフランスに入り、ひたすら西を目指す汽車のコンパートメントの中で、2人は色んな策を講じ合った。
そんな彼らを従者たちが傍目から見れば、決して仲が悪いようではないものの、そうかと言って新婚夫婦らしくもない、例えて言えば2人のテロリストが、何か要人暗殺計画みたいな、大陰謀を企てているかの如く、ただ顔を突き合わせて、ヒソヒソと話し合うだけで、笑顔も笑い声も見聞きできない、奇妙な光景に感じたかもしれない。
そう、2人は列車が最初の目的地パリに着く頃には、もはや結婚の継続は有り得ず、離婚の道を模索し始めていた。
そこに至るまでにはゲオルクは生真面目さ故か、イザベラの方は生来の現実的性格のためか、このまま世間を欺いて、一生夫婦のフリをし続けることは、お互いできそうにないという、結論に達していたのである。
ただ2人とも片やバイエルン王家、片やハプスブルグ家の分家という、大貴族の一員だけあって、一番に考えるのは家の体面ということだった。
そのためには出来るだけ円満に、事を大きくせず、そして互いの名誉を極力傷付けずに、別れなければならないが、それは非常に難問だった。
離婚ということだけでも、彼らの身分では大変なスキャンダルだし、単に性格の不一致と言うだけで、世間が納得してくれるかどうか。
片方か或いは両方に、何か結婚を継続し得ない、重大な瑕疵があるのではないかとは、誰もが疑うことだろう。
「双方が別れを望んでいて、それ以外は互いに何の要求もしなければ、協議離婚で済むでしょうが、問題は教皇庁からの、結婚無効の許可がもらえるかどうかでしょうね」とゲオルグが言った。
確かに教皇庁から、結婚無効の許しを得るのは、並大抵のことではなかった。
単に夫婦仲が悪いとか、一方もしくは双方が不貞を働いただけでは許されない。
例えば一方がカトリックでも、相手がプロテスタント等の異教徒で、改宗しないまま結婚したとか、或いは双方が元来結婚できないような近親者だったにも関らず、事前に許可を受けなかったとか。
そして夫が不能者であるとか、妻がいわゆる“穴無し”などで、実質的な結婚が不可能である等、余程特別な事情が無くてはならない。
「僕は神の前で嘘は付けませんから、そのことだけは正直に告白するつもりです。実質的な結婚が出来ないとなれば、教皇庁も流石に別れるなとは言わないでしょうし」と、ゲオルクは言い切った。
「貴男の信仰心の厚さは本物ですね」と、イザベラは聊か感心したように呟いた。




