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ところで

俺は、諏訪之瀬の後を追って教室を出た。


「ところで」


「何?」


「さっきの三人はともかく、最後の一人はどうするんだ?」


「……」


 諏訪之瀬が足を止めた。


 ほんの一瞬だった。


 だが、確かに彼女の表情が変わった。


「何だよ」


「別に」


「いや、今なんかあっただろ」


「気のせいよ」


 そう言って、彼女は再び歩き始める。


 どう考えても怪しい。


「お前、最後の一人について何か知ってるだろ」


「……」


「図星か?」


「あなた、意外と鋭いのね」


「意外は余計だ」


 諏訪之瀬は廊下の窓から外を眺めた。


 校庭では、朝練をしている運動部の生徒たちが走っている。


「最後の一人はね」


 彼女はそこで言葉を切った。


「私たちが探す必要はないわ」


「どういう意味だ?」


「向こうから来るから」


「……誰が?」


「さあ?」


「おい」


 思わず足を止める。


「さあって何だよ」


「名前も知らないもの」


「知らないのかよ!」


「でも、分かるの」


「何が?」


 彼女は振り返った。


 さっきまでの軽い調子とは違う。


 妙に真剣な目だった。


「この学校には、まだ私たちの知らない青春が一つ残っている」


「……青春?」


「ええ」


 意味が分からない。


 だが、なぜかその言葉だけが妙に引っかかった。


「それを見つけるのが、青春研究部の最初の活動よ」


「随分と壮大な話になったな」


「そう?」


「部員を一人集めるだけの話だっただろ」


「違うわ」


 諏訪之瀬は静かに首を振った。


「最後の一人を見つけることが、部員を五人にすることより重要なの」


「……」


 俺は黙った。


 何かがおかしい。


 たかが部員一人。


 それなのに、どうしてこいつはそこまで拘る?


「お前、そいつのことを知ってるんじゃないのか?」


「知らないわ」


「じゃあ、なぜそんなことが言える?」


「……」


 彼女は答えなかった。


 代わりに、教室のほうへ視線を向ける。


 俺もつられて振り返った。


 誰もいない廊下。


 朝の静かな校舎。


 その先――俺たちの教室の扉だけが、わずかに開いていた。


「……誰かいる?」


 俺が呟いた瞬間。


 ガタン。


 教室の中から、何かが倒れる音がした。


「今の音……」


 諏訪之瀬が歩き出す。


「待てよ」


「何?」


「まさか……」


 俺たちは教室へ戻った。


 扉を開ける。


 そこには誰もいない。


 ただ、一つの机だけが倒れていた。


 俺は眉をひそめる。


「風か?」


「窓は閉まっているわ」


「じゃあ誰が――」


 そのとき。


 机の下から、一枚の紙が覗いていることに気づいた。


 俺は拾い上げる。


 そこには、見覚えのない文字で一言だけ書かれていた。


 『青春研究部には、入らないほうがいい』


「……何だ、これ」


 諏訪之瀬の顔から、笑みが消えた。


 俺は彼女を見る。


「おい。お前、これを知ってるのか?」


「……知らないわ」


「本当に?」


「ええ」


 だが、その声には昨日までの余裕がなかった。


 そして俺は気づいた。


 この紙が置かれていた場所。


 そこは――


 昨日まで、俺の席だった。


 最後の一人。


 そいつはまだ姿を現していない。


 けれど、どうやら向こうは。


 俺たちのことを、もう知っているらしい。

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