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DEVIANT DETECTIVE  作者: 藤山理想


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13/16

13#Cruel Countdown

 開け放たれたままの玄関と窓から、新宿の冬の冷気が容赦なく事務所内へとなだれ込んでくる。

 氷のように鋭い空気が室内の熱を奪い、カーテンを激しく煽った。

 心春の身体が細かく震えているのは、決してその冷え込みのせいだけではなかった。

「……心春、無事か」

 血に染まったかのような憤怒を奥底に封じ込め、心春のもとへと駆け寄った。

 心春は己の肩を両手で力任せに抱きしめ、自分の中から漏れ出そうとする恐怖を必死に抑え込もうとしている。

「ごめんなさい……何も、何もできなかった。銃を打つことすら……」

 心春の視線は虚空を彷徨い、さっきまで標が座っていたデスクへと釘付けになっていた。

 あの圧倒的な邪悪に触れ、自分がただの「標的」として無力化されたという事実に、彼女は激しい自己嫌悪と震えを止めることができない。


「大丈夫だ。座っていろ」

 心春の震える肩を抱き寄せ、ソファへと押しやった。その掌から伝わる確かな体温と重みが、心春にとって唯一の救いだった。心春の瞳を真っ直ぐに見つめ、強い声音で「大丈夫だ」と繰り返すと、ようやく踵を返した。


 風が吹き込む窓辺へ歩み寄り、身を乗り出して外を確認する。視界を遮る深い闇と雑居ビルの影を見回すが、先ほどまでそこにいたはずの標の気配は、まるで幻影のように霧散していた。

 窓を閉め、開け放たれたままの玄関のドアを閉め、重い足取りで事務所の中央へと戻ってきた。


 冷えた空気が室内に留まり、先ほどまでの穏やかな日常が、今は遠い過去の出来事のように感じられた。心春がソファの上で小さく膝を抱え、それでも懸命にロキの姿を追いかけている。彼女のその視線が、ロキの胸をより一層強く締め付けていた。


 心春の隣に深く腰を下ろした。

 沈黙が事務所を支配し、ただ、外で鳴り響く遠い街の喧騒だけが二人の耳を打つ。ロキの気配がすぐそばにあるだけで、心春の硬直していた肩の力が、かすかに抜け始めた。

「……すまなかった。巻き込んだ」

 ロキが絞り出すように発したその言葉には、百年の歳月をかけて積み上げてきた復讐への後悔と、今この瞬間、心春を危険な運命の渦中に置いてしまったことへの痛切な懺悔が混じっていた。


 言葉と同時に、ロキの拳には無意識に凄まじい力が込められる。爪が掌に食い込み、裂けた皮膚から、紅い血の雫が床へと零れ落ちた。黒いカーペットに染みを作っていくその赤い色は、かつて彩を失った日の記憶を否応なしに呼び覚ます。


 心春は、ロキの手に浮かぶ傷跡を見て、はっと息を呑んだ。今の自分には、抱える百年の重荷や、さきほどの男に対する憎悪の深さを推し量ることさえできない。けれど、ロキが今、自分と同じように傷つき、そして自分を守ろうとしてくれていることだけは理解できた。

「大丈夫です。……ごめんなさい、落ち着きました」

 心春は震える唇を噛み締め、努めて明るい声を作ろうと努力した。その声がわずかに掠れていることを、彼女自身も自覚しているはずだ。今はまだ恐怖の余韻から逃れられないでいるのに、これ以上ロキを苦しめたくないという一心で紡がれた、精一杯の強がり。


 彼女の横顔をじっと見つめた。その健気な嘘を聞いたとき、胸の奥で渦巻いていた焦燥が、一瞬だけ静かに凪いでいくのを感じた。

 今の彼女のその強がりすらも、今のロキにとっては、自分がこの場所に留まり、この先も彼女を守り抜くための何よりの糧となる。

 彼は溢れ出る激情を制御するようにゆっくりと拳を開き、心春の手をそっと包み込んだ。

「……そうか。なら、今はただ、ここにいろ」

 二人の間に流れるのは、かつての死闘とは違う、静かで確かな絆の重みだった。外は真冬の夜だが、ロキの手の温もりが、心春の凍えそうな心を少しずつ解かしていった。





 朝の光が窓から差し込んでいるが、事務所の空気はどこか重く、淀んでいた。

 時計の針は10時を指している。本来ならば制服に袖を通し、教室で退屈な授業を受けているはずの時間。しかし、心春にはその「日常」の扉を開く勇気がどうしても湧かなかった。

 一度あのような悪意の深淵を覗いてしまえば、平和な教室の風景さえもが、ひどく脆い張りぼてのように感じられてしまう。


 心春は機械的にコーヒーメーカーのスイッチを入れ、黒い液体が落ちていく様をぼんやりと眺めていた。抽出される温かな香りが鼻をくすぐるが、彼女の心はまだ昨夜の標の邪悪な笑みに囚われたままだった。


 二つのマグカップを両手に持ち、慎重に歩いて中央のソファへ向かう。コーヒーを置く微かな音さえ、今の静寂の中では大きく響いた。

「ありがとう」

 ソファに深く腰を下ろしていたロキが、静かな声で言った。彼の表情は硬く、心春が淹れたコーヒーに手を伸ばす動作も、どこか儀式のように厳かだ。言葉を返さず、ロキの向かい側のソファに座った。


 マグカップの温もりを両手で包み込み、立ち上る湯気の向こうで、じっとロキの顔を見つめた。

 ロキが抱えている百年の孤独と、今まさに背負わせようとしている残酷な運命。それを想うと、手は再び微かな震えを見せた。けれど、今日はもう泣くまいと心に決め、ロキの沈黙を共有することを選んだ。

 そんな沈黙を破るようにロキは静かに話し出した。

「あれは名有りの落神。名は標。なんの神だったのかは……俺にも、わからない」

 ロキはまだ暖かいコーヒーを一口啜り、マグカップをテーブルへと戻した。

「昔……もう100年も前のことだ。俺には、愛する人がいた」

 ロキの喉の奥から漏れるようなその言葉を、一言も漏らすまいとじっと耳を傾けた。表情は氷のように冷静だったが、その瞳の奥には、決して癒えることのない古傷が刻まれているのが分かった。

「その人を、標に殺された。それ以来、俺はただ生きるため、そして標へ復讐するためだけに100年を費やしてきたんだ。それが俺の生きる意味だった……昨夜まではな」

 語り終えたロキは、自嘲気味に口元を歪めた。長年、彼を突き動かしてきた執念が、今こうして言葉にすることで、どこか実体のない霧のように感じられたのかもしれない。


 心臓の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた。100年という気が遠くなるような時間、ロキはたった一人でそんな猛毒のような憎しみを抱えて生きてきたのだ。

 今の自分がロキに何をしてあげられるだろうかと考え、彼女は精一杯の慈しみを込めて、ロキに向かって微笑んだ。

「……素敵な人だったのね」

 その言葉は、ロキにとって予期せぬものだったらしい。ロキは心春をまっすぐに見つめ、驚いたように瞳をわずかに大きく見開いた。沈黙が数秒間、事務所に流れる。

 やがて、ロキは憑き物が落ちたような、柔らかい表情を浮かべた。

「……あぁ、そうだな。本当に、素敵な人だった」

 そう呟くロキの顔には、100年の歳月が染み込ませた深い哀しみではなく、愛する人を思い出すときに見せる穏やかな光が宿っていた。かつて復讐の炎で焼き尽くされたはずの記憶の欠片が、心春の優しさに触れて、少しだけ温もりを取り戻した瞬間だった。


「一月一日までには、まだ時間がある」

 ロキは心春をまっすぐに見つめた。

 カップの中のコーヒーはもうすっかり冷めていたが、胸の内の決意は静かに、しかし熱く煮えたぎっていた。

 ロキが言葉を続ける前に、心春は想いを伝えた。

「逃げるつもりはありません。次は私も戦います」

 その言葉は震えを完全に追い払い、芯の通った強い意志として事務所の空気を震わせた。

 ロキは一瞬だけ呆気に取られた後、小さく吹き出した。

「ほんとお前は、俺を笑顔にするのがうまいよ」

 懐からタバコを取り出し、火をつけた。紫煙が天井へと細く伸びていく。かつてはただの憎悪の塊だった男が、この少女の言葉一つで心底から笑えるようになったことに、彼自身が一番驚いているのかもしれない。


「公安には報告を入れておく」

 ロキが吐き出した言葉に、心春は驚きを隠せなかった。復讐を個人的な聖域として、あるいは終わりのない罰として背負い続けてきたロキが、他者にその行く末を預けるような真似をするなんて。その一言だけで、今回の標との対決において、ロキがどのような覚悟で臨もうとしているのかが、痛いほどに肌に伝わってきた。

 少しだけ身を乗り出し、不安の混じった声で問いかけた。

「……応援を、もらうの?」

 ロキは煙をゆっくりと肺へ収め、静かに首を横に振った。

「いや。標の指示は、俺たちだけのご指名だ。レイラやシンヤを巻き込むわけにはいかないし、奴の性質上、余計な手が加わればどう転ぶか分からない。彼らへの協力要請じゃない……あくまで、万が一の事態に備えた一応の報告だ」

 それは、自分たちの戦いが「個人の復讐」から、この街を守るための「公的な任務」へと昇華されたことを意味していた。

 タバコをふかすロキの背中は、もう一人で闇に立ち向かおうとしていた頃よりもずっと大きく、頼もしく見えた。

 一月一日。その日は、ロキの長い長い百年の歴史と、心春という新しい日常が交差する、決定的な分岐点になろうとしていた。





 翌日、心春は再び聖女子学園の門をくぐった。標という悪夢に侵食された日常を、ただ恐怖の中で過ごすのではない。

 この先の未来も、ロキと共にこの場所で生きていくと決めたからだ。

 通学するためのバッグの中には、いつもの冷たい重み――グロックが納められている。それが今の心春にとって、日常を繋ぎ止めるための聖なるお守りでもあった。


 放課後の空は、冬特有の透明感のある茜色に染まりかけている。正門を通り抜けようとした心春の視界に、周囲の女子生徒たちとは明らかに異質な、冷ややかな空気を纏ったスーツ姿の女性が映った。

「レイラさん!」

 その端正な横顔に気づき、心春は駆け寄った。神社の巫女であり、ロキの同僚でもあるレイラだ。

 心春の弾んだ声に、レイラはゆっくりと振り返り、どこか寂しげで、しかし隠しきれない優しさを瞳に宿して微笑んだ。

「心春ちゃん。少し、いいかしら?」

「ええ、もちろん! 何かあったんですか? 私、ちょうど帰るところで……」

「……ちょっと、お茶しましょ」

 レイラは短くそう告げると、先を歩き出した。

 心春は首を傾げながら、その背中に続く。事務所でのあの激闘を知る者として、レイラの訪問が単なる偶然ではないことは明白だった。

 心春は少しだけからかうような笑みを浮かべ、あえて軽口を叩いてみた。

「古臭いやり方ですけど、もしかしてナンパですか?」

 その言葉を聞いた瞬間、レイラは足を止め、心春を振り返って声を上げて笑った。その瞳は笑っているが、どこか見透かすような鋭さが混じっている。

「……言葉の選び方まで、あんたたち似てきたわね」

 レイラはまた歩き出した。その口調には、心春とロキという「相棒」の距離が、死線を越えるたびに確実に縮まっていることへの安堵と、ある種の覚悟が混じっているように聞こえた。

 心春はレイラの背中を見つめながら、これから告げられる話がなんであれ受け止める覚悟をして、グロックの入ったバッグを強く握りしめた。





 高校の近く、レンガ造りの外壁が目印のその喫茶店は、放課後になるとお洒落に敏感なクラスメイトたちが足繁く通う場所だ。

 心春も名前だけは聞いていたが、足を踏み入れるのはこれが初めてだった。店内に漂う深い焙煎香と、静かなジャズの旋律が、日常の騒々しさを外の世界へ押し出している。


 奥の席に腰を下ろした二人は、注文した飲み物を前にしばらく黙り込んだ。レイラが運ばれてきたホットコーヒーのカップを両手で包み、湯気の向こうから心春を射抜くような鋭さで見つめる。

「それで、心春ちゃん。標と戦うつもりなの?」

 核心を突くような問いだった。公安の人間として、あるいはロキを最も長く見守ってきた者として、彼女はすでに事態の全容を把握しているのだろう。心春は迷うことなく、真っ直ぐにレイラの瞳を見返した。

「もちろんです!」

 心春の声に揺らぎはなかった。それは単なる勇気や無鉄砲さではなく、あの事務所でロキと共に過ごした時間と、昨夜交わした覚悟の果てにある、静かな決意だった。


 レイラは心春の言葉を受け止めると、小さく息を吐いた。カップを置く指先にわずかな力がこもる。

「……そう。もう、決心がついているのね」

 レイラの言葉には、どこか寂しげな響きがあった。

 心春が戦いの道を選ぶことは、すなわち彼女がロキと同じ「境界線のこちら側」へと完全に踏み込んだことを意味している。かつて復讐の闇に囚われていたロキを、もう一人孤独にさせないという選択。

 しかしそれは同時に、日常という温かな光から彼女が遠ざかることでもある。

 レイラの寂しさは、かつての自分やロキが背負ってきた過酷な宿命を、まだ幼い心春にも背負わせてしまうことへの憐れみなのかもしれない。


 冷たいアイスコーヒーのグラスを指でなぞりながら、レイラの視線から逃げずに微笑んだ。

「はい。逃げるつもりはありません。……ロキさんと一緒に、戦います」

 その真っ直ぐな瞳を見たレイラは、ふっと観念したように笑みを漏らした。それは、ロキが見せたものと同じ、守るべきものを見つけた者の誇らしさと、失うことへの痛みが混じり合った表情だった。

「もし何かあったら……あるいは、何かある前でも。困ったときは必ず私に連絡しなさい。いいわね?」

 レイラは心春の瞳をじっと見つめ、念を押すように告げた。

 その言葉には、公安の一員としての職務以上の、一人の女性として心春を案じる心が滲んでいた。

 心春は頷き、スマートフォンの画面越しに連絡先を交換する。そのデジタルな情報の繋がりが、今の心春には標との決戦に向けた小さな防波堤のように思えた。






 喫茶店を出ると、夜の帳が静かに街を包み込み始めていた。ネオンが冷たい冬の空に反射し、雑踏の音が遠くでざわめいている。

「さて……帰らなきゃ」

 心春は足早にBlueMondayへと向かう帰路に着いた。先ほどまでのコーヒーの残り香は風に消え、心春の胸の内には、ただ冷徹なまでの闘志が灯っている。

 レイラとの対話で、自分の決意が単なる独りよがりではないことを再確認できたからだ。

 標という名の絶望を突きつけられてから、世界は変わった。けれど、それは恐怖を呼び起こすだけでなく、今の自分をより強く研ぎ澄ます砥石にもなっている。

「今日から、決戦の日まで……猛特訓だ」

 心春はそう自分に言い聞かせた。

 事務所へ戻れば、そこにはロキがいる。

 彼と共に、1月1日までに今の自分の限界を超えなければならない。

 銃のメンテナンス、身体のキレ、そして何よりも、あの男の異質な殺気を受け流すための精神の鎧。

 心春の歩調は、帰り道を進むほどに速くなっていく。路地裏の角を曲がり、古いビルの入り口が見えてきた。そこを上がれば、日常と非日常の境界線がある。

 扉の向こうに待つロキと、これからの戦いを想い、心春は拳を固く握りしめた。どんな犠牲を払ってでも、ロキを守り、自分も生き残る。その誓いを胸に、心春は迷わず事務所の階段を駆け上がった。





 新宿の昼、猥雑な喧騒から隔絶された空間『gimlet』。

 重厚な扉の向こうでは、琥珀色の照明が静寂を演出していた。

 カウンターに座るロキの隣で、シンヤが無造作にビールを煽り、その喉を鳴らしている。カウンターの奥、薄闇の中からJINの冷徹な視線がロキを射抜いていた。

 手元に置かれたグラスの透明な水に視線を落とし、それを一気に喉へと流し込む。

 続いて懐から取り出した『DEATH』に火を灯し、紫煙をゆったりと吐き出した。

「それで、俺たちにはどうしてほしいんだ」

 JINの問いは、水の波紋のように静かに、しかし確かな重みを伴ってカウンターに広がった。関東支部のトップである彼にとって、ロキの動きは常に監視対象だ。

 昨夜の標による襲撃は、彼らの耳にも届いているはずだった。

 ロキはタバコの灰を灰皿に落とし、感情を排した声で答える。

「何も」

 短く吐き捨て、ロキは再び煙を燻らせた。その瞳は獲物を狙う獣のように細められ、低い声で付け加える。

「ただ、戦いの邪魔はするな」

 それは警告であり、彼らに対する唯一の要望だった。標との決戦、それはもはやロキ個人だけの因縁ではない。


「復讐のためか?」

 JINは畳みかけるように問いかけた。その言葉の響きに、ロキは皮肉げに鼻で笑う。復讐。かつてはその言葉がロキの心臓そのものだった。しかし、今は違う。

「それもある」

 ロキは空になったグラスをカウンターに置いた。心春の顔が、心春の強がりが、そして心春を守るという新しい決意が脳裏をよぎる。復讐心は消えてはいないが、今の自分を突き動かすものは、それだけではない。


 彼は立ち上がり、煙草を揉み消すと、背中を向けて店を出ようとした。その背中は、かつてのような復讐の鬼ではなく、一人の守護者としての静かな闘志を纏っていた。

「まるで人間みたいだな、ロキ」

 シンヤは飲みかけのビールグラスをコースターに置き、煙草の煙が立ち込める薄暗い店内で、しみじみとそう呟いた。

 普段は飄々としていながらも、どこか冷たい男の言葉にしては、妙に温かみが混じっていた。


 店を出ようとしていた足を止め、肩越しにシンヤを振り返る。百五十年という永遠に近い時間を呪いのように生きてきた男の顔に、今は確かに、血の通った人間らしい疲労と、それ以上の穏やかな光が宿っていた。


 ロキは口元を歪め、心春とコーヒーを飲んだあの朝を思い出しながら、小さく言った。

「お前も、なれるさ」

 その言葉は皮肉ではなく、心からの実感だった。シンヤは一瞬だけ呆気に取られた表情を見せたが、すぐに口角を上げ、ロキと同じように肩を震わせてクスリと笑った。

 店内の重苦しい空気が、二人の間の短い会話によってわずかに和らぐ。JINは黙ったまま、カウンター越しにそのやり取りを静かに見守っていた。

 ロキが背負ってきた百年の呪縛が、ゆっくりと剥がれ落ちていくのを、彼らもまた感じ取っていたのかもしれない。


 再び前を向き、Gimletの重い扉に手をかけた。外に出れば、冷たい寒空が待っている。

 しかし、今のロキにはその寒ささえも、守るべき場所へ帰るための、心地よい刺激のように感じられた。

 心春が待つ事務所へ。

 復讐の終わりと、新たな日常の始まりへ向けて、ロキは迷いのない足取りで新宿へと踏み出した。

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