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第9話 VIGルームの四人

「分類登録、完了しました。」


その言葉を告げると、

ナツコは一歩後ろへ下がった。


「――戦闘モード、解除。」


数秒後。


髪に宿っていた赤い光が静かに消え、

赤く染まっていたカメラアイも元の青へ戻る。


露出していたカーボン装甲は滑らかに折り畳まれ、

再び人工皮膚が表面を覆っていく。


「お疲れさまでした、ミナミ様。」


ナツコは軽く一礼した。


「貴重な情報と正確な鑑定、

誠にありがとうございました。」


「計画に多大な貢献をいただきました。」


「う、うん……。」


真面目にお礼を言われると、

さすがのミナミも少しだけ視線を逸らしてしまう。


その肩へ、後ろからエリカが勢いよく腕を回した。


ミナミはよろめく。


「はいはい! 問題も片付いたし、もう帰っていいよね?」


「こんな貴重な情報を提供したんだから、

ちゃんとご褒美ちょうだい!」


エリカはナツコを指差した。


「承知しました、エリカ様。」


「具体的には、どのような報酬をご希望でしょうか?」


「……あ、あの……」


琴音がおずおずと口を開く。


「もう一回……その変身、見せてもらえたり……?」


「あーっ! 琴音、このバカ!」


エリカはすかさず琴音の首へ腕を回した。


「そこは夕飯でしょ!」


「海鮮丼! 私は海鮮丼が食べたい!」


「え、えぇっ……」


琴音は慌てて小さく悲鳴を上げる。


ナツコは二人のやり取りを静かに観察した。


白い髪がほんのり発光し始める。


プロセッサーが高速演算を行い、

「女子同士のじゃれ合い」への最適解を検索しているようだった。


数秒後。


「――理解しました。」


「本日の夕食は、新鮮な食材による海鮮丼とします。」


そして琴音へ向き直る。


「また適切な機会に、

私の『戦闘モード』について実演および解説いたします。」


「おお……!」


エリカと琴音の目が同時に輝く。


もちろん、二人が喜んでいる理由はまったく別だった。


「よしよし、それで決まり!」


ミナミはナツコへ近づき、

その勢いのまま素早く言った。


「あと、竜子ちゃんも今日から私たちの仲間だから!」


「承知しました、ミナミ様。」


ナツコは竜子へ向き直る。


「それでは――竜子様。」


ようやくピースサインを下ろした竜子は、

額に汗を浮かべながら返事をする。


「……は、はい!」


「皆様と共にVIGルームへお戻りください。」


量産型AIたちは一斉に武器を下ろし、静かに道を開けた。


「ふぅ……。」


竜子は大きく息を吐きながら、

皆の後ろへ続く。


五人はそのまま廊下を歩き、

再びVIGルームへ戻ってきた。


電子スライドドアが開いた瞬間、


「はぁぁぁ~! マジ疲れたぁ!」


エリカは一直線に自分のベッドへ飛び込み、

そのまま半分寝転がる。


「さっきより疲れたんだけど。」


そう言った直後、

あることへ気づき勢いよく起き上がった。


「ねぇ。」


部屋へ入ってくる皆を見渡す。


「二人増えたってことはさ。」


「ベッド足りなくない?」


「ご安心ください、エリカ様。」


ナツコは即座に答える。


「新しいベッド二台は、本日中に搬入いたします。」


「仕事できるじゃん、ナツコちゃん。」


エリカは満足そうに頷く。


「あと、パーテーションもお願い。」


「人数増えたし、プライバシーくらいは欲しいから。」


ナツコは〇・五秒ほど演算した後、すぐ頷いた。


「合理的なご判断です。」


「VIGの皆様の要望を最優先事項として、本日中にすべて手配いたします。」


「サンキュー、ナツコちゃん!」


「ありがと、ナツコちゃん!」


ミナミとエリカは笑顔で礼を言う。


「……ありがとう、なっ⋯⋯725(ナナニーゴ)


竜子だけは少し言いづらそうに番号で礼を述べた。


ナツコは軽く一礼すると、そのまま部屋を出ていく。


電子ドアが閉まる。


その瞬間。


竜二はその場へへたり込んだ。


「ふぅ……。」


深く息を吐く。


「本当に終わったと思った……。」


「ありがとう、お嬢ちゃんたち。」


エリカは腕を組んだまま答える。


「私は別に。」


「助けたのはミナミだから。」


そう言ってから、急に真面目な顔になる。


「でもね、おっさん。」


「これからはちゃんと『竜子』を演じてよ。」


「変なこと考えないでね。」


「はは……。」


竜二は苦笑する。


「安心してくれ。」


「もし娘が生きてたら、お前たちより年上だからな。」


そう言って、自分のピンク豹柄ジャケットを軽く引っ張った。


「……え?」


その言葉に、三人は小さく違和感を覚える。


しかし竜二は手を振り、すぐ話題を変えた。


「それより今は人類全体の危機だ。」


「まず妻を探したい。」


「それから、この騒ぎをどうにか終わらせたい。」


ミナミがすぐ尋ねる。


「終わらせるって、おじさん何か方法あるの?」


「……具体的にはない。」


竜二は腕を組み考え込む。


「それでも、ここは本部だ。」


「統合AIの根幹プログラムや、本体さえ見つけられれば……。」


そこで苦笑した。


「ただ俺は警備主任だっただけだ。」


「建物の構造は分かる。」


「でもプログラムなんてさっぱりだ。」


ミナミはしばらく考え込み、

ぱっと顔を上げた。


「もし捕まってるエンジニアが見つかれば……!」


「難しいだろ。」


竜二は首を横へ振る。


一本ずつ指を折っていく。


「まず収容場所を見つける。」


一本。


「そこから連れて来る理由を作る。」


二本。


「工具も必要。」


三本。


「しかもAIの監視下で全部やる。」


四本。


「また『エンジニアギャル』なんて言い出すわけにもいかないだろ?」


「今回はおじさんの言う通りだね。」


エリカも珍しく素直に頷く。


「さっきだって、ほぼ限界だったじゃん。」


「AIの判定もどんどん厳しくなってるし。」


「忘れないで。」


「私たちは毎回VIGの資格そのものを賭けてる。」


「バレて特権失うのだけは絶対イヤ。」


きっぱりと言い切る。


「でも……!」


ミナミは両手で頭を抱えた。


「何もしなかったら……。」


部屋へ重い空気が流れる。


その時だった。


「……あの。」


琴音がおずおずと自分のリュックを見つめ、


恐る恐る手を挙げる。


「……もしかしたら……」


「私……力になれるかも、です。」



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


あの陰キャで引きこもり気質(?)な琴音が、まさか自分から手を挙げるなんて……!


もしかして、何かとっておきの切り札があるのでしょうか?


次回はいよいよ、琴音のターンです!


ぜひお付き合いいただけると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
なるほどー、ここで琴音ちゃんが活躍するわけですな? ミナミちゃんは勢い、エリカちゃんは現実的な判断、竜二さんは施設の知識、そして琴音ちゃんはパソコン担当。ちゃんと役割分担ができてていいですね。助けられ…
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