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第10話 引きこもりハッカー・琴音

「……もしかしたら……

私……力になれるかも、です。」


そう言うと琴音はリュックを開き、

アニメキャラクターのステッカーが何枚も貼られたノートパソコンを取り出した。


「プログラムを……少し書けます。」


「……というか。」


「ハッキングも、少しだけ……。」


「おおっ!」


ミナミたちの表情が一気に明るくなる。


「琴音ちゃん、

そんな隠し玉があったんだ!」


「……どうしてだ?」


喜びを隠しきれない竜二だったが、

大人らしく一歩踏みとどまって尋ねる。


「琴音……君はまだ高校生だろう?」


「どうしてハッキングなんて覚えたんだ?」


「えっと……その……」


琴音は恥ずかしそうに視線を逸らした。


「私、家でVTuberを見るのが好きで……。」


「でも通販限定のグッズって、

いつも数秒で売り切れちゃうじゃないですか……。」


「それでPythonを独学して……

最初はページの自動更新から始めて……」


「その後は、自動購入Botを作って……。」


話し始めるうちに、

琴音の口調は少しずつ滑らかになっていく。


「でも、一番欲しかった限定グッズの販売の日……。」


「新しいBot対策に全部止められて……。」


「転売ヤーに全部持っていかれたんです……!」


琴音は突然叫んだ。


「許せない……!」


目に怒りの光が宿る。


ミナミたちは思わず一歩後ずさった。


「それでネットワークプロトコルとか、

DDoS対策とか、サーバー側のバッファオーバーフローとか……えへへ……。」


琴音の呼吸が少し荒くなる。


「それで中古PCを何台も集めて、

自分の部屋で侵入実験を何度も繰り返して……。」


「最後にはサイトの防御も突破できるようになって!」


「ついでに転売グループのサーバーまでハッキングして、

連中のBotを全部止めちゃいました!」


「最高でした……! ざまぁ、って!」


一気にまくし立てた琴音は、

肩で息をしながら目をきらきらと輝かせていた。


「いやぁ……。」


エリカは口元を引きつらせる。


「ミナミちゃん。」


「私たち、とんでもない子助けちゃったかも。」


「た、たしかに……。」


ミナミも頭をかいた。


しかし次の瞬間には笑顔になる。


「でも逆に言えば!」


「私たちが今、一番欲しかった技術ってことだよね!」


「琴音ちゃん!」


「そのままAIのサーバーに侵入して、

全部止めたりできない?」


「ミナミ。」


竜二が顎ひげを撫でながら口を開く。


「琴音君の技術は頼もしい。」


「だが研究所レベルのAIと転売屋のサーバーじゃ、

難易度がまるで違う。」


「見つかった時の代償も、

グッズが買えない程度じゃ済まない。」


「……はい。」


琴音は静かにノートパソコンを開く。


ディスプレイの光が眼鏡へ映り込んだ。


「AIそのものを止めるのは……無理です。」


「でも、おじさんが言っていた『強制収容施設の場所を探す』くらいなら……

できるかもしれません。」


そう言うと、キーボードを叩き始めた。


タタタタッ、と小気味よい音が部屋へ響く。


ミナミと竜二は、

その後ろから画面を真剣に覗き込む。


「……ほんとに?」


エリカだけはソファへ腰掛けたまま首を傾げる。


「いや、水差すわけじゃないんだけどさ。」


「本当に強制収容所なんてあるの?」


飲み終えたタピオカミルクティーのカップをぶらぶら揺らしながら尋ねる。


「どういう意味だ?」


竜二が低い声で聞き返す。


「効率だけ考えるならさ。」


エリカは肩をすくめる。


「ギャル以外なんて全部……。」


その先を言う前に、


「いや、それはないと思う。」


ミナミが画面から目を離さず遮った。


「さっき龍子ちゃんが見つかった時も、

AIはすぐ撃たなかった。」


「まず私たちを呼んで、分類を確認した。」


「つまり、あの子たちは簡単に人を殺そうとはしてない。」


「『進化教育』っていうのも、多分本当なんだと思う。」


「まぁ、それもそうか。」


エリカは女装姿の竜二を横目で見る。


「もし私が家でコソコソしてる女装おじさん見つけたら。」


「先に撃つかも。」


「その場合は。」


竜二はスカートを整え、

金色のロングウェーブのウィッグを撫でる。


そしてわざと高い声を作った。


「AIのほうが、

お嬢ちゃんより少しだけ倫理観が高いってことだねぇ。」


「あ?」


エリカは冷たい目を向け、


プラスチックカップを片手でぺちゃんこに潰した。


「ケンカ売ってる?」


「……静かに。」


琴音が二人を制した。


手だけは止まらない。


エリカと竜二は顔を見合わせ、

素直に口を閉じる。


ミナミが琴音の後ろから尋ねた。


「琴音ちゃん、どうしたの?」


「集中したいです……。」


「AIネットワークへ侵入中なので。」


挿絵(By みてみん)


琴音の視線は画面から一瞬たりとも離れない。


「通常の回線は全部AIに遮断されています。」


「でも、これだけの機械軍団や物流を管理するなら……

内部ネットワークまで完全に閉じることはできません。」


「だから認証情報を複製して……

低ランクAIになりすませれば……。」


「公式サイトのセキュリティを突破する時と同じ考え方です……」


三人には何を言っているのか半分も分からなかった。


それでも誰一人、口を挟まない。


「識別番号……98964」


「用途……機種……。」


「どれにしよう……。」


琴音の指が止まる。


その時だった。


エリカが潰したタピオカカップを、

何気なくゴミ箱へ放り投げる。


それを見た竜二が、

はっと顔を上げた。


「……ゴミ収集車。」


「あるいは食品輸送車はどうだ?」


「AI自身は生活物資なんて使わない。」


「逆に言えば、

大量の物資が運び込まれている場所が分かれば……。」


「それです!」


琴音は勢いよく顔を上げた。


そして再び猛烈な勢いでキーボードを叩き始める。


「こういう低権限の通信は管理が甘いはずです!」


「少し時間をもらえれば、侵入できます!」


「直接助け出せなくても。」


竜二は静かに頷く。


「まず情報を掴むことが第一歩だ。」


そう言いながら入口へ向かう。


「おじさん?」


ミナミが呼び止めた。


「AI-725(ナナニーゴ)が戻ってくるかもしれない。」


竜二は電子ドアへ耳を当てる。


「見張りは俺が……。」


「いや。」


ソファから飛び起きたエリカがそれを止めた。


「龍子ちゃんは元警備主任でしょ?」


「琴音と一緒にデータ見て。」


「見張りは暇すぎるギャルの仕事。」


竜二は少し驚いた表情を見せたが、


「……そうか。」


とだけ言って場所を譲った。


代わりに琴音とミナミの後ろへ回る。


画面を見つめると、

すぐ物流ルートの異常に気づいた。


「筑波……。」


画面の一点を指差す。


「ここは本部の関連工場だ。」


「なるほど。」


琴音は小さく口笛を吹き、

さらに高速でキーを叩き続ける。


しばらくすると、

画面中央にプログレスバーが表示された。


「できました。」


琴音は背伸びをして肩を回す。


「これが終われば……」


「思ったより順調です」


「位置情報だけじゃなく……

監視カメラにも侵入できました。」


「すごいよ、琴音ちゃん!」


竜二は思わず琴音の肩を叩く。


「ってことは……。」


ミナミも思わず身を乗り出す。


「このバーが終わったら……。」


「強制収容施設の中が見られるんだね!」


三人は息を呑みながら、

ゆっくり伸びていく進捗バーを見守った。


その時だった。


ドアへ耳を当てていたエリカが、

びくっと身体を震わせる。


顔色が変わった。


勢いよく振り返る。


「ねぇ!」


「急いで!」


「誰か……こっち来る!」


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


VTuberグッズを転売ヤーから勝ち取るために、まさかハッカーへと「進化」してしまった琴音……。


これは尊敬するべきなのか、それとも怖がるべきなのか……?


ですが、そんなことを考えている間にも、ドアの向こうからは足音が近づいてきています。


果たして、このまま無事に切り抜けられるのでしょうか?


ぜひ次回もお付き合いいただけると嬉しいです!


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― 新着の感想 ―
この四人の中で一番ヤバいのは竜子ちゃんだと思ってたんですが、琴音ちゃんが下馬評をひっくり返しましたね笑 推しグッズを転売ヤーに奪われた結果、ハッカーへ進化する高校生、強すぎるんよ。 助けられていた琴音…
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