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第7話 女装おじさんは夢幻のごとく

ミナミが一歩踏み出そうとした、

その瞬間だった。


「ちょ、待ってよ! ミナミ!」


エリカが慌てて腕をつかみ、

そのまま耳元へ顔を寄せる。


「何考えてんの?」


「あれ、本物のおっさんだよ?」


「可哀想なのは分かる。」


「でも琴音の時と違って、

どうやってギャルって言い張るわけ?」


「エリカ様のおっしゃる通りです、ミナミ様。」


ナツコもレーザー砲を下ろし、

静かに歩み寄ってきた。


「先ほどエリカ様が発言された評価は、

私も明確に受信しております。」


「どうかVIG権限の濫用はお控えください。」


「最悪の場合――」


「私たちまで強制収容するんでしょ?」


ミナミがまっすぐナツコを見つめる。


「はい。」


「……私は、それを望んでおりません。

その場合、私のプロセッサーは……」


カメラアイが静かに駆動音を立て、

頬のシグナルランプが細かく点滅する。


適切な表現を検索しているらしい。


「……未知の論理ループへ入り、

多大な演算資源を消費してしまいます。」


その答えを聞いて、

ミナミは思わず吹き出した。


「ナツコちゃん……」


「それ、今まで聞いた中で一番新しい『心配してる』って言い方だよ。」


そう言うと、

ミナミはエリカの手をぽんと軽く叩いた。


「エリカも大丈夫。」


「ちゃんと話を聞いてから決める。」


「……はぁ。」


エリカは大きくため息をつき、ようやく手を離した。


ミナミはゆっくり男の前まで歩いていく。


男は両手を上げたまま、

不思議そうにミナミを見た。


「どうした、お嬢ちゃん。」


「AIに尋問でも頼まれたか?」


「うん、おじさん。」


ミナミは全身をさっと見回し、小声で尋ねる。


「まず一つ聞いていい?」


「おじさんって……変態?」


「何言ってるんだ!」


「好きでこんな格好してるわけじゃない!」


男は真っ赤になった。


濃い化粧でも分かるくらいだった。


「AIが反乱した時、この目で見たんだ。」


「ギャルの格好をした女の子だけが、

護送車じゃなくてリムジンに案内されてた。」


「だから思ったんだよ。」


「AIの盲点かもしれない。」


「何か見落としてるロジックがあるのかもしれないって。」


「だから……」


ミナミが静かに続ける。


「そうだ。」


男は頷いた。


「あの時は自分でも狂ってると思ったよ。」


「でも結局、家にあった妻と娘の服を引っ張り出して着た。」


「それから会社の忘年会の余興で使った金髪のウィッグと化粧もな。」


そう言いながら、

ウィッグの位置を直し、

その場へ力なく腰を下ろす。


「結果、量産型AIは俺を見るたびにしばらくフリーズしてくれてな。」


「何度か逃げ切ることはできた。」


そこまで話すと、男の声が少し沈んだ。


「その後考えたんだ。」


「ここはAI研究所の本部だ。」


「だったら、連れて行かれた人間の記録くらい残ってるかもしれない。」


「妻がどこへ収容されたのか……分かるかもしれないって。」


「えっ?」


ミナミは目を丸くした。


「ここって……本部なの?」


「知らなかったのか?」


男は少し驚いたようにミナミを見る。


「ここがAI研究所の本部だ。」


「すべてのAIはここで設計された。」


苦く笑ってから、自分の胸を軽く叩く。


「そして俺は――」


「AI反乱前まで、この施設の警備主任だった。」


剛田竜二(ごうだ りゅうじ)っていう。」


ミナミは言葉を失う。


竜二は静かに話を続けた。


「あの日、俺はちょうど仕事帰りだった。」


「スマホに大量の通知が届いて、ようやく異変を知った。」


拳をぎゅっと握る。


声がわずかに震えていた。


「急いで家へ戻った。」


「でも家の中は荒らされてて、誰もいなかった。」


「その時すぐ分かったよ。」


「……連れて行かれたんだ。」


数秒の沈黙。


ミナミが静かに尋ねる。


「だからここへ潜り込んだの?」


「ああ。」


竜二は頷く。


「ここは毎日働いてた場所だからな。」


「構造も警備ルートも全部頭に入ってる。」


「もしかしたら記録が残ってると思った。」


「どこへ連れて行かれたのか、

分かるかもしれないと思った。」


肩を落とし、小さく息を吐く。


「結局、清掃ロボットに見つかって、このザマだけどな。」


話を聞き終えたミナミは、腕を組み、顎に手を当てた。


じっと竜二を見つめる。


その視線に気づいた竜二は、小さく笑った。


「お嬢ちゃん。」


「そんな顔するな。」


無理やり作った笑顔。


だが濃い化粧をしたおじさんの笑顔は、

どうにもシュールだった。


「おっさんなりに足掻けるだけ足掻いた。」


「もう悔いはない。」


突然、竜二は豪快に笑い出した。


太ももを叩いて拍子を取りながら、

目を閉じて謡う。


「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻のごとくなり……」


「――はい、おじさん、ストップ。」


ミナミが片手を上げて制止する。


「……え?」


竜二はぽかんと目を開けた。


ミナミはにやりと笑い、

人差し指で竜二を指した。


「私、おじさんを介錯する気なんてないから。」


「おじさんの夢は――」


「まだ終わってないよ。」


挿絵(By みてみん)


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


まさかの女装おじさん、その正体は愛妻家の警備主任でした!


ほら、やっぱり見た目だけで判断しちゃダメですね!


竜二が命がけで研究所へ潜り込んだ理由を知ったミナミ。

彼女はどんな答えを出すのでしょうか?


そして次回、竜二がついに(?)大活躍します!


ぜひお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
前話で女装おじさんって聞いて、だらしないハゲ気味の変態おじさんを想像してたんですが、画像見たら普通に筋肉質で渋めのイケメン寄りで笑いました。 しかも剛田竜二さん、名前もかっけぇ笑 想像の百倍強そうなん…
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