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第6話 ナツコの『戦闘モード』

白い研究施設の廊下を、

三人はナツコの後ろについて走っていた。


「ねえ、なんで私たちが呼ばれなきゃいけないの?」


エリカは露骨に嫌そうな顔で文句を言う。


「東京中のギャルなんて、

他にもいっぱいいるでしょ?」


「ていうか『未確認生物』が出たからって、

私たちに何ができるの?」


「どこのブランドか分かんないコスメならまだしもさぁ」


ナツコの涙ぼくろ型シグナルランプが数回点滅した。


「結論から申し上げますと、

後者については、

現場をご覧いただければ分かるかと思います」


「そして前者についてですが……」


「大変申し訳ありません、エリカ様」


「他のVIGの皆様は、全員協力を拒否されました」


「ミナミ様たちは、

タピオカミルクティーを飲む以外の活動をしてくださる唯一のVIGです」


「……は?」


エリカは額を押さえた。


「聞いた? ミナミ」


「私たち、完全に『都合のいい女』扱いされてるんだけど」


ミナミは呆れたように白目を向ける。


「……じゃあ何? 

タピオカだけ飲んで生きてる家畜のほうがよかった?」


「誰が家畜よ、この熱血アホ!」


二人が言い合いを始めたところで、

ナツコが静かに口を挟んだ。


「到着しました」


「未確認生物は、

あの角の向こうで量産機に包囲されています」


「ぁ……あの……」


琴音がおずおずと声を上げる。


「危なく……ないんですか……?」


「だって未確認生物ですよね……?」


「ご安心ください、琴音様」


ナツコは一歩後ろへ下がった。


「私は『戦闘モード』へ移行できます」


「えっ?」


次の瞬間。


ナツコのシグナルランプが赤く高速点滅した。


「戦闘モード、起動」


低く重い駆動音が体内から響く。


ウィィィン――。


彼女の青い瞳が高速で収縮し、

レンズ構造が再構成されていく。


やがて瞳は鋭い赤色へ変化した。


「え……」


「なにこれ……」


三人は思わず目を見開く。


白いショートヘアの隙間から、

赤い光が微かに漏れた。


放熱システムが稼働している証拠だった。


続いて、頬や首筋の人工皮膚が左右へスライドする。


カチ、カチ、カチ――。


精密な機械音とともに内部構造が露出し、

再構成されていく。


腕や脚を覆っていたシリコン皮膚が収縮し、

その下から黒い複合装甲が現れた。


何枚もの装甲板が噛み合い、

流線型の戦闘フレームを形成していく。


すべての変形は数秒で完了した。


「『戦闘モード』への移行に成功しました」


ナツコの声は、

普段よりわずかに低い。


ゆっくりと右腕を持ち上げる。


シュンッ――


掌の中央からレーザー射出口が展開された。


「ナツコちゃん……」


エリカは頭を掻きながら言った。


「……やっぱり『戦闘メイド』だったんだ……?」


「……めちゃくちゃカッコよくない?」


琴音はミナミの制服の袖を握ったまま、

目を輝かせていた。


身体も少し前へ傾いている。


完全に目を奪われていた。


「ま、まぁ……」


ミナミの表情も少し引きつっている。


「とりあえず安全面の心配はなくなったってことで!」


「行こう、エリカちゃん! 琴音ちゃん!」


三人はうなずいた。


戦闘モードのナツコを先頭に、

角の向こうへ進む。


そこには。


銀色の量産型AIが一列に並び、

銃口を一斉に一点へ向けていた。


ナツコが近づくと、

量産機たちは一斉に道を開いた。


その中央へナツコが入った。

掌のレーザー砲を構えたまま言う。


「ミナミ様、こちらへ」


三人は慎重に前へ出る。


ミナミとエリカはナツコの後ろから。


琴音はさらにその後ろから顔を覗かせた。


そして。


包囲されている『未確認生物』の姿を見た瞬間。


三人は同時に声を漏らした。


「えっ?」


そこにいたのは怪物ではなかった。


いや、別の意味では十分すぎるほど怪物だったのだが。


大柄な中年男性。


濃い化粧。


派手な金髪のロングウェーブウィッグ。


そして無精ひげ。


ピチピチのレザーミニワンピース。


ピンク色の豹柄ジャケット。


極めつけに。


ミニスカートから伸びた脚は、

すね毛が中途半端に残っていた。


「このポンコツ鉄くずどもが……!」


男は両手を上げて降伏姿勢を取っていた。


それでも最後の意地だけは失っていない。


「なんで女子高生なんか連れて来るんだ!」


「処刑ショーでも見せるつもりか!?」


「倫理プロトコルはどこ行ったんだよ!」


「早くこの子たちを帰せ!」


「俺なら好きにしろ!」


しかしナツコも量産機も反応しない。


「状況説明を行います」


ナツコは冷静に報告した。


「清掃用ロボットが本施設内で当該未確認生物を発見しました」


「対象は明確な成人男性の生理的特徴を有しています」


「しかし服装は平成系ギャルの特徴と極めて高い一致率を示しました」


「統合AIの分類システム内に該当項目が存在しません」


ナツコは三人を見た。


「ミナミ様」


「エリカ様」


「琴音様」


「これは何ですか?」


「ギャルですか?」


真顔だった。


しかもレーザー砲を構えたまま。


「ぶっ……」


エリカは吹き出しそうになる。


「いやぁ……」


「『ギャル』とか以前にさ……」


「女でもないよね……」


「ある意味では化け物(UMA)かも――」


「エ、エリカちゃん……」


琴音が慌てて止めようとする。


しかし遅かった。


ナツコはしっかり聞いていた。


化け物(UMA)……」


シグナルランプが点滅する。


「当該個体は施設への不法侵入を行っています、」


「また、人類にも分類されません、」


「よって進化教育の対象外です」


「以上の理由から現場処分を――」


ウィィィィン――


掌のレーザー砲が赤く発光した。


量産機たちも一斉に前進する。


包囲網が縮まる。


「待って待って待って待って!!」


ミナミが飛び出した。


レーザー砲の前に立ちはだかる。


「ミナミ様?」


「……ちょっとだけ」


ミナミは振り返った。


追い詰められた男を真っ直ぐ見る。


深呼吸をひとつ。


制服の襟を整える。


そして胸を張った。


「ここは正規VIGの私が判断する」


ミナミは堂々と言い放つ。


「――こいつが『化け物』なのか」


「それとも『ギャル』なのかをね」


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


まさか「未確認生物」の正体が、女装したおじさんだったとは……。


AIが現場処分しようとした気持ちも、ちょっとだけ分かるような……。


……いやいや、ダメですね!


どんな格好をするかは本人の自由です!


果たして、このおじさんの正体とは?

そしてミナミは、AIの手から彼を救うことができるのでしょうか?


次回もぜひお付き合いください!

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