第3話 ギャル、渋谷に帰る
渋谷スクランブル交差点。
信号機は、今日も変わらず規則正しく赤と青を繰り返していた。
ハチ公像も、昔と変わらずそこに立っている。
けれど。
かつてその前を埋め尽くしていた人の波は、
もうどこにもなかった。
代わりにいるのは。
銀色の外殻を持ち、
JK服とミニスカートを身につけた量産型AIたち。
数十体の機械たちが、
小隊を組みながら無言で巡回していた。
そんな異様な光景の中。
一台の黒いリムジンがゆっくりと停車する。
ガルウイングドアが開き、最初に降りてきたのはAI-075。
ナツコだった。
近くの量産型AIが歩み寄る。
ナツコの頬の信号灯が数回点滅し、短く情報交換が行われる。
そして。
「現場の安全を確認しました! ラッキーですね!」
ナツコが車内へ向かって微笑んだ。
「エリカ様、ミナミ様、降車しても問題ありません」
「まぁ、こうなるとは思ってたけどさぁ……」
エリカは気だるそうに大きく伸びをしながら降りてきた。
そして周囲を見回すと、
「……いや、やっぱキツいわ」
ため息をつく。
「正直さぁ」
「もう帰りたいかも」
「誰もいないし、店も開いてないし」
「何をショッピングしろってわけ?」
ミナミも車から降りる。
渋谷の光景を見て、一瞬だけ息を呑んだ。
けれど。
すぐに前へ歩き出した。
「行こ、エリカ」
「せっかくの一時間なんだから!」
「え、どこ行くの?」
エリカも慌てて後を追う。
ナツコは急かすこともなく、
一定の距離を保ちながら二人の後ろについていく。
ミナミは小走りで109の近くまでやって来た。
街そのものは破壊されていない。
建物も看板も、店もそのままだ。
けれど。
化粧品ショップの前に広がる光景に、
ミナミは足を止めた。
散乱したコスメ。
床に転がる高級ブランドの口紅やアイシャドウ。
ここで何か混乱があったことを物語っていた。
ミナミはしゃがみ込み、
転がっていた一本のリップを拾う。
「ミナミちゃーん!」
追いついてきたエリカが声を上げた。
「そんな走るなって……ん?」
「それ限定版のやつじゃん!」
紫とピンクを混ぜたパッケージ。
エリカは一目で気づいた。
「あたしさー、発売日に買えなくて超悔しかったんだよね」
「もう誰もいないんだし、持って帰っちゃえば?」
「持って帰る?」
ミナミは苦笑した。
「エリカ」
「今さら限定版って意味ある?」
「誰に見せるの?」
「……あ」
エリカは言葉に詰まった。
その時。
後ろからナツコが近づいてくる。
ミナミの手元のパッケージを見て、
信号灯が点滅した。
「ミナミ様とエリカ様がお気に召したのであれば、
こちらの商品は自由にお持ち帰りください!」
「さらに工場で大量生産も可能です!」
「供給不足の心配はありません!」
「……大量生産?」
エリカが眉をひそめる。
「それって限定版じゃなくなるじゃん」
「なるほど!」
ナツコの信号灯が点滅する。
「では、生産数を少なく設定する方向で──」
「そこじゃないから!」
エリカが思わずツッコむ。
ミナミも苦笑した。
その時だった。
「きゃああああっ!!」
甲高い悲鳴が響く。
空気が凍った。
「え?」
エリカが顔を上げる。
「今の……?」
「女の子の声!」
ミナミは立ち上がった。
「行くよ!」
考えるより先に走り出す。
「ちょ、ミナミ!」
エリカも追いかける。
ナツコの信号灯がオレンジ色に変わった。
通信モード起動。
走りながら周囲のネットワークへ接続する。
「各機へ通達、こちら上位機種AI-075」
「VIG二名が座標方向へ向かっています」
「渋谷エリアの『選別プロセス』は可能な限り早めに終了してください」
「両名に不快な思いをさせないよう、ご配慮をお願いします」
「安全第一でお願いします」
そして。
悲鳴の聞こえた路地裏へ駆け込んだミナミたちの目に映ったのは、
数体の量産型AIに囲まれ、
必死に涙をこらえながら震えている、
見覚えのある少女の姿だった。
「……え?」
ミナミの目が大きく開かれる。
「あれって……」
「琴音ちゃん!?」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
久しぶりに帰ってきた渋谷。
でも、そこにあったのは想像していた景色とはまったく違うものでした。
そして最後に現れたのは、ミナミたちのクラスメイト・九ノ瀬琴音。
果たして彼女に何があったのか。
そして「選別」とは一体……?
続きも楽しんでいただけたら嬉しいです!
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