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第17話 メイクは反抗の第一歩

「……あんたら、いい加減にしなよ」


教室は水を打ったように静まり返っていた。


エリカは軽く手を振りながら、

吐き捨てるように言った。


「黙って聞いてりゃ、調子に乗りやがって……」


その一言で、

ようやく周囲も我に返ったらしい。


「なんで人を殴るんだよ!」


「やっぱりこの二人、おかしいって!」


スキンヘッド男の頬には真っ赤な手形が浮かんでいた。


頬を押さえながら、

憎しみのこもった目でエリカを睨む。


「このクソガキ!」


怒鳴りながら突進してくる。


だがエリカは引かなかった。


むしろ制服の袖をまくり上げる。


「はぁ!? 先にミナミを泣かせたのはそっちでしょ!」


「やるってんならやってみな!」


慌てたミナミが駆け寄った。


目尻に浮かんでいた涙を乱暴に拭い、

そのままエリカにしがみつく。


「エリカ! ダメ!」


騒ぎを見た他の収容者たちも席を立った。


何人かがスキンヘッド男を取り押さえ、

二人の間に割って入る。


「正気ですか!?」


キャリアウーマン風の女性が背後から叫んだ。


「その人たちにはAIがついているのよ! 

あなたのせいで私たちまで殺されるわ!」


だがエリカはミナミに止められながらも、

なお食い下がった。


「そうだよ!」


「あたしたち、AIのお気に入りなんだから!」


「別にあんたたちの面倒なんか見たくなかったし!」


「ミナミっていうお人好しバカがどうしても行くって言うから来ただけ!」


教室中から一斉に声が飛ぶ。


「じゃあAIの命令じゃなかったのか!?」


エリカは鼻で笑った。


「考えてみなよ」


「AIは最初からあんたたちを閉じ込めて教育してたんだよ?」


「そんな連中が、なんで急に方針変えるわけ?」


「あたしたちが頼み込んだから来られたの!」


「もし来なかったら、

あんたたちはあのダサいピースサイン延々やらされてたんだから!」


「そのうち飯も食えなくなって終わり!」


そう言うとエリカは自分の頬の横でピースを作り、

べっと舌を出した。


あまりにも子供っぽい挑発に、

教室の空気が一瞬止まる。


委員長タイプの少女が自分の腹に手を当てた。


その瞬間。


ぐぅ……。


情けない音が教室に響く。


エリカは畳みかけた。


「こっちには計画も武器もないって?」


「じゃあ逆に聞くけど、あんたたちには何があるの?」


「偉そうなこと言う割に、反対する以外できることある?」


誰も答えられなかった。


スキンヘッド男の拳が震える。


その拳はエリカではなく、


ドンッ!


机へ叩きつけられた。


「くそっ……!」


「じゃあどうしろってんだよ!」


「俺たちは閉じ込められて……飯だってろくに食えねぇ……!」


「……俺だって暴れ回りたいに決まってんだろ!」


彼は床を睨みつけたまま吐き出した。


「そうね……」


キャリアウーマン風の女性も教室の扉へ目を向ける。


「今飛び出したところで、自殺行為よ」


「まずは……ここで生き残らないと……」


委員長タイプの少女が小さな声で言った。


「その先のことは……それからです……」


肩が小さく震えていた。


恐怖と緊張を押し殺しているのが誰の目にも分かった。


主婦はそんな彼女の背中を優しくさすった。


それからエリカへ視線を向ける。


「お嬢ちゃんたちが私たちを騙そうとしてるようには見えないよ」


「でもねぇ……みんな明日のご飯で精一杯なのさ」


「反抗とか革命とか言われても……」


「だからさ」


エリカは机を指先で軽く叩いた。


「誰が今すぐ飛び出せなんて言った?」


そう言いながらバッグから化粧ポーチを取り出す。


「だから、そのために来たんでしょ」


ポーチを開く。


ファンデーション。


化粧水。


乳液。


アイライナー。


次々と机の上へ並べられていく。


「これがあたしたちの計画」


全員がぽかんとした顔になった。


しかしエリカは気にしない。


机の上に腰掛けると、

スキンヘッド男を指差した。


「お前!」


「ちょっと来い!」


「は?」


わけも分からないまま、

それでも「計画」という言葉に釣られて前へ出る。


次の瞬間だった。


エリカはスポンジに乳液をたっぷり出し、

そのまま真っ赤な頬へ押し付けた。


ゴシゴシゴシゴシ。


容赦なく擦る。


「ぎゃあああっ!?」


「何すんだよ! 痛っ! 痛い痛い痛い!」


顔中が乳液まみれになる。


「うるさい!」


「化粧前のスキンケアでしょ!」


エリカは腰に手を当てた。


「分かった?」


「メイクも反撃も、準備が一番大事なの!」


そのまま教室全体を見回す。


「今のあんたたちの仕事は、あたしたちの授業を受けること!」


「ギャル試験で点を取る!」


「ちゃんと飯を食う!」


「力を付ける!」


「先のことは飯食ってから考えな!」


教室の空気はまだ重い。


それでも、さっきまでの殺気は消えていた。


「……確かに」


「腹減ってたら何もできないしな……」


そんな声があちこちから漏れる。


エリカは両手をパンと叩いた。


「よし!」


「分かったなら席に戻る!」


「授業始めるよ!」


立ち上がっていた全員が、ぞろぞろと席へ戻っていく。


ミナミはその光景を呆然と見つめていた。


なんだか、エリカの背中がやたら頼もしく見えた。


自分でも気づかないうちに、

小さく息を吐き出していた


張り詰めていた肩の力が、ようやく抜ける。


エリカはくるりと教室へ向き直った。


今度は完全に「鬼教官モード」だ。


机の上の化粧品を片っ端から指差しながら、

使い方を説明し始める。


教室には奇妙な光景が広がっていた。


十分前まで怒鳴り合っていた人たちが、

今はファンデーションの色選びについて真剣に議論している。


委員長タイプの少女は背筋を伸ばし、

必死にメイクのメモを取っていた。


キャリアウーマン風の女性と主婦は、

時折手を挙げてスキンケア用品について質問している。


スキンヘッド男はというと、

頬をさすりながらぼんやりしていた。


乳液のおかげで痛みは少し引いた。


だがなぜか顔の赤さだけは、

さっきより増している気がする。


そしてミナミは。


まだ少し赤い鼻をすすりながらも、

気持ちを切り替えていた。


即席で用意したメイク講座のプリントを抱え、

教室の中を忙しく歩き回っていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


そういえば、乳液を革命の道具にしようとする人なんて、

たぶんエリカくらいですよね(笑)。


でもよく考えてみると、

お腹も満たせない状態では、反抗も革命もできません。


AIに支配された世界かどうかに関係なく、

「まず生き延びること」こそが、

本当の第一歩なのかもしれません。


もし本作やエリカの活躍を気に入っていただけましたら、

ぜひ感想・応援・評価などで応援していただけると嬉しいです!

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