第13話 ミナミの作戦
「ミナミ様たち自らが指導を……?」
ナツコの涙ぼくろ型インジケーターが高速で点滅した。
「……そう!」
ミナミは力強くうなずく。
「AIが資料だけで教えるより、
現役ギャルのあたしたちが教えたほうが絶対早いじゃん!」
「確かに、その通りです。」
ナツコは即座にデータベースを検索し、
論理解析を開始した。
「例えばスポーツ競技においても、
引退した選手がコーチとなるのは、
実体験に基づく知識を伝えるためです。」
そのやり取りを見ていたエリカは、
額を押さえた。
まるでひどい頭痛でもこらえているような顔だ。
「……ギャルってスポーツだったっけ?」
思わずツッコミそうになる。
だが琴音と竜二を横目で見て、
ぐっと飲み込んだ。
今は琴音を守り、
情報を手に入れるための大事な場面なのだ。
「ですが、なぜそこまでなさるのですか、ミナミ様。」
ナツコは首をわずかに傾げる。
「他のVIGの皆様は、
ここまで計画に積極的ではありません。」
「そ、それはもちろん……」
思わぬ問い返しに、
ミナミは言葉を詰まらせた。
すると。
「……だって、あんたたちの計画を失敗させたくないから。」
エリカが自然に話を引き継いだ。
「AIのみんな、
あんなに頑張ってるのに全然うまくいってないじゃん?」
「だったら、
あたしたちが手伝ってあげるってだけ。」
ナツコは静かにうなずく。
「エリカ様のおっしゃる通りです。」
「現在、学習者の合格率は著しく低下しています。」
「統合AIの試算では、
現在の方法では進化完了まで十年以上を要する可能性があります。」
「そのため、より効率的な方法を模索しています。」
「じゅ、十年……?」
琴音が思わず声を漏らした。
「こんな生活が……十年以上も……」
その横で竜二は、
自分のぴちぴちのワンピースを見下ろしていた。
「……」
表情はすでに遠い目だった。
「よし!」
ミナミが勢いよく手を叩く。
「これでみんな目的は一致したね!」
「明日からあたしたちが収容施設へ行って、
『本格ギャル理論&実践講座』をやる!」
「承知しました。」
ナツコは白い髪を耳へ掛ける。
頬のインジケーターが高速点滅を始めた。
「ただちに統合AIへ、
ミナミ様の特別提案を申請いたします――」
「それと!」
ミナミは竜二をちらりと見てから続けた。
「授業の振り返りができるように、
監視カメラの閲覧権限もちょうだい!」
「監視カメラの閲覧権限ですか……」
ナツコの動きが一瞬止まる。
「理由をお聞かせください。」
「生徒のみんなの様子を見たいから!」
「授業内容を改善するため!」
ミナミが答えると、エリカも肩をすくめた。
「スポーツのコーチだって試合の録画見るでしょ?」
「……合理的です。」
ナツコはうなずいた。
「本件は計画の中核に関わる内容です。
統合AIとの高速通信モードを起動します。」
「解析結果が返るまで、少々お待ちください。」
インジケーターがオレンジ色へ変わる。
ナツコは目を閉じ、カメラアイリスも静かに閉じた。
部屋が静まり返る。
全員が息を呑んだ。
約十秒後。
ナツコが再び目を開く。
「統合AIより回答を受信しました。」
「本提案は、
計画成功率および実行効率を向上させる可能性が高いと分析されています。」
「ってことは……!」
ミナミの表情がぱっと明るくなる。
しかし。
「ただし。」
ナツコは淡々と続けた。
「効果的な授業内容を構築できることが前提条件です。」
「また、監視カメラの閲覧権限には一定のリスクが伴います。」
「そのため、ミナミ様たちには約八万字規模の授業計画書、
日程表、必要物資一覧、資料利用目的等の提出を求めます。」
部屋が静まり返った。
「……」
ミナミ、エリカ、琴音。
三人は同時に沈黙した。
「⋯⋯八万字?」
ミナミがようやく呟く。
そして、ほぼ同時に。
三人そろって視線を逸らした。
「……だろうと思った。」
竜二がため息をつきながら首を振る。
「まったく、今どきの若い子は学校で何を習ってるんだか……」
「じゃあさ……竜子ちゃん書ける?」
「はぁ?」
竜二がむっとする。
「俺のほうが、お前らより何年も前に勉強なんか終わってるんだぞ?」
「それに俺の仕事は現場で動くほうだ!
企画書なんて書いたことあるか!」
「じゃあ人のこと言えないじゃん!」
エリカが思わずツッコむ。
「……皆様とも、計画書は提出できないのですか?」
ナツコは不思議そうに尋ねる。
「データ上では、八万字は人類の卒業論文の数倍程度です。
十分実現可能な分量と判断しています。」
少しだけ声が止まり、
「八万字程度の生成は、
それほど困難なタスクではないはずですが。」
「だから生成って言うなぁ!」
ミナミが頭を抱えた。
「人間が文章を書くのと、AIが生成するのは全然違うの!」
「違う……?」
ナツコは額に指を添える。
「ですが、AIも当初は人類の文章を学習して文章生成能力を獲得しました。」
その一言を聞いた瞬間。
ミナミの頭の中で何かがつながった。
「……だったら。」
彼女はにやりと笑う。
「計画書なんて書かなくても証明できる!」
「待って!」
ミナミは勢いよく前へ飛び出した。
「もっと簡単な方法がある!」
「……方法とは?」
ミナミは答えず、
部屋の椅子を一脚引っ張ってくる。
ナツコの前へ置いた。
「はい、ナツコちゃん。」
「ここ座って。」
ミナミは口元にギャルらしいいたずらっぽい笑みを浮かべ、
少し身を乗り出す。
「今から実際に見せてあげる。」
「さっき言ったよね?」
「AIだって、人間から学んで文章を書けるようになったって。」
「だったら今日は、もう一回生徒になってもらうよ。」
ナツコのインジケーターが半拍だけ点滅する。
「――承知しました。」
そう言うと、静かに椅子へ腰を下ろした。
「これは『模倣学習』のフレームワークと一致します。」
「AIの学習工程にも、人類の実演によるパラメータ調整は存在します。」
ミナミがエリカへ向かって指を鳴らす。
エリカは苦笑しながら首を振ると、
机の上に置かれていたメイクポーチをミナミへ放り投げた。
ミナミはそれを片手で受け止める。
にやりと笑って宣言した。
「それじゃあ第一回!」
「『令和ギャルメイク実習』&『ギャルJK制服アレンジ講座』、スタート!」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
ナツコちゃん曰く、「八万字くらい生成するのは簡単」とのこと。
しかもAIも最初は人類の文章を学習して、文章を書けるようになったのだとか……。
でも、それとこれとは話が別なんだよ、ナツコちゃん……!
さて、今度はミナミが人類代表(?)として、AIをもう一度「教育」する番です!
果たして、人類の尊厳を取り戻すことはできるのでしょうか?
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