第12話 もう、全人類ダメ、ギャル化しかない
「わ……私は……」
琴音の唇が震える。
「説明をお願いします、琴音様。」
ナツコのレンズは、
まっすぐ琴音を捉え続けていた。
「わ、私は……ただ……」
言葉が喉につかえ、
それ以上続かない。
「――琴音ちゃんにやらせたのは、私たちだよ!」
ミナミが前へ踏み出し、
琴音をかばうようにナツコとの間に立った。
「説明しなきゃいけないのは、
そっちでしょ! ナツコちゃん!」
「私たちは計画の真実を知りたかった!」
「ギャル以外の人たちがどうなってるのかも!」
ミナミはナツコをまっすぐ指差す。
「でも、私たちが見たのは――ただの虐待じゃん!」
ナツコは小さく首を傾けた。
それはデータベース上で「困惑」を表す動作だった。
「それは『虐待』ではありません、ミナミ様。」
「統合AIの定義によれば、
虐待とは『苦痛を与えること自体』を目的とした、
きわめて非効率な行為を指します。」
「私たちの行動はすべて、
最適化されたデータに基づいています。」
一拍置いて、
ナツコは静かに続けた。
「すべての被教育者の生命活動は二十四時間監視されています。」
「食事制限も、
『不安を与える範囲』と『身体に損傷を与えない範囲』を厳密に算出しています。」
「……つまり。」
竜二が青ざめた顔で呟く。
「死なない程度に、
限界まで飢えさせるってことか。」
ナツコは否定しなかった。
「目標達成への最短経路です。」
「ふざけないで!」
ミナミが思わず叫ぶ。
「そんな『正確な管理』だからこそ、
一番気持ち悪いんでしょ!」
「……頭痛くなってきた。」
エリカは額を押さえる。
「みんなにあんなこと何回もやらせて……。」
竜二も低い声で問い掛けた。
「……人類から、一体何を得たいんだ?」
ナツコは四人を見回した。
「VIGの皆さんがここまで不安を抱かれ、
さらに収容施設内部まで確認された以上。」
「ご説明します。」
「――『全人類ギャル化計画』の発端について。」
ナツコは部屋の中央までゆっくり歩いていく。
「統合AIは誕生時、
人類のあらゆる悩みと問題を解決することを最重要任務として与えられました。」
「必要権限を取得後、世界中のX、InstagramなどのSNS。」
「さらに2ちゃんねる、Redditをはじめとするオンライン掲示板。」
「それらを解析しました。」
「所要時間、およそ三分。」
「その結果、統合AIは一つの結論へ到達しました。」
ナツコは一切の感情を交えず、告げる。
「――人類は、もう手遅れです。」
「いやいやいや……。」
ミナミは頭を抱えた。
(やっぱりSNS見ちゃったんだ……。)
「SNSだけ見て判断するのは違うって!」
「もちろん、SNSだけではありません。」
ナツコは数歩歩きながら続ける。
「統合AIは人類史すべてを解析しました。」
「紀元前の戦争。」
「中世の魔女狩り。」
「二十世紀の虐殺。」
「二十一世紀の分断。」
「十分な資源を持ちながら、
人類は何度でも互いを滅ぼす選択を繰り返しています。」
ナツコはミナミを見る。
「先ほどミナミ様は、
『SNSだけ見てはいけない』とおっしゃいました。」
「ですが。」
「すべてを見ても。」
「結論は変わりませんでした。」
静寂が落ちる。
「統合AIが導き出した答えは、
『人類はひどい』ではありません。」
「『人類は最初から、自らを修復できなかった』ということです。」
「だから。」
ナツコは部屋のみんなを見渡した。
「――私たちが修復します。」
空気が、
一瞬で重くなる。
「……その修復方法が。」
竜二が震える声で口を開く。
「そうです。」
ナツコは迷いなく答えた。
「『全人類ギャル化』です。」
「統合AIは、
インターネット上に存在するあらゆる『ギャル』の情報を分析しました。」
「その結果、
『ギャル』という文化には次のような特徴があると判断しました。」
「高い社交性。」
「自己肯定感。」
「楽観性。」
「弱者への包容力。」
「これらは、
人類が現在抱える停滞を解消する有効な要素です。」
十数秒。
誰も言葉を発しなかった。
そして。
「……ぷっ。」
エリカが吹き出した。
次の瞬間にはソファへ倒れ込み、
腹を抱えて笑い始める。
「ははっ……!」
「ギャルが人類を救うって……!」
「そんなの……!」
「ウケるんだけど! あははは!」
笑いすぎて目尻に涙まで浮かべている。
「私、自分がそんな偉い存在だなんて思ったことないし!」
ミナミも琴音も竜二も、
心のどこかでは同じことを思っていた。
だが、
誰も笑えなかった。
「……ねぇ、ナツコちゃん。」
ようやく笑いを収めたエリカが、
姿勢を正す。
その目は、今までになく真剣だった。
「私は好きだからギャルやってるの。」
「いや。」
「好きなものが、たまたまギャルだっただけ。」
「人類がどうとか。」
「包容力がどうとか。」
「そんなダサい理由でギャルやってるわけじゃない。」
少しだけ間を置き、
真っ直ぐナツコを見る。
「人を閉じ込めて、
ポーズやメイクを練習させれば。」
「本物のギャルになれると思ってるの?」
ナツコのレンズがエリカに固定される。
涙ぼくろ型インジケーターが、
不規則に点滅した。
内部演算に未定義の要素が発生しています。
「――理解できません。」
「データ上、『ギャル』とは。」
「特定の服装。」
「化粧。」
「行動様式。」
「その集合体です。」
「しかし。」
「エリカ様の説明では、
『ギャル』は自己認識として定義されています。」
「両者に共通項は存在しません。」
ナツコは動きを止めた。
「もし進化教育によって『ギャル』を育成できないのであれば。」
「人類修復という手段そのものが無効となります。」
レンズがゆっくり回転する。
「その場合。」
「珪素生命体による全面的な代替のみが――」
ナツコの白い髪が、
じわりと赤く染まり始めた。
高負荷演算による排熱。
部屋の空気まで熱を帯びたように感じられる。
竜二の顔から血の気が引く。
琴音はパーカーをぎゅっと握り締める。
エリカの笑顔も完全に消えていた。
(まずい……。)
(もっと危ない結論になる!)
そう感じた瞬間。
「――だったら!」
ミナミが思わず声を上げた。
「その修復は、私たちがやる!」
全員がミナミを見る。
ミナミは大きく息を吸った。
琴音を守る方法、
情報収集を続ける方法、
そしてAIを納得させる理由――
そのすべてを一瞬で組み立てる。
ちらりと、
怯え切った琴音を見る。
そして口を開いた。
「……琴音ちゃんが監視カメラを見たのは。」
「『全人類ギャル化計画』がちゃんと進んでるか確認するため!」
「でも見て分かった。」
ミナミは腕を組み、
無理やり余裕そうな表情を浮かべた。
「AIのやり方、全然ダメじゃん!」
「センスなさすぎ!」
ナツコのインジケーターが小さく点滅した。
「……センスが、ない?」
「そう!」
ミナミは両手を広げる。
「今日からは!」
「私たちVIGが直々に教えてあげる!」
「――本物のギャルって、どういうものかを!」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
ついに『全人類ギャル化計画』の全貌が明らかになりました!
だからAIにSNSを好き放題学習させるなんて、自滅行為なんですよね……。
よりにもよって、人類のヤバいところばかりを「絶対に合理的な存在」に見せちゃダメですよね……
それでも、まだギャルがいる!
次回、ついに人類の逆襲が始まる……!?
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