シュヴェリーン
セリオンはシュヴェリーンに入ったら、エスカローネに電話した。
「もしもし、エスカローネか?」
「セリオン? どうしたの?」
「ああ、俺はシュヴェリーンに帰ってきた」
「ずいぶん早いのね? サタナエルと一年は旅するって言っていたのに」
「ああ、事情があってな。これからテンペルに帰る」
「それじゃあ!」
セリオンにはエスカローネが目を見開き、輝いたような顔をしているのが想像できた。
「ああ、テンペルに俺は帰る。そろそろ戻れると思う。母さんにも伝えておいてくれ」
「わかったわ!」
セリオンはスマートフォンで電話を切った。
そしてバイクでテンペルへと帰った。
「セリオン!」
「エスカローネ!」
セリオンは幼なじみのエスカローネとテンペルで再会した。
エスカローネはストレートの長い金髪に、青い瞳、豊かな胸、青い軍服上衣、ボックス型の青いミニスカート。青い二―ソックス、黒いブーツに、白いマントを羽織っていた。
エスカローネはセリオンの胸に納まるように抱きしめられる。
「セリオン……会いたかった……」
「俺もだ、エスカローネ」
こんなことが自然にできることがバカップル扱いされる理由なのだろう。
セリオンの胸にいとおしさがあふれる。
セリオンとエスカローネは共にニ十歳だ。
セリオンはエスカローネの髪をなでる。
セリオンはこの髪がとても好きだ。
この長い髪を毎日手入れするのは大変だろう。
だが、エスカローネはそれを苦とも思っていない。
エスカローネ・シベルスカ(Eskaroone Siberska)。
セリオンとは同じ家で育った、セリオンにとっては姉妹とも呼べる存在。
セリオンにとって最愛の女性。
セリオンはエスカローネを離す。
セリオンにはもう一人、最愛の女性がいる。
「セリオン、お帰りなさい」
「母さん」
ディオドラ・シベルスカ(Diodora Siberska)。
セリオンの母でテンペルの糧食部部長を務めている。
カリス(Charis)修道会の修道女でもある。
修道会からの出向という形だ。
髪は金色で、長い髪は後ろで三つ編みにされている。
瞳の色はアイスブルーでセリオンと同じだ。
セリオンはそんな母を優しく抱きしめる。
「セリオン……一年は帰ってこないって言っていたのに、どうしてそんなに早く帰ってきたの?」
ディオドラが問う。
セリオンは二人に説明する必要があると思った。
「ああ、実はサタナエルが……」
セリオンはサタナエルが凶行に走ったことを話した。
場所はセリオンの部屋にて。
「信じられない……あのサタナエルがそんなことを……」
エスカローネは絶句した。
エスカローネもサタナエルのことは知っている。
エスカローネからすれば、サタナエルは礼儀正しい紳士に映ったことだろう。
「サタナエルの生死は不明だ。あいつは川に落ちた」
「私は思っていたことがあるの」
「それは?」
ディオドラが語りだす。
「私はずっとサタナエルがあなたと戦うことを考えていたわ。サタナエルはあなたの宿命の敵……そんな気がしたの」
「宿命、か」
「サタナエルは自分から悪魔の息子と言ったのね?」
「ああ、あいつはそう言った」
「なら、あなたは彼と戦うことになるのは必然よ。セリオン、あなたは……」
「わかっている。俺は神の息子だから、だろう?」
「セリオン……」
「このことはほかの人には?」
「まだ報告していない」
「それじゃあ、言っておいた方がいいわ。特にスルト様やアンシャル兄さんにはね」
「じゃあ、まずスルトから報告を」
「セリオン、今日スルト様は休暇なの」
エスカローネがそう指摘した。
「そうか。なら、アンシャルに言う」
「アンシャルさんは聖堂にいると思うわ」
「わかった。行ってくる」
セリオンは報告のために聖堂に向かった。
アンシャル・シベルスク(Anschar Sibersk)はセリオンにとって父親のような存在である。
セリオンの母ディオドラはアンシャルの妹だ。
つまり、セリオンにとってアンシャルは正確にはおじである。
ただ、セリオンはアンシャルとディオドラとの間に生まれたわけではない。
セリオンの誕生のきっかけは二十年前に、ディオドラが雷に打たれてその時に身ごもったという。
そしてその日の夜にディオドラは夢を見た。
夢では大天使レミエル(Remiel)が現れて、ディオドラが神の子を身ごもったと告げられたらしい。
らしい、というのはセリオンは自分の誕生が超自然的なものとしか知らないからだ。
それもアンシャルとディオドラによってこの真実を知った。
セリオンにはそれを証明することはできない。
だが、セリオンはこの話を真実だとみなしていた。
でなければ大天使スラオシャの行動が理解できない。
スラオシャ(Sraoscha)はもと人間の大天使で、セリオンとは大天使の中でも最も親密な存在である。
スラオシャはセリオンの人生に意図的に介入してきた。
それはセリオンが神の子(Dei Filius)なら納得できる。
セリオンは聖堂に入った。
聖堂は神聖な空間だ。
この建物はテンペルの象徴的な建物だった。
アンシャルがいるのは聖堂執務室だ。
ここでアンシャルは仕事している。
セリオンは部屋の前でノックした。
「セリオンだ」
「ああ、入っていいぞ」
中から男性の声がした。
セリオンは部屋の中に入る。
そこには長い金髪で白いコートを着た男性がいた。
瞳の色はアイスブルーだ。
アイスブルーの瞳はセリオンの家系だった。
「セリオン! 帰って来たのか!」
「ああ、ちょっとあってな」
「……何かあったのか?」
「ああ、実は……」
セリオンはアンシャルにサタナエルが凶行に及んだと説明した。
アンシャルは黙って聞いていた。
「そうか……サタナエルが……実の母と村人を殺したのか……」
「ああ、なぜあいつが村人を殺害したのかは分からない。ただ、あいつは意味深なことを言っていた」
「それは?」
「ああ、自分は悪魔の息子(Der Sohn des Teufels)だと」
「悪魔の息子? 悪魔にもいろんな奴がいるが……サタナエルの凶行ぶりだと高位の悪魔で間違いないだろう。誰が父親まではわからないがな」
「なあ、アンシャル?」
「どうした?」
「俺はサタナエルと戦わなければならないのか?」
「それは……」
「俺はサタナエルを友だと思っている」
「セリオン、おまえは神の子だ。それゆえにサタナエルが悪魔の子ならおまえたちは宿敵同士ということだ。戦いは避けられない」
「ああ、わかった。俺もサタナエルがエスカローネを殺すと言った時には怒りを抑えられなかった。俺も覚悟を決めなくてはならないだろうな」
セリオンは部屋から退出した。
そこにはエスカローネがいた。
「エスカローネ? どうしたんだ?」
「セリオンが心配だったから」
「そうか。悪かったな。なあ、エスカローネ?」
「何?」
「今日は泊っていくか?」
「うん」




