ニーフェル山3
セリオンとフィリアはつり橋が落ちたため、迂回するルートを通ることにした。
フィリアに言わせれば、安全に帰れるとのこと。
「それにしても、セリオンさんは強いんだね!」
「ああ、まあな」
「ふうん……サタナエルも強いけど、セリオンさんも強い……どっちが強いの?」
「さあ? やったことがないから分からない。いい勝負になると思うが」
「セリオンさんにとってサタナエルは何?」
「そうだな。ライバル、だな」
「ライバル?」
「ああ。俺たちは互いに研鑽し合っているんだ」
「へえ……すてきな関係だね」
セリオンはサタナエルと直接戦ったことはない。
そのため、セリオンはサタナエルの本当の強さを知らない。
知らなくていいのかもしれない。
セリオンはサタナエルと戦うのが怖い。
それは友を失うかのような想いをセリオンに抱かせるからだ。
セリオンには漠然とサタナエルとは戦いになるという想いがあった。
それがどういう根拠でそうなるのかは分からない。
自分の中の何かがサタナエルと対決させるのだろうと思っていた。
実際、セリオンはサタナエルと戦いになるという予感はあった。
ただ、そんな予感は実現してほしくなかっただけで。
「うふふふ、なんだが、うれしいな」
「うれしい?」
「だって……きゃあっ!?」
「フィリア!」
その時、フィリアはなだらかな崖から落ちた。
セリオンはすぐさまフィリアを追う。
フィリアは下で足を抑えていた。
「えへへ……こんなことばっかりだね。ガイド失格だ」
「まったくだ。足は痛むか?」
「大丈夫っ、つう!?」
「……痛む、ようだな」
「ごめんね……なんだか、世話になってばかりで……」
フィリアは申し訳なさそうに言った。
「気にするな。頼られるのは嫌いじゃない。この近くに夜を過ごせるところはあるか? 例えば、洞窟とか?」
「あるよ」
「なら、今日はそこで過ごそう。これ以上、歩くのは無理そうだ」
「わかった。案内するね」
フィリアは立とうとしたが、セリオンはそれを止めた。
「俺に任せろ」
「え?」
セリオンはフィリアを抱き上げた。
「あ……」
「で、どっちだ?」
「あ、うん、あっち」
セリオンはフィリアを洞窟に運び込んだ。
セリオンは火をたいた。
セリオンとフィリアはたき火で温まる。
二人とも無言だった。
時が過ぎていった。
今は夜だった。
「ごめんね、セリオンさん」
「セリオンでいい」
「じゃあ、セリオン! えへへへ……名前呼び、しちゃったね!」
「セリオンはどうして強くなろうと思ったの?」
「俺か? そうだな。大切なものを守りたかったからだな」
「大切なもの?」
「そうだ。エスカローネ、そして母さん」
「そうなんだ……なんだかうらやましい」
「だが、それはきっかけだ。今の俺はより強くなりたいと思っている」
「どうして?」
「戦いの世界は非情だ。ただ力が及ばなかっただけで、蹂躙される。俺はそれが怖い……」
セリオンが恐れているのは自分の弱さで大切なものを守れないこと。
セリオンは研鑽を怠らない。
ただそれは漠然とした恐れからでもあった。
もし、自分が弱くて大切なものを守れないなら、自分は絶対に後悔する。
悪は強大だ。闇は脅威だ。
それがセリオンの不安であった。
「セリオンは優しいんだね」
「優しい? 俺が?」
「うん、優しい」
「そうなのか……俺には自覚がない」
「なら、いいんじゃない? セリオンはそのままで」
「そうか……」
「じゃあ、私は寝るね。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
セリオンは一人あがいていた。
セリオンがあがいているのは、時代の在り方だ。
セリオンもその時代に生きている一人であることに変わりはない。
それはセリオンもその影響を受けるということ。
セリオンが考えているのは、時代を越えることだった。
俺は新しい時代の扉を開ける。
そのために何をすればいい? どうなればいい?
セリオンはたき火をずっと見つめていた。
翌日、セリオンはフィリアを背負って、山を下山していた。
すると、ちょうどつり橋が落ちたところまでやって来た。
そこにはサタナエルがいた。
「サタナエル!」
サタナエルは笑顔を見せた。
「セリオン! どうした? なぜフィリアをおぶっている?」
「フィリアは足をくじいたんだ」
「なぜ、足をくじいた?」
「私が崖から落ちたの」
「何だと?」
「医者の用意をしてもらえるか?」
「わかった。レスキュー隊を連れて戻ってくる。おまえたちはここにいろ」
「ああ、フィリア、下ろすぞ?」
「うん、いいよ」
フィリアは地面にうずくまった。
「ごめんね、セリオン。迷惑をかけて」
「謝るようなことじゃない。それに俺は頼られるのが好きなんだ」
「ふーん、それって恋人にも?」
「まあ、な」
「サタナエル、いたね?」
「ああ。心配してきてくれたんだろう。きっとフィリアのことを気にしていたんじゃないか?」
「そうかな? 彼はそんな人じゃないと思う」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、彼は冷たいから……」
「冷たい? ならば俺も同じだ」
「ううん、セリオンはクールってだけ。私はサタナエルが怖い」
「怖い? どうしてだ?」
「うーん……直感、かな」
「直感……何というか、フィリアらしいな。どうしてそう思うんだ?」
「ただ、なんとなく」
「はっきりしないな」
「だって、そうなんだもの。私は彼の存在が怖い」
「存在、か」
「ねえ、どうしてセリオンはサタナエルの親友なの?」
「わからない。ただ、俺も感じると気がある。俺とあいつは相いれないものを持っている、と。それが何かは分からない。漠然と感じているだけだ。俺とサタナエルはいつか真剣に戦う時が来る……文字通りのライバルとして。おかしいよな。どうして親友にそんなことを思うんだろうか?」
「私もセリオンとサタナエルは対決するんじゃないかって思う。それは宿命なのかもしれないけど……」
「宿命、か」
「セリオンは信じる?」
「どうだろうな。俺には人知を越えたことは分からない」
その後フィリアはレスキュー隊に救助された。
セリオンはベレニーチェ邸で再び世話になった。




