ロート・スコルピオン
セリオンとフィリアは山頂に到達した。
ニーフェル山の山頂には聖所があるという。
「ここが山頂だけど……魔物、いないね?」
「どこかに隠れているのかもしれない。油断しないほうがいい」
「そういえば、魔物を倒しにここに来たんだっけ」
フィリアはニーフェル山から地上を見る。
そこからは村が一望できた。
「うーん、いい景色!」
「ここからは村が一望できるんだな」
セリオンがフィリアに並ぶ。
いい景色だった。
「この景色を見ると、ここまで登ってよかったって思えるよね」
「サタナエルはいったい何をしているだろうか?」
「ベレニーチェさんと話をしているんじゃない? ほら、五年ぶりだし」
「そうだな」
「ふふっ、サタナエルが心配?」
「ああ、まあな」
「そうなんだ。サタナエルは幸せだね、こんな風に思ってくれる人がいるんだから。あー、私も彼氏が欲しい!」
「フィリアは彼氏がいないのか?」
「私、恋ってしたことないんだよね。だから、それがどんなものか興味があるな」
「そうか」
「セリオンさんって恋人はいる?」
「ああ」
「そうなんだ。名前は?」
「エスカローネ」
「へえ……いい名前だね。かわいい。その人ってどんな人?」
「どんな? そう言われてもな……長い金髪の髪がとてもきれいだ。まるで輝くようで……」
セリオンは言いよどんだ。
エスカローネの美しさは知っているつもりだったが、セリオンとしては恥ずかしいという気持ちが優ってしまう。
セリオンはサタナエルと半年間旅してきたが、エスカローネは今何をしているだろうか?
セリオンはそれが気になった。
むしろ、気にならないほうがおかしい。
「あー! 今、女の人のことを考えていたでしょー?」
「? わかるのか?」
「セリオンさんは顔に出るタイプ?」
「それは自分でも自覚がない」
「へへへ、エスカローネさんのこと想ってた?」
「ああ」
「ストレートに言うね」
「事実だからな」
「セリオンさんはエスカローネさんを愛してる?」
「もちろんだ。俺はエスカローネを愛している。ほかの誰よりも」
「ふーん、恋人ってどんなものなの?」
「そうだな……大切な存在だな」
「大切、ねー」
「自分の半身のようなものだ。近くにいて当たり前の気持ちと、遠くにいて離れたくないような気持ちになる」
「ふうん、そうなんだ……まだよくわからないかな」
「フィリアもいずれ……!?」
セリオンたちが山頂で話し込んでいると、背後から強大な気配が漂ってきた。
それは明らかに人間のものではなかった。
「フィリア!」
「きゃっ!?」
セリオンはフィリアをかかえて、ジャンプした。
すみやかにその場から離れる。
砂塵が舞った。
セリオンは敵を見る。
それは大きく赤い存在。
六本の脚を持ち、硬そうな体に、長い尾。
ロート・スコルピオンである。
ロート・スコルピオンは飛び跳ねて、セリオンたちを押しつぶそうとしてくる。
セリオンはすばやく移動して、それを回避する。
フィリアをかかえたままでは戦えない。
「フィリア!」
「う、うん!」
「離れていろ! こいつは俺が倒す!」
「わかった!」
セリオンはフィリアを下ろして、歩かせる。
セリオンは手を前に出した。
その手に一本の白銀の、片刃の大剣が出る。
これはセリオンの大剣。
神剣サンダルフォン(Sandalphon)であった。
セリオンが十五歳のころ、大天使スラオシャから贈られた剣だ。
セリオンは大剣を取って構える。
ロート・スコルピオンの目が光った。
再び、ロート・スコルピオンはセリオンを押しつぶそうとしてくる。
ロート・スコルピオンの足はドリルのように鋭い。
あんな足で踏まれたらセリオンでも即死だ。
セリオンはすみやかにその場から離れる。
ロート・スコルピオンの足が地面に刺さった。
セリオンはロート・スコルピオンが動けなくなったのを見て、反撃する。
セリオンは大剣で、ロート・スコルピオンの脚を斬った。
「グイイイイイイイイ!?」
「これでもくらえ!」
セリオンはさらに脚を一本斬り離す。
セリオンはロート・スコルピオンと間合いを取る。
ロート・スコルピオンの目が怒りを帯びた。
ロート・スコルピオンは長い尾でセリオンを刺そうとしてくる。
おそらくあれには毒があるだろう。
かすっただけで死に至るのは確実だ。
セリオンは軽やかな足さばきでそれをよける。
ロート・スコルピオンは執拗にセリオンを攻撃してくる。
「危ない攻撃だな」
ロート・スコルピオンは尾に魔力を集中させた。
ロート・スコルピオンの尾から魔力弾が放たれる。
魔力弾は普通の剣では斬れない。
普通の剣は物理に従う。
だが、魔力弾は魔力に従う。
「そんなもの!」
セリオンはそれにもかかわらず、それを斬った。
セリオンの大剣は魔力を斬る能力を持っている。
ロート・スコルピオンが信じられないようなものを見たという顔だ。
明らかに動揺している。
ロート・スコルピオンは間合いを開けた。
そのまま尾の先端に魔力が集まる。
それはさきほどまでのパワーとは比較にならない。
大技だ。
いくらセリオンの大剣に魔力を斬る力があろうと、大きなパワーで押しつぶされたら終わりだ。
ロート・スコルピオンが尾からレーザーを出した。
テイル・レーザーだ。
すさまじいエネルギーがセリオンに向けて発射される。
当然、それをもろにくらってやるセリオンではない。
狙いを引き付けて、それを発射の寸前に回避したのだ。
ロート・スコルピオンは尾でセリオンを突いてくる。
セリオンはそれを受け止めた。
セリオンの体からは蒼白い闘気が放たれていた。
これは蒼気。
セリオンの闘気である。
セリオンはただロート・スコルピオンの尾を受け止めたのではない。
蒼気でそれを可能にしたのだ。
「その尾、もらうぞ?」
セリオンが大剣を振るった。
ロート・スコルピオンの尾が切断される。
「ギアアアアアアアアア!?」
ロート・スコルピオンが叫び声を上げる。
セリオンは大剣に蒼気をまとわせる。
蒼気は大剣とドッキングすることによって、すさまじい切断力を持つ。
セリオンの蒼気が大剣にいきわたる。
セリオンはそれをさらに収束させた。
切断力を極限にまで高め、蒼気を練り上げていく。
これを可能にするためにはかなりの研鑽を必要とする。
「蒼気凄晶斬!」
セリオンは収束された蒼気の刃でロート・スコルピオンを斬った。
ロート・スコルピオンの頭部が叩き斬られる。
ロート・スコルピオンから力が消えて、そのまま倒れた。
死んだ魔物は粒子化する。
ロート・スコルピオンは赤い粒子と化して消えていった。
「ふう……倒せたな。フィリア、無事か?」
「う、うん!」
セリオンは大剣を消した。
セリオンはフィリアの近くまでやってくる。
「これで魔物は倒せたな。確か、特徴は赤くて大きいだったな? 今の奴で間違いないだろう」
「うん、そうだね」
「それじゃあ、下山するとしようか」




