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ヘルデンリート・フィナーレ Das Heldenlied Finale ~Mein Bester Freund~  作者: 野原 ヒロユキ
俺は新しい時代の扉を開ける Ich will die Tür der neuen Zeit aufmachen
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ニーフェル山2

二人は角ばった岩山を登っていく。

硬い岩壁が露出していた。

「あれは?」

「見て、あれはクリスタルだよ」

セリオンの視線の先には、人の大きさほどある黄色いクリスタルが直立していた。

「クリスタル……サタナエルが言っていたやつか」

「何か知っているの?」

「ああ、サタナエルから少し聞いたんだ」

「そう。このクリスタルが村の経済を支えているんだよ」

セリオンはクリスタルに近づいてみた。

手でクリスタルに触れる。

「これは……かなり純度が高いな。良質なクリスタルだ」

クリスタルは魔力との相性がいい。

魔力を込める媒体として、クリスタルほど適した物質はない。

それがクリスタル市場を形成している。

クリスタル市場では良質のクリスタルは高値で取引される。

このニーフェル山のクリスタルはかなり良質だ。

シュヴェリーンに持っていけば、相当高く売れるだろう。

ネーベルハイムの経済にプラスに働くのは間違いない。

「経済か……」

「どうかした?」

「ああ、そればっかりだと思ってな」

「そればっかり?」

「ところで、今は山の中腹当たりか?」

「そうだけど」

「少し休憩しないか?」

「そうだね。少し休憩してもいいかもしれないね」

「じゃあ、休もう」

セリオンとフィリアは休憩を入れることにした。



セリオンとフィリアはその場にしゃがんだ。

「セリオンさんは経済の話しは嫌い?」

「……正直、あまり好きになれない」

「どうして?」

「どいつもこいつも、カネ、カネ、カネだ! 俺はうんざりだ!」

「セリオンさんはおカネの話が嫌いなの?」

「俺も全面的に否定しているわけじゃない。確かに、経済成長によって俺たちは豊かになった。それは否定しない。だが、それによって俺たちは大切なものを失ったんじゃないか?」

「大切なもの……」

「それが何かは俺にもわからない。政治家たちは経済を成長させることに躍起になっている。俺には精神的なものが疎んじられていると思う」

「精神的なもの……」

フィリアが繰り返した。

ツヴェーデンはすでに工業化の時代を終えて、情報化の時代に突入していた。

ツヴェーデンはビジネスでも世界のトップを走っていた。

「セリオンさんは答えを見つけなきゃいけなよ?」

「今の俺ではそれに対する答えが見つからない。いったいこの時代で俺は何をすればいいのか……時代が狂っているのか?」

「それは私には分からないけど……」

「勘違いしないでほしい……俺はビジネス自体は否定していない。俺が気にしているのは時代の歪みだ」

「時代が歪んでいるっていうこと?」

「それは俺にはまだ分からない。わからないことだらけだ。俺たちは時代に圧倒されて、この時代のことが全くわかっていない」

「この時代はいったいどこに向かっているんだろう?」

「さあな。ただ、それが拝金主義を生んだのは確かだ。なんでもカネで価値が測られる……俺にはそれがうんざりなんだ。だからかもしれない」

「え?」

「俺はこの村が好きだ。近代経済の侵食を受けていないこの村が。できればこの村はずっとこのままでいてほしい。フィリアはこれを持っているか?」

セリオンはポケットからスマートフォンを取り出した。

「うん。私も持っているよ。あんまり使わないけど」

「現代ではこれがないと仕事にならない。俺は思うんだ。こんなものがない世界に行きたいと。ただゆったりとした時間の流れに身を任せてみたい。エーリュシオン上のどこならこれがないんだろうな?」

「私もこれはあんまり好きじゃない。もっと原始的なものが好きかな」

それはフィリアも同感のようだ。

セリオンは自分のスマートフォンに憎々し気な視線を向けた。

「知っているか? 発展途上国では自分の臓器を売ってでもこれが欲しいそうだ。これがないと仕事にならないからだそうだ。まったく、そんなにこれがいいのか……」

セリオンは大きくため息をはいた。

セリオンはスマートフォンが好きではない。

必要だから持っているだけだ。

必要がなければ持たなかっただろう。

そもそも、テンペルではあまりスマートフォンは好まれていない。

テンペルは宗教組織でもあるため、土曜日はあらゆる電子機器を使わない日と指定されている。

それは聖書でエロヒームが六日で天地創造を終えて安息したのがその由来だ。

安息日にはあらゆる仕事は禁止される。

もっとも軍事など一部では安息日も仕事しているが。

土曜日はPCも使ってはならない。

電源を入れること自体がNGだ。

その日はみんなで議論したり、静かに読書したりする。

セリオンの希望は、スマートフォンがない国でバカンスを過ごすことだ。

「そろそろ、出発しよう。日が暮れる前に山頂に着きたい」

「そうだね」

そうしてセリオンとフィリアは歩き出した。

世界は確実に物質的な進歩を遂げている。

だが、それに対するカウンターカルチャーはないのか?

経済の独裁……それに対抗するには何が必要か?

セリオンはそんなことを考えていた。

セリオンは正直苦しい。息苦しい。

どうして生きていてつらいんだろう?

何かが物理的に劣っているわけではない。

むしろ、テクノロジーの進歩によって物は氾濫した。

明らかに豊かになっている。

だが、それでどうして苦しいのか?

それは何かが間違っているからではないか?

鍵は『精神ガイスト』にあるのか。

資本主義は世界的に膨張した。

世界は資本主義によって制覇された。

世界中を資本主義が覆っている。

かつては社会主義があったが、今はもう見る影もない。

セリオンにはまだ答えが出ない。




セリオンとフィリアはつり橋のところまでやって来た。

「このつり橋……古そうだな……本当に大丈夫なのか?」

「うーん、一応、迂回するルートもあるんだけど、そっちにしとく?」

「いや、このまま進もう。時間がもったいない」

「わかった。じゃあ、進むね」

その時、つり橋が砕けた。

「ああああ!?」

「フィリア!」

セリオンはくだけたつり橋を走り、フィリアを抱え込む。

そしてそのまま大ジャンプで向こう岸に渡った。

「大丈夫か?」

「怖かった!」

フィリアがセリオンに抱きついてくる。

余ほど怖い思いをしたのであろう。

セリオンは背後を見た。

「帰りは迂回するルートだな。やれやれ、面倒なことだ」

セリオンは軽くため息をはいた。

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