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ヘルデンリート・フィナーレ Das Heldenlied Finale ~Mein Bester Freund~  作者: 野原 ヒロユキ
俺は新しい時代の扉を開ける Ich will die Tür der neuen Zeit aufmachen
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ニーフェル山

セリオンたちが楽しく団らんをしていた時、ベレニーチェの家がノックされた。

トントン。

「おや? どうやら来客のようだ」

サタナエルが視線を向ける。

「お客様が来たようね。私は少し、この場を離れるわ」

ベレニーチェが立ち上がって、ドアの方へと向かって行った。

ベレニーチェは村人と何か会話した後、難しそうな顔をして戻ってきた。

「母さん、何かあったのかい?」

サタナエルが心配そうに聞いた。

「ええ、まあ、ね」

「いったい何があったんだ?」

「どうもね、ニーフェル山に魔物が出現したらしいのよ」

「魔物?」

サタナエルが聞き返した。

セリオンはそのあいだ黙って聞いていた。

「ニーフェル山は住民からは聖なる山と思われている。確かに、そんな山に魔物が出現したのなら問題だな」

「いったい、どんな魔物なんだ?」

ここでセリオンが口を開いた。

セリオンはこの情報に興味があった。

セリオンは戦闘に喜びを見出す人間だ。

魔物と聞いて血が熱くならないわけがない。

「大きくて赤いらしいわ。それ以上はまだ分からないの」

「大きくて赤いか……危険な香りがするな。自警団はどうするつもりだ?」

「自警団? そんなものがあるのか?」

「通常の魔物であれば、自警団が担当する。もっともそれでもどうにもならないなら、シュヴェリーンに連絡することになっている」

サタナエルは淡々と語る。

「ただ、今回の魔物は自警団の手に負えそうには思えないな。私が行こう」

「サタナエル?」

サタナエルが立ち上がった。

そのままドアに行こうとする。

それをセリオンが止めた。

「サタナエル! 待ってくれ!」

「セリオン?」

「ここは俺に任せてくれ」

「だが、客のおまえにそんなことをさせるには……」

サタナエルはセリオンに気を使っているのであろう。

「おまえはここにいろ。せっかく実家に帰ってきたばかりなんだろう?」

「それはそうだが……」

「魔物の件は気にするな。それは俺の方が向いている。俺が行く」

「……いいのか?」

「ああ、俺がいると話せないこともあるだろう? 俺はアードラ―の社員ではないからな」

実際、セリオンはアドヴェント社の人間ではない。

そのため、サタナエルとベレニーチェは機密にかかわることは話せない。

もっとも、セリオンはアドヴェント社から来ないかと誘われたことはある。

セリオンは丁重にお断りしたが。

「気を使わせてしまったな。すまない」

「いい。二人でしか話せないこともあるだろうからな。ちょうどいい」

「セリオン君、気をつけて」

「ああ」

そう言うとセリオンはベレニーチェの家から出て行った。



セリオンは外に出た。

そこにはフィリアがいた。

「フィリア?」

「セリオンさん?」

「どうして、フィリアがここにいるんだ?」

「それはこっちのセリフ。どうしてセリオンさんがいるの?」

「ああ、俺はニーフェル山の魔物を倒しに向かうところだ」

「セリオンさんが? てっきりサタナエルがいくんだと思ってた」

「ああ、サタナエルが行こうとしたが、俺が止めたんだ。あいつには家族と過ごしてもらいたくて」

「ふふっ、そうなんだ。セリオンさんは優しいね」

「俺が、優しい、か……」

「どうかした?」

「いや、俺も自分が優しいかは自覚がない」

「親友のために考えられるセリオンさんは十分優しいよ」

「そうなのか……」

「ふふふっ、じゃあ、山に行く?」

「?」

どうしてフィリアがそんなことを言うのであろう? 

セリオンは疑問に思った。

「あ、言ってなかったね。私、これでも山のガイドをしているんだ。アルバイトだよ」

「ガイド?」

「ニーフェル山は無知な人が行くにはちょっと厳しいかな。そこで、ガイドが必要なのです!」

フィリアがVサインを決めた。

セリオンは困惑する。

「だが……危険じゃないのか?」

「それはあ……セリオンさんがいるでしょ?」

「……そういうことか」

フィリアはてへっといったポーズを決める。

セリオンはため息を出した。

「わかった。案内してくれ」

「もちろん!」

セリオンはフィリアに案内されて、ニーフェル山に行くことにした。



フィリアはルンルンと機嫌がよく、セリオンの前を歩いていく。

空は明るく、太陽が輝いていた。

少なくとも雨が降りそうな気配はない。

「ねえ、セリオンさん?」

「何だ?」

「サタナエルとはどう出会ったの?」

「サタナエルとの出会いか」

そこはフィリアが気になるところらしい。

まあ、フィリアからすればサタナエルに親友ができること自体が驚きだろう。

「そうだな。それは訓練だった」

「訓練?」

「ああ、俺はテンペルという組織に属しているんだが、サタナエルとはアドヴェント社との共同軍事訓練で出会った」

「へえ……そうなんだ」

「あいつは同じ陣営だった。夜の中、俺とサタナエルは敵陣営の本拠地を制圧した。それが俺とサタナエルとの出会いだ」

「サタナエルとは、どうだったの?」

「そうだな。俺とあいつは最初から親しかった。どこか馬が合ってな。最初の朝にはコーヒーを御馳走になったよ」

「あ、それはわかる。彼ってコーヒーには目がないものね!」

「まあ、そうだな。俺はあいつからうまいコーヒーを教えてもらった。それまではコーヒーとは苦くてまずいものという印象だったんだ。だが、サタナエルがいれたコーヒーはうまかった。その時までそんなコーヒーを飲んだことはなかった。目が開いたような感じだったよ」

セリオンはそれ以来コーヒー好きになり、今ではコーヒーショップによく足を運んでいる。

うまいコーヒーを売れるには最高級の豆、水の入れ具合などいろいろと気にすることがあるらしい。

「ふうん……サタナエルと合う人がいるなんて信じられないよ。彼って昔は一人で過ごすタイプだったから」

「そうなのか?」

「うん、基本的に話しかけるなってオーラを出してたっけ」

「フィリアは違うのか?」

「私はサタナエルが一人でいたから、気になって声をかけたんだよ」

「あいつは孤独だったのか?」

「どこか普通の人とは違うような感じはしたかな。でも、昔から強かった。いじめっ子を返り討ちにしていたからね」

「サタナエルらしいな」

「ありがとね、セリオンさん」

「どうした?」

「サタナエルは今幸せだと思う」

「どうしてそう思うんだ?」

「だって、彼の笑顔がまぶしかったから」

「観察したのか?」

「うん。私もサタナエルとは付き合いが長いから、彼の表情が柔らかくなったことには気づいたかな」

「昔はどうだったんだ?」

「結構きつい顔つきをしていたよ? それが悪循環して、人を寄せ付けなかったんだ」

「そう、か」

サタナエルは孤独だったのだろう。

セリオンはサタナエルの幼少時代を知らない。

セリオンが知っているのはすでにアードラ―で天才と呼ばれていた彼だ。

セリオンが会ったサタナエルは自信に満ちていた。

それはA級アードラ―というポジションがそうさせたのかもしれない。

少なくとも、セリオンが知っているサタナエルは孤独ではなかった。

彼はいつも部隊の中心にいた。

彼は部隊から信頼されていた。

おそらく、仲間と共通の経験を積んだのが良かったのだろう。

セリオンはそんなサタナエルの過去を知らない。

サタナエルは思えばセリオンに自分の過去を話さなかった。

それには理由がったのだろうが、セリオンは親友の知らない側面を思い知った。

セリオンはサタナエルのことをもっとより深く理解できるだろうか?

そうなってくれるとうれしい。

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