フィリアの想い
サタナエルは大聖堂の屋根の上にいた。
サタナエルはずっとこの時を待っていた。
そう、エーリュシオンを破壊するこの時を。
サタナエルはシュヴェリーンを見おろす。
今からやろうとしていることはエーリュシオンに決定的な一撃を与えるだろう。
それを思うと、背中がぞくぞくする。
「フッフフフ……さあ、セリオン。どうする? 私を止めるには私を倒すしかないぞ?」
サタナエルが手を空にかかげる。
破滅へのカウントダウンは始まったばかりだ。
セリオンたちはテンペルに帰還した。
セリオン、エスカローネ、フィリア、アンシャル、誰一人として欠けていない。
「フィリア、無事か?」
セリオンがフィリアを気にする。
「うん、私は大丈夫」
「救出作戦は成功だな。私はスルトに報告に行ってくる。おまえたちは自由にするといい」
「アンシャルもありがとう。アンシャルの協力がなければ、フィリアを助け出せなかった」
「フッ、気にするな。それではな」
アンシャルは聖堂に向かって去っていった。
その時、セリオンは膨大な魔力を感じた。
「!? なんだ……この奇妙な感じは……」
「セリオン、あれを見て!」
「エスカローネ?」
セリオンが空を見ると、超巨大な隕石が現れた。
それは禍々しく、悪意を放っていた。
エーリュシオンに危機が訪れた。
「あれは……サタナエルのしわざか!」
「サタナエルはエーリュシオンを滅ぼすつもりなのよ!」
「あいつは言った、自分の目的はこの世界の破滅だと……それがあいつの答えか!」
「セリオン、どうするの?」
「わかっている。もうサタナエルを説得はできない。俺も腹を決めた。俺はサタナエルを倒す!」
「ねえ、セリオン?」
「なんだ、フィリア?」
「ちょっと時間をもらってもいい?」
「ああ、かまわないが?」
「私といっしょに教会まで来てくれる?」
「フィリア?」
「大事な話があるから」
「あ、ああ」
そう言うと、フィリアは教会に向かって行った。
「エスカローネ、いったい何なんだろうな?」
「ふーん、セリオンなんか知らない」
エスカローネがそっぽを向いた。
「エスカローネ?」
「セリオン、行った方がいいわ。フィリアは大切な話があるんだと思う」
「? どういうことだ?」
「もう……鈍いんだから……とにかく、セリオンは行けばいいの!」
「わかった。やれやれ、こんな非常時にどうしてフィリアは……」
「こんな時だからよ」
セリオンはフィリアの後を追って、教会へと行った。
教会でフィリアは祈りを捧げていた。
セリオンが扉を開けると、フィリアはひざまずいて、祈っていた。
セリオンはフィリアに近づく。
「フィリア……」
セリオンがフィリアに声をかける。
フィリアは祈ったままだ。
やがて、フィリアが立ち上がり、セリオンの方を向いた。
「セリオン……来てくれてありがとう」
「ああ。フィリアはどんな用事だったんだ?」
「最後に祈っておきたかったの」
「最後? 変なことを言うな」
「私はセリオンに幸せになってほしい」
「俺の手は血塗られている……そんな俺が幸せを求めていいのか?」
「エスカローネさんを大事にいてあげて」
「当然だ。俺はエスカローネを愛しているからな」
「最後のこれだけは言っておきたかったの」
「フィリア?」
「セリオン……」
フィリアがセリオンに抱きついた。
セリオンは目を大きく見開く。
この行動はセリオンには予想できなかった。
「セリオン……大好き……愛してる」
「フィリア……」
時間が止まった。
これはフィリアの告白だった。
セリオンは動揺する。
正直、どう対応したらいいのか分からない。
「すまない……俺はエスカローネを愛している……フィリアの想いには応えられない」
「うん、それはわかってるんだ」
それならどうして、フィリアはこんなことを……。
フィリアは自分の髪をほどく。
フィリアの緑の瞳にセリオンは引き込まれる。
セリオンはエスカローネがいなかったら、フィリアの想いに応えていたかもしれない。
だが、セリオンにはエスカローネがいる。
セリオンはエスカローネを愛している。
それは変わらぬ事実だ。
セリオンは同時に何人もの人を愛せるほど器用じゃない。
セリオンに愛せるのは一人だけだ。
「セリオンには私の想い……それを伝えたかった」
「断られると思っても?」
「うん、最初はね、いいなって思っていただけだったんだけど……そのうち、好きになった。気が付いたら、大好きになっていた。私の中で、セリオンはドンドン大きくなっていった。最後にそれだけは知ってもらいたかったの」
「フィリア?」
セリオンはフィリアが言っていることが分からない。
フィリアには何か悲壮なものがある。
それを感じる。
いったい、フィリアはどうしてしまったのだろう?
セリオンはどこか違和感を感じた。
「私は星の娘……星の娘はこの星の、この世界の巫女。世界そのものと交信できると言われているの」
「それはアニマ・ムンディか?」
セリオンはアニマ・ムンディという思想を知っていた。
世界には魂があり、生きているというのである。
「私は死ぬ。サタナエルに殺される」
「そんなことは俺がさせない!」
「もう、セリオンたら……そういうところだよ! だから、私はセリオンが好きになったの!」
フィリアはセリオンの胸に跳び込む。
再びフィリアはセリオンに包まれる。
セリオンはただ呆然とするしかなかった。
セリオンはフィリアを抱きしめたい衝動にかられた。
だが、それはできない。
その時、セリオンの唇に柔らかいものが押し付けられた。
フィリアがセリオンにキスをしてきたのだ。
セリオンはさらに混乱する。
「これは私のわがまま。セリオン……私のことも覚えていてね」
「どうしてそんなことを言うんだ? フィリアのことは俺が守る」
その時、扉が開いた。
そこにはサタナエルがいた。
「サタナエル!?」
セリオンはサタナエルに大剣を向ける。
「フィリア……迎えに来た」
「サタナエル……」
フィリアはサタナエルに近づいていく。
「フィリア、危険だ! そっちに行くな!」
セリオンは止めたが、フィリアはサタナエルのもとに行った。
「ごめんね、セリオン。サタナエルは私が止めるから……」
「サタナエル!」
セリオンがサタナエルに斬りかかる。
サタナエルはそれを野太刀で斬りはらった。
「セリオン……破滅へのカウントダウンは始まった。もうじき、超隕石がエーリュシオンに衝突し、世界は破滅を迎える。セリオン、どうする? おまえは見ているだけか?」
「そうはさせない!」
「なら、私のもとに来るがいい。私はおまえと決着をつけたい」
「この世界はどうなる?」
「それはおまえしだいだな。おまえが世界の破滅を防げるか、それが鍵だ。それではフィリア……行こうか」
「セリオン……」
「逃がすか!」
セリオンは大剣をサタナエルに振り下ろすが、サタナエルは影に吸い込まれていった。




