捕囚
セリオンとエスカローネは捕縛された。
二人はフィリアとは別々の場所に囚われた。
どうやら、今度の捕囚場所は地下らしい。
セリオンとエスカローネは手枷をつけられて、アドヴェント社の牢に入れられた。
少なくとも、セリオンとエスカローネはいっしょにいるわけだ。
「さて、どうしたものかな」
「サイジョウ博士にはやられたわね。セリオン……これからどうしようかしら?」
「そうだな。奴らの隙をうかがうしかないだろうな」
「うっふふふふ! セリオン・シベルスク、いいざまね」
「アゴスティーナ……」
そこにやって来たのはアゴスティーナだった。
彼女は勝ち誇ったような顔をしていた。
「あなたはフィリアを助けに来たようね。ふふふ、それにしても、あなた自身が捕まってしまうなんてなんてお馬鹿さんなのかしら? ぶざまにもほどがあるわ」
「友人を見捨てるよりも、目覚めはいい。俺はフィリアを見捨てない」
セリオンはフィリアを友人だと思っている。
セリオンは友人には信義を貫く。
フィリアが苦しんでいるなら、それを肩代わりしたいと思う。
フィリアが助けを求めているなら、助けるだけだ。
もっとも、ここから出なければ何もできないが。
「あっはははははは! 笑わせるわねえ! ここから出れると思っているの? 無駄よ。あなたの魔力はその手枷で封印されている。それでどうやってここから出られるというの?」
「さあな。俺は手を隠しているかもしれないぞ?」
「生意気な奴。潔く、絶望しなさい。それが正しい態度よ」
「俺は決して絶望しない。俺には希望がある」
「フン、そんなものまやかしよ。あなたは幻影を追い求めている」
「どうだろうな。幻影かどうかは試してみないと分からないぞ?」
「どうやらあなたとあたしでは会話が合わないようね。忌々しい」
「そうらしいな。なら、俺の尋問などやめたらどうだ? さっさと帰れ」
「そういうわけにはいかないの。捕虜の尋問は上位者が行うというのが、アドヴェント社のやり方なのよ」
「アドヴェント社か……フョードルは病に侵されているらしいじゃないか。フョードルがいなくなったら、アドヴェント社も終わりか?」
「そうかしら? アルカージー副社長がアドヴェント社を率いるわ。新体制の幕開けよ」
「アルカージー……フョードルの息子か。いいのか?」
「何が?」
「年下の若造に命令されるんだぞ? 反発はないのか?」
「おあいにく様。副社長はその経営センスによって、実績を出しているわ。副社長の社長就任に反対する者はいないの」
「そうか。アドヴェント社は揺るがないわけか」
「そうそう、あなたに提案があってあたしはここに来たんだけど」
「提案?」
「あなた、アードラ―の戦士にならない?」
「何だと?」
セリオンは耳を疑った。
それはセリオンにアドヴェント社に来いと言っているのだから。
セリオンはテンペルの戦士だ。
アドヴェント社に忠誠を誓うことはない。
「断る。俺はテンペルのシベリア人だ」
「そう。まあいいけど。考える時間はいっぱいあるものね。それじゃあ」
そう言うとアゴスティーナは去っていった。
「セリオン……」
「安心しろ、エスカローネ。俺はテンペルのみんなと共に在る。俺はアドヴェント社に移籍したりはしない」
「君たちが侵入者か?」
「!? アルカージー・フョードロヴィチ……」
「ほう……私のことを知っているのか。いかにも、私がアルカージーだ。それにしても、フラウ、あなたは美しい。あなたのような人にこのような環境を体験させることは遺憾ですな」
エスカローネは嫌な顔をした。
それはアロガントと同じようなことを聞いたからだろう。
アルカージーは女好きという傾向を父から受け継いでいた。
「フィリアをどうしているの?」
「ははは、さすがに私でもそれは答えられませんな。できることなら、あなたをフィリアのもとまで連れて行ってあげたいのですが、私も立場上、そういうわけにはいかなくてね」
「フィリアを返して」
「いくらあなたの願いとは言えそれはかなえられません。あきらめてください」
「俺たちをどうするつもりだ?」
「セリオン・シベルスク殿ですね? 別にどうもしませんとも。あなたがたには頭を冷やしていただく。それまではこの牢でおとなしくしていることですな」
「おまえが次のアドヴェント社の社長か? おまえに経営ができるのか?」
「愚問ですな。私は今、営業部門にいて、そこで利益を出している。本当なら私はマーケティングをやりたかったのですが、父上からの命令でね。仕方なく、営業をやっているんだ」
アルカージーが肩をすくめた。
「私が社長になれば、私はこのアドヴェント社をさらに大きくして見せる。今の状態に甘んじるつもりはない。アドヴェント社は偉大な企業になるのだ」
「ビジョンや、ミッション、戦略はあるというわけか」
「その通り。父上も意外と早く消えてくれるようだし、私が社長になる日も近い」
どうやらアルカージーは父親の死を悼むつもりはないらしい。
むしろ、父親の死を望んでいるかのようだ。
「それではお二人とも、私は忙しいのでこれにて」
そう言うと、アルカージーは去っていった。
暗い空間にセリオンとエスカローネが残された。
「ぐはっ!?」
「があっ!?」
「? なんだ?」
「おまえが捕らわれるなど珍しいことがあるようだな」
「!? サタナエル……」
「警備の兵士を殺したのね……」
「何をしに来た? おまえの目的は何だ?」
「私の目的か。それはこの星を滅ぼすことだ」
「星を、滅ぼす?」
「そんなこと不可能だわ!」
「不可能ではない。この世界エーリュシオンは破滅を迎えるのだ」
「おまえ一人で何ができる?」
「セリオン、もう一度言おう。こちら側に来るつもりはないか?」
「断る!」
セリオンは即決した。
セリオンは迷わなかった。
セリオンはこの世界を愛している。
それゆえに、セリオンはこの世界を守る。
「俺は光の戦士だ。闇の側にはいかない」
「闇はいいぞ? 力がみなぎるからな」
「いや、闇の力は偽りだ。そんなものに俺は頼らない」
「まあいい。これをやろう」
サタナエルはセリオンに何かを投げつけた。
それは鍵だった。
「何が狙いだ?」
「フフフフ、フィリアは地下最深部ユグドラシル地区にいる。助け出すなら、急ぐんだな」
「おまえはフィリアを俺たちに助け出させたいのか?」
「フン!」
サタナエルが刀を振るった。
すると、牢が斬られて解放された。
「私も古巣のアドヴェント社には用があってな。それではセリオン、また会おう」
サタナエルは影の中に消えた。
「……」
「セリオン?」
「いや、迷っている暇はない。さっそく、脱出しよう」
セリオンとエスカローネは脱出して、エレベーターで地下最深部へと向かった。




