拉致
フィリアは正門の前でたたずんでいた。
セリオンに何も言わずに出て行くのはつらい。
ただ、フィリアにも仕事があるし、いつまでも休んでいるわけにはいかない。
アドヴェント社は自分に手をかけるつもりはないようだし、これならテンペルに守ってもらわなくても問題はないだろう。
ただ、フィリアにはその踏ん切りがつかなかった。
「はあ……どうしたものかなあ……」
フィリアのためらいはセリオンのことだ。
自分が強くセリオンを想っているのは間違いない。
だが、セリオンには恋人がいる。
自分の想いはセリオンにとって迷惑ではないか。
そう思ってしまう。
このまま出て行くのがいいだろうか。
これ以上、セリオンのもとにいたら、彼を本当に好きになってしまいそうだ。
そんなことを考えていた時、フィリアの目にある婦人が映った。
婦人は苦しそうにしゃがみこんでいる。
「!? 大丈夫ですか!?」
フィリアは婦人に近づいた。
「今医者を連れてきます! ここで待っていてください!」
「いえ、その必要はありません」
「え?」
フィリアはその瞬間、腹部に打撃を感じた。
「あ……」
フィリアはそのまま気絶した。
「ふう……ターゲットを確保できたわね。ヴェローニカ、車を回して」
それは変装したシオリだった。
シオリはヴェローニカに連絡すると、フィリアを車に乗せて、去っていった。
その日、フィリアはアドヴェント社にさらわれた。
「アンシャル、フィリアがさらわれたというのは本当か!?」
セリオンは勢いよく、聖堂執務室を開けた。
中にはスルトとアンシャル、そしてエスカローネがいた。
「セリオンか。フィリアという少女がさらわれたのを一人の騎士が見た。これは事実だ」
スルトが厳粛に告げる。
「フィリアはアドヴェント社にさらわれたのだろう。正確にはアドヴェント社のエージェントだろうが……」
「エスカローネ、フィリアはなぜ、一人だった?」
「ごめんなさい、セリオン。彼女は一人になりたいって言ったの」
「一人、どうしてだ?」
「それは……自分の気持ちを整理したかったんだと思う」
「気持ちの整理?」
「彼女、セリオンのことを好きになりかけていたのよ」
「彼女が、俺を?」
セリオンにはそれはよくわからなかった。
セリオンは恋心には疎い。
セリオンはフィリアには友人としてふるまっていたつもりだったが……。
「それで、これからどうするんだ? フィリアをこのままにしておくのか?」
セリオンはスルトとアンシャルに尋ねた。
「彼女は『星の娘』だという。アドヴェント社はそれを知っているようだ」
「私たちとしても、彼女の存在は見過ごせない。そこで私たちは彼女を奪還することにしたんだ」
「俺が行く。必ず、フィリアを連れ帰る」
「私も行くわ」
「エスカローネ?」
「彼女を助けるには仲間が必要でしょ?」
「私も支援のため、行くことにしたよ。まあ、車で連れて行くだけだが。これが偽造IDだ。これを使えば、アドヴェント社に入れる」
「ああ、ありがとう」
「それでは準備をしておくんだ。四人乗りの車で行くぞ」
「ああ」
「わかりました」
セリオンとエスカローネは執務室から出た。
「? どうした、エスカローネ?」
エスカローネが不安そうな顔をしているのがセリオンにはわかった。
「ああ、セリオン!」
エスカローネはセリオンに抱きついてきた。
セリオンはそれを受け止める。
「どうしたんだ?」
「私、フィリアにセリオンを取られたら、立ち直れない……」
「そんなことを気にしていたのか」
「私だって、嫉妬くらいするのよ?」
「すまない。心配をかけたようだな。俺が愛しているのはエスカローネだけだ」
「セリオンはフィリアにかかりきりだと思う。あれじゃあ、フィリアがセリオンを好きになってもおかしくないわ」
「あ、ああ……それは悪かったな」
「ううん、いいの。セリオンはそういう性格でしょ?」
「俺もエスカローネの気持ちにまで注意が回らなかった」
「私はセリオンの気持ちをコントロールしたいわけじゃないの。ただ、私だけを想ってほしい。これって傲慢かしら?」
「いや、おかしくない。俺にとって、フィリアは妹みたいなものだ。だから、シエルやノエルのように考えてしまう」
「ねえ、セリオン。出発まで時間はあるわよね?」
「ああ」
「じゃあ、抱いて。私はセリオンに愛されなかったら駄目になっちゃう」
「わかった」
セリオンはエスカローネに口づけした。
セリオン、エスカローネ、アンシャルは車でアドヴェント社の本社ビル地下駐車場に車を停めた。
アンシャルは車で待機し、セリオンとエスカローネが偽造IDでアドヴェント社に侵入する。
フィリアを見つけ出して、アンシャルと合流し、そのまま離脱する。
そういう計画だった。
「それでは、セリオン、エスカローネ、健闘を祈るぞ」
「ああ、アンシャルは大船に乗った気持ちでいてくれ」
「私たちがフィリアを助け出します」
アンシャルはほほえんで。
「ああ、期待しているよ。おまえたちならフィリアを助け出せるだろう。それではミッションを発令するからな」
「「ミッション、了解」」
セリオンとエスカローネはアドヴェント社のエントランスホールに入った。
エントランスホールは広大だった。
さすがアドヴェント社のことはある。
大企業の入口にぴったりだ。
「さて、俺たちはまず受付でフィリアのことを聞こう」
「ええ、そうね」
「すいません」
「!? はい! 何か?」
受付嬢はなぜかハイテンションで、答えた。
セリオンは何もしていないのだが。
セリオンはいぶかしむ。
「フィリアという女性を探しているのですが?」
「フィリア? さあ、受付にはそのような名前は聞き及んでおりません」
「ここに来ているはずなんです」
「申しわけありません。ご期待には応えかねます。ところで、あなたは彼女はいますか!」
「は?」
「この後、ご予約はありますか?」
受付嬢がセリオンにマシンガンのような質問を浴びせる。
セリオンは困惑した。
「あ、いえ、その……」
「私が彼の恋人です! そういうのは失礼ですよ?」
エスカローネはセリオンの腕に自分の腕をからませた。
まるで自分のものだと主張するかのように。
「あら、ごめんなさい。先客がいたのね。それではアドヴェント社をお楽しみください!」
セリオンは受付から離れた。
「ふう……いったい何だったんだ?」
「セリオンは私のものなんだから、ね?」
「あ、ああ……」
エスカローネは独占欲が強いらしい。
「これからどうするか?」
「このIDはアードラ―の所属と書いてあるわ。なら、一度アードラ―のフロアで情報を集めてみない?」
「それはいい手だな」




