ヴェローニカとシオリ
「それではヘクバ里長、俺たちはシュヴェリーンに帰る」
「会えてうれしかったです」
セリオンとフィリアはバイクにまたがって言った。
二人はこれから、シュヴェリーンに帰るつもりだった。
「おふたりとも、ごきげんよう。Auf Wiedersehen!」
セリオンとフィリアは里から去っていった。
二人はこれからのことを話した。
「フィリアはこれからどうするんだ?」
「うーんとねえ。私、セリオンが暮らしているところに興味があるな」
「テンペルにか?」
「うん、そう!」
「まあ、俺の関係者ということなら入れるが……そんなに興味があるのか?」
「もちろん! だって、私、セリオンのこと何も知らないし。セリオンがどんなところで働いているのか、知りたいな」
「わかった。まずはエスカローネを紹介しよう」
「それって、セリオンの恋人の?」
「ああ、そうだ。俺の一番大切な人だ」
「ふーん、そーなんだ。つまんない」
「? 何か言ったか?」
「べっつに―」
「……どこかトゲがあるな」
この後、二人はしばらく会話しなかった。
セリオンたちはテンペルに戻ってきた。
セリオンはテンペルに入る前にエスカローネに電話する。
「エスカローネ?」
「セリオン、帰ってきたの?」
「ああ、そうだ」
「私はセリオンに会いたいわ」
「俺もそうだ。ところで」
「何?」
「紹介したい人がいる。正門前まで来てくれるか?」
「? わかったわ」
セリオンとエスカローネは正門で待ち合わせをした。
「セリオン! と……どなた?」
「私、フィリアって言います。セリオンとはお友達です。エスカローネさんですよね? 初めまして」
「初めまして。エスカローネ・シベルスカです。セリオンの恋人です」
「それは聞き及んでいます」
「ふふふ」
「うふふふ」
セリオンは二人から何か恐ろしいものを感じた。
二人を会わせたのは失敗だっただろうか?
セリオンは一抹の不安を覚えた。
「フィリアさんはお客様ということね。それなら私がテンペルを案内するわ」
「フィリア、で結構ですよ?」
「そう、フィリア。なら、敬語は抜きでいいわ。私のこともエスカローネと呼んで」
「なら、エスカローネ、よろしくね」
「ええ、よろしく」
その光景を遠くから眺める二人組がいた。
「ふうう……修羅場にはならなかった、みたい。恋人と新しい女、けっこう期待していたんだけどなあ」
「よしなさいよ。彼らにも事情があるんでしょ?」
「でも、シオリ(Shiori)? あのセリオン・シベルスクを巡って恋のバトルが勃発するかもしれなかったんだよ? 興味あるじゃん!」
「ヴェローニカ(Veronika)、あなたはそればっかりね」
シオリがため息をつく。
この二人はアドヴェント社のエージェントで、情報部門クサナギの部下である。
ヴェローニカは肩まで金髪を伸ばしていて青いスーツを着ていた。
一方、シオリは黒い髪にウエーブをかけ、青いスーツを着ていた。
この青いスーツは、情報部門の制服だった。
ヴェローニカはフィリアの監視というより、セリオンを巡る恋に関心があるようだ。
優秀なエージェントではあるが、ヴェローニカにはどこか甘さがあった。
シオリは任務は任務と割り切れる性格だが、それで何でもできるというわけではない。
この二人は女性同士ということで、いっしょペアを組むことが多い。
「くー! これ以上の展開はここからは見えなさそう! つまんなーい!」
「ヴェローニカ、いい加減にしなさい」
「何がつまらないんだ?」
「だって、あのセリオン・シベルスクだよ? それを巡る恋のバトルなんてそう見れるものじゃないでしょ! ああ! こんな任務なんて!」
「!? ヴェローニカ!」
「え?」
「おまえたちはアドヴェント社のエージェントだな?」
「セリオン・シベルスク!? いつの間に!?」
「いつから聞いていたの!?」
シオリとヴェローニカは驚いた。気づいたら、セリオン・シベルスクが背後にいた。
まったく気配を感じなかった。
二人とも動揺を隠せない。
「おまえたちは相変わらず、フィリアを監視しているのか。その制服、アドリアーノやマクシムと同じだな」
「先輩たちを倒したのは知っているよ!」
ヴェローニカが拳を構える。
だが、セリオンは涼しい顔だ。
「やめておけ。おまえでは俺に勝てない」
「そんなのやってみなきゃ……あ……」
ヴェローニカが気づくと、セリオンの大剣が彼女の顔に当てられていた。
あまりに速い、攻撃だった。
シオリも、気づいたら、すでにセリオンの大剣があった。
「さっさと帰れ。ここはおまえたちの敵地だと考えろ」
「くっ!? このまま帰れるわけ……」
「ヴェローニカ、いい加減にしなさい!」
「だって、シオリ!」
「ここは引くわよ」
シオリは冷静に判断した。
ここは二人がかりでもセリオン・シベルスクを倒すことは不可能だ。
「くっ!? 覚えておきな!」
ヴェローニカは捨て台詞を残して去った。
シオリも撤収を迷わなかった。
エスカローネとフィリアはおふろに入っていた。
テンペルには公衆浴場があって、時間帯によって好きに利用できる。
フィリアはエスカローネに対抗心を持っていた。
巡っているのはセリオンである。
フィリアはセリオンのことを気にかけるようになっていた。
まだ、恋というほどではない。
ただ、漠然とセリオンに惹かれている自分がいる。
それは自覚していた。
だが、セリオンには恋人がいる。
フィリアはエスカローネの裸を見て、息をのんだ。
あまりにも、すてきなプロポーション、そしてスタイル。
セリオンはこんなスタイルがいい人が好きなんだろうか?
フィリアは自分のやや貧相なスタイルには自信を持てなかった。
少なくとも、体で勝負したら自分は絶対に負ける、それは確実だった。
「エスカローネは、いつからセリオンと付き合っているの?」
「うーん、二年前からね」
「そうなんだ。もっと長いかと思ってた」
「私とセリオンは幼なじみで、兄妹でもあるから」
「それっていつからら?」
「生まれてからよ」
「そんなに!?」
エスカローネは長い金髪を丁寧に洗っていた。
フィリアから見ても、エスカローネは魅力的だった。
特に、ストレートの金髪はとても輝いて見えた。
自分にはそれに対抗しうる魅力はあるだろうか?
「私はずっとセリオンのことが好きだったけど、セリオンは大人になるにつれて自分の気持ちに気づいたみたい」
「小さいころはそうじゃなかったんだ?」
「そうね。私はずいぶん、嫉妬させられたものよ」
こんな美人に嫉妬させるなんて、セリオンは何て悪い人だろう。
「フィリアはセリオンのことが好きなの?」
「それは……わかんない。セリオンは今までにない人だから……」
「フィリアは恋をしたことがないのね」
「そうなんだ。私にはそういう人はいなかったから……」
フィリアは自分の気持ちが分からない。
セリオンを好きになっているのか、そうでないのか。
恋とはどういうものだろう?
それきり二人に会話はなかった。
フィリアはテンペルに泊まった。




