ニンフの里
セリオンはフィリアと共にバイクでニンフの里に向かっていた。
風が二人に吹き付ける。
荒野をバイクは進んでいた。
「ねえ、セリオン?」
「何だ?」
セリオンの背中からフィリアが声をかける。
そこには不安が伴っていた。
「私、ニンフの里で受け入れられるかな?」
「どうしてそんなことを言う?」
「だって、私、半分だけだから……」
「ニンフは閉鎖的な種族なのか?」
「そうだね。あんまり開放的じゃないかも」
「でも、フィリアは行きたいんだろう?」
「うん、私ね、お母さんのことを知りたいんだ」
「母を?」
「そう、私のお母さんはね、アリア(Aria)って名前なの」
「アリアか……いい名前じゃないか」
「私もそう思う」
フィリアが笑った。
フィリアは母との思い出を大切にしている。
きっといい母だったのだろう。
母親について語るフィリアは楽しそうだ。
「だが、ふしぎなものだな」
「ふしぎ?」
「ああ、そんな人がアドヴェント社の研究員と結婚するとはな」
「お母さんはね、アドヴェント社に協力していたの」
「どうして協力したんだ?」
「それはね、ニンフのことをわかってもらいたかったんだと思う。私は小さいころはアドヴェント社で過ごしたんだよ」
「そういえば、フィリアには義母がいたな?」
「ああ、エマさん?」
「そうだ」
「エマさんは私を引き取ってくれたんだ。いっしょにネーベルハイムで暮らそうって。サタナエルがあんなことをしなければ、今でもいっしょにいたかもしれない」
「そうか……」
サタナエルの凶行は記憶に新しい。
フィリアもサタナエルがあのようなことをした、それを受け入れられずにいる。
「ごめんね。辛気臭くなっちゃったね」
「心配するな。俺は問題ない。ニンフの里は荒野を突っ切ればいいんだな?」
「うん、そう。お母さんからニンフの里の場所は教えられていたんだ」
「仲間と受け入れられるいいな」
「そうだね」
「とはいえ、俺たちだけというわけにもいかないらしい」
「え?」
「後ろを振り返ってみろ」
「後ろ?」
フィリアは後ろを振り返った。
「セリオン、何もないよ?」
「上だ」
「上?」
そこにはアドヴェント社のヘリコプターがあった。
それはセリオンたちにくっつかず、距離を取っていた。
「どうやらこの旅はアドヴェント社にマークされているらしい」
「うあ、ほんとだ。もう、しつこいなあ」
「俺には分からない」
「え?」
セリオンにはどうしても腑に落ちないところがあった。
いくらフィリアがハーフニンフでも、ここまでアドヴェント社は介入するだろうか?
セリオンにはそれが不気味に感じられた。
セリオンは自分が知らない秘密がフィリアにあるのではないかと思った。
それが何かは分からないが……。
「どうして奴らはフィリアを狙うんだ?」
「それは……私が『星の娘』だから……」
「星の娘?」
「あ、里が見えてきたよ! この話はここまで!」
「ああ……」
セリオンたちの上空で、ヘリコプターが旋回していた。
そのヘリコプターにはアドリアーノとマクシムが乗っていた。
「へっへへへへ、このまま行けば、フィリアがニンフの里に案内してくれるなあ?」
「そろそろ報告を入れたほうが良さそうだな。こちらマクシム。クサナギさん、どうぞ?」
「ああ、私だ」
「目下、フィリアはニンフの里へ向かっています」
「そうか。くれぐれもフィリアに傷はつけるなよ?」
「わかっております」
「特に、アドリアーノ、おまえだ」
「はあ? 俺がなんかしたんすか?」
「戦いにばかり関心を向けないで、諜報任務に専念しろ」
「信用ないっすね。俺は暴走したりしないですよ」
「おまえには信用がない」
クサナギが冷静に告げる。
クサナギの声からは任務に集中しろと言っているようだ。
「はあ……マクシム、アドリアーノの暴走は許すなよ? もし、ニンフを攻撃してみろ。おまえの責任にもなるぞ?」
「はっ、わかっております」
「血の気がある奴は信じられんからな」
「ひっでえ! それでも俺たちの上司ですか、クサナギさん!」
「上司だからこそ、おまえたちの暴走に目を見張っているんだ。この件はアゴスティーナが動くようだ」
「はい? あの年増女がですか?」
「これはアゴスティーナ殿、年増とは失敬ですな。部下には責任を取らせます」
「げっ!? まさか、この連絡をあの女は聞いて!?」
アドリアーノから血の気が引いた。
顔が真っ青になる。
アゴスティーナは冷血女として有名だった。
へたなことを言えば、部門を越えてどうなるか分からない。
「冗談だ。アゴスティーナはこの連絡を聞いていない」
「はあ……心臓に悪いっすよ、クサナギさん……」
アドリアーノは心底から安堵した。
「兵器開発部門が今回のミッションを担当することになった。我々はただ見ていることしかできん」
「わかりました。連絡終わります」
マクシムが連絡を切った。
アドリアーノがアイス棒を口にくわえる。
「やれやれ、今回は楽しめないか……まあいいさ。しっかり見物させてもらおうさ」
セリオンとフィリアはある集落にたどり着いた。
家は建っているがまばらだ。
家屋は木族建築のようだ。
ニンフは自然と共に暮らす種族である。
基本的にニンフは女性しかいない。
人間と交わっても、女性しか生まれてこない。
そんな同族とだけ暮らすニンフは閉鎖的だと言われていた。
セリオンはバイクを集落の中で大きな家の前で止める。
「ここが、ニンフの里か」
「ここが、お母さんの故郷……」
「誰ですか、あなたがたは?」
そこに現れたのは、一人の大人の女性。
「俺たちはシュヴェリーンからやって来た」
「私はアリアの娘、フィリアと言います。あの、あなたは?」
「私はヘクバ(Hecuba)。この里の長を務めています。あなたはアリアの娘なのですか?」
「母を知っているのですか?」
「アリアは私の姪です。そうですか。それではあなたがたをもてなしましょう。この家に入ってください。お茶くらいなら出しますよ」
「はい……」
セリオンはここに来て、自分の存在が場違いに思えてきた。
「セリオン?」
「俺も聞いていい話なのか?」
「フィリアはどうなのです?」
「私は……」
「あなたが決めなさい」
「私はセリオンにも聞いてほしい」
「それじゃあ、俺も同席する」
「それでは、どうぞ」
セリオンたちはヘクバの家に入った。




