マクシム
セリオンはフィリアやテオと共に孤児院に戻ってきた。
フロム院長が出迎えてくれた。
「みなさん、よく戻ってきました。テオ……あなたは反省しなければなりませんよ?」
「うん……」
テオはバツが悪そうに言った。
どうやら反省はしているらしい。
「セリオンさん、あなたのおかげでテオを救出できました。重ねて感謝します」
「気にすることはない。俺が勝手にやったことだ」
「そこのおまえ、おまえがセリオン・シベルスクか?」
そこに兵士を従えた、青いスーツの男が現れた。
頭は禿頭で、サングラスをつけている。
体つきは筋肉質で、格闘家だろうか。
「ああ、そうだ」
「アドリアーノをやったのはおまえか」
「そういうおまえはアドヴェント社の者か」
「俺はマクシム(Maksim)。アドヴェント社のエージェントだ」
「そのエージェントが俺にいったい何の用だ?」
「フン……」
マクシムはフィリアを見た。
フィリアがセリオンの背に隠れる。
セリオンはこの行動から、マクシムの意図を悟った。
どうもこの男もフィリアを狙っているらしい。
「おまえもフィリアが目的か」
「フィリア、新しい友達ができたようだな?」
「マクシムには関係ないでしょ?」
「で、大勢で何しに来たんだ?」
「俺たちはなめられるわけにはいかない」
マクシムが格闘の構えを取った。
マクシムはセリオンと戦う気らしい。
「アドリアーノのかたき討ちか。いいだろう。相手になってやる」
セリオンは大剣を出した。
「フィリア、子供たちを建物の中に。こいつらは俺が追い払う」
「……うん」
フィリアはしぶしぶ、セリオンの提案を受け入れた。
「うおおおおおおお!」
マクシムが雄たけびと共に突っ込んでくる。
セリオンは大剣でガードする。
マクシムはセリオンの大剣を打撃する。
さらに蹴りだ。
「足癖が悪いな」
「フン、これが格闘術だ。はああああああ!」
マクシムは全身から闘気を放出した。
マクシムが出しているのは土の闘気だ。
「それは?」
「これは金剛気! これならおまえと対等に戦えるぞ、セリオン・シベルスク!」
マクシムが間合いを詰めてくる。
マクシムは踏み込みつつ、金剛気のパンチを出す。
セリオンは大剣でガードしたものの、衝撃がセリオンに当たる。
「くっ!?」
「ほああああああ!」
マクシムの怒涛の連続攻撃がセリオンを襲う。
セリオンは横なぎに薙ぎ払った。
「そんなもの!」
マクシムは金剛気でセリオンの斬撃を受け止めた。
「無駄だ。きさまの攻撃は俺には通じん。このままボロボロにしてやろう!」
マクシムがさらなる攻撃を加えてくる。
セリオンは大剣を振りかぶった。
マクシムはそれを素手で止める。
真剣白刃取りだった。
マクシムはセリオンの大剣を放り投げる。
「フッ、これさえなければきさまなど……」
マクシムはセリオンから大剣を奪ったことが勝利を確実にしたと思ったのだろう。
「大剣さえなければ俺に勝てると思ったか?」
今度はセリオンが蒼気を放出する番だった。
セリオンは拳による連打をマクシムに加える。
それを見てマクシムは驚嘆する。
「何!?」
セリオンは蒼気をまとった拳でマクシムに攻撃した。
マクシムは防戦に追い込まれる。
「ぐっ!? これは……」
「奇遇だな。俺も拳法が使えるんだ」
セリオンは蒼気でマクシムを追いつめる。
テンペルでは格闘技のレッスンもある。
セリオンは拳でも戦うことができた。
セリオンはそれに蒼気をドッキングさせて攻撃してくる。
「蒼波!」
セリオンが蒼気の波をマクシムに叩きつける。
「うおおおおおおおお!?」
マクシムは吹き飛ばされて、兵士たちに激突した。
「ぐうっ!? これほどとは……」
「アドヴァンと社のエージェントなんて見掛け倒しか?」
「く! きさま!」
マクシムはボロボロだ。
セリオンの攻撃は金剛気だけでは防ぎきれなかった。
「このままでは終わらん!」
マクシムが突っ込んできた。
セリオンはそれを冷静に蒼気の拳で弾き飛ばす。
「うがあああああああ!?」
マクシムが吹っ飛んだ。
戦いはセリオンの勝ちだ。
「マクシムさん!」
兵士たちが失神したマクシムを連れて去っていく。
アドヴェント社側はもはや戦意を喪失していた。
セリオンが大剣を拾う。
「アドヴェント社か……いったいなぜ、フィリアを狙う?」
セリオンはそれを考えた。
アドヴェント社はいくらフィリアがハーフニンフだとはいいえ、それだけでフィリアを狙うものだろうか?
それはセリオンの疑問だ。
まああいい。危機は去った。
セリオンはエスカローネに電話をかけた。
「……というわけで、今日はこっちに泊る。心配はいらない」
「ええ、わかったわ。セリオンらしいわね」
「エスカローネ」
「ん? 何?」
「愛している」
「ふふっ、私もあなたを愛しているわ」
「ライザや、ナターシャによろしく」
「ええ、二人には伝えておくから」
「それじゃあ切るな」
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
セリオンはスマートフォンをしまった。
「誰と話していたの?」
「フィリアか」
そこにフィリアが現れた。
時刻は夜、もうそろそろ眠る時間だ。
「あ、女の人でしょ?」
「あ、ああ」
「ふーん、そーなんだー」
「フィリア?」
「もしかして、恋人?」
「ああ、まあな」
「そうなんだ。セリオン、恋人がいるんだ。そうだよね、セリオンみたいなかっこいい人は女の人が放っておかないもんね」
「フィリアは誰かを好きになった時はあるか?」
「うーん、それがよくわからないんだよねえ……」
フィリアは縁側に腰かけた。
「人を好きになったことがないから、私には分からないかな」
「いずれフィリアにもわかる時が来るさ」
「そうかな? ねえ、セリオン。私のわがまま聞いてくれる?」
「ああ」
「私ね、ニンフの里に行きたい」
「ニンフの里?」
「そう。母の故郷なんだ」
「母の?」
「私はもっと自分のことを知らなきゃいけない。そう思うの」
「ニンフの里か。検索できるといいが」
「ニンフはね、自然と共に在るんだよ」
「自然と共に?」
「現在の物質文明は自然を搾取しているから。きっと何か見つかるはずだよ」
「わかった。俺がおまえをニンフに里に連れってってやる」
「ありがとう、セリオン! じゃあ、明日、ね? おやすみ」
「ああ、おやすみ」




